69
ハッピーエンド
確かにそうかもしれない。魔王は元通りの人間に戻り、彼を救った聖なる力を持つ王女様がいる。二人は両想いできっとこのまま結ばれる。そして二人のことを語るのに必要な別世界から転生した勇者。勇気がある素晴らしい者だと語り継がれるのだろうか。
悪者はどのように言われるのだろう。隣国を滅ぼし王子を魔王に変え、彼に想いを寄せていた王女を殺そうとした神官長。王女の妹が好きだったので王女は邪魔に思っていたそう、なんて身の程知らずでアホな人なのか。きっと極刑が待っているに違いない。
でも、じゃあ影で全てを操ろうとしていた者は?味方なのか悪なのか。元はと言えば彼女が引き起こした事態で、大人しくしていればこんなことにはなってなかった。悪の中でも極悪。私はこれからどうするんだろう。
魔王からオリヴァーへと戻り、しばらくこの幸せを噛み締めようと皆んなで抱き合っていた。3人はとても幸せそうに、1人はなんとも言えない表情で。レティア王女が幸せになっているのだからこれが一番良い結末のはず。そうなんだけれど、
「セシル?」
胸に巣食う罪悪感。申し訳なさと、自分は振り向いてもらえなかった失恋のショック。自分だけが場違いな感情を抱いている。色々相まって、気づいたら離れていた。
「リ、リックを確認しませんと。どうなったか、また悪さをしたら大変ですから」
居心地の悪さから適当に理由をつけてこの場から離れようとする。本当なら確認すると言い訳をついてこのままどこか遠くへ逃げたい。
「はっ、確かに。セシルの言う通りじゃない。リックがどうなったか見ないと」
「確かにそうですね」
自分一人で行こうと思ったのに二人も賛同者が出てしまった。レティア王女もトウマ君もこう言うところが良いところだし、この察しの悪さが悪いところだ。レティア王女は私が告白したこともすっかり頭から抜け落ちているのだろう、天然なのかバカなのか。でもここが彼女のよかったところで好きだった。でも、あれだけ幸せそうな彼女を見て本当に好きなのか段々とわからなくなってくる。だからこそ、少し離れようと思ったのに。
「いいや、レティア。君は私のそばから離れるな」
「えっ」
「この満身創痍の私を置いて他の男の所は行くのか?」
「他の男っていうか、そうだけど、、。なんか違う」
「二人は待っててください。僕とセシルさんで行きます。良いですよね、セシルさん」
「え、ええ」
私のことを考えたのか、それともレティア王女と離れたくないというお花畑の考えなのか。どちらにしろ都合が良い。もしオリヴァーの計らいであったとしたら悔しいが。とりあえず二人を残してリックを探す。
「確かここら辺に飛ばされていたような」
「あ、あそこ」
トウマ君が指を指した先の茂みに人が倒れている。急いで駆け寄り確認する。まだ死んではいないようだ。ただ、体は傷だらけで気を失っている。おそらく内臓とかも酷くやられているだろう。回復には時間がかかりそうだ。むしろ生きている方が奇跡に近い気がする。
「一応生きてましたね」
「よかったです。流石に死ぬのは悲しいんで」
顔をくしゃりとさせて笑う。一度日本で辛い目にあっているからこそ死というのは色々と考えてしまうのだろう。何も思わなかった私は冷たいのだろうか。でも、そうか、生きていたか。
「私は、終わりですね」
「セシルさん?」
ぽつりとつぶやいた独り言。しっかりと聞き取れたのか不思議そうに私を見るトウマ君。
「意識が戻り回復すれば事情聴取が行われるでしょう。私が彼を裏で操っていたのも全てバレる。もう言い逃れもできない。ルシアンだって殺した」
自嘲的に笑う。全て、終わり。もう、いいや。
「一旦皆んなでサヴァニアに帰りましょう。そこで、全て話します。そして罪を、認めます」
改めて遠くから見て思った。私たちが離れてもずっと二人で抱き合う姿。レティア王女の幸せそうな笑顔。そうだ、これが見たかった。これのために私は頑張ったんだ。私のハッピーエンド。結局私が入る隙間もなかった二人だけの空間。
悔しいな、悲しいな
でもどうしてだろう
心は暖かかった
ツゥと流れてきた涙を拭き取らずただただ抱き合う二人を眺めるしかできなかった。




