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王の末路


鎖を駆逐した大賢者は満足そうに話しかけてきた。


『感謝します主、また魔法を存分に使えるとは思ってもみなかったので』


『あぁ、そりゃ良かった、あとご苦労さん、あのアホと訳の分からん鎖を処分してくれて助かったよ』


『いえ、礼など勿体ない』


『さて、そろそろ俺もルーシー達を追いかけようと思うんだが、さっき大賢者の夢みたいなのに出てきた『転移』の魔法は使えるか?』


あの光景は主にも見えていたのですね、ならローレライの事も見えていた筈ですが……何も聞かないのは主の心遣いでしょうか。


つくづく思う、本当に優しい子だと。


『はい、可能です、私は大賢者。そんなもの児戯にも等しい、では飛びます『転移』』


大賢者はルーシーとアーシャの居場所を探知し、『転移』を発動させた。

かなりの距離が空いていた筈だが、そんな事は関係ないらしい。


つくづく思う、本当に俺には過ぎた力だと。








★★★


俺は逃げていた、プライドも何もかも全てを捨て去って、国を国民をも見捨てて全速力で逃げていた。


今の俺の感情は恐怖ただそれだけだった。


魔王に通ずる男が解放されたと思えば、それを相手に無双する同級生……怖くない訳がない。


そんなもの怖いに決まっている。


大口を叩いていたあいつらも瞬殺され、惨たらしく殺される始末だ、こんな理不尽あってたまるか!と叫び散らしたくなるが、今はその時間すらも惜しい。


今はただ自分の命を守る為に逃げなければならない。


遠くへ、もっと遠くへ、あいつらの手が届かない場所へと。


どれぐらい走っただろうか、勇者の馬鹿げたステータスに任せた全力疾走だ……


多少の差はついただろうか……


俺は途切れた息を整える為に頭を上にあげた、そこには言葉で形容しがたい美があった、いや存在した。


闇夜に映える美しい銀髪に深紅の瞳、その服装も相まって俺はこんな感想を抱いた。


「貴方は神か……」


なんとも馬鹿げているが、俺にはそう見えてしまった。


「あははは、神、ね。まぁ確かに僕達は君に死を告げる死神なのかもしれないね、そう思わない?アーシャ」


銀髪の少女は隣にいる、小さな少女をおんぶしているエルフの女にそう問いかける。


「えぇ、そうですね……?どうやら来たみたいですよ」


エルフの女がそう言うと同時に、二人が浮かぶ真横に黒い穴が現れた。

あぁ、終わった、あんなのから逃げられる筈が無かった、あははははははははは、俺はただの道化だった訳だ。


「よう、獅鷹久しぶりだな?会いたかったぞ?さて始めようか?」


その穴から現れたのは同級生である、霞 十六夜だった。

その目は狂気と殺意に満ち、口元は今から始まるであろう俺の処刑を楽しみだ、と言わんばかりに吊り上げられていた。








★★★


「よう、獅鷹久しぶりだな?会いたかったぞ?さて始めようか?」


あぁ、その顔だ、その顔だよ、やはりお前らのその顔は何度観ても飽きないな。


絶望と恐怖に染まった顔、俺を恐れ生を諦める寸前。


その光景を見ると自然と口角が上がってしまう。



「か、霞……俺はここまでという訳だな」


「あぁ、理解が早くて助かるよ、そうその通りお前はここでその生を終える」


「お前を見捨てた罰というわけか……だがなにもせずに死ぬのは柄じゃないんでな!『大暴自滅』」


「くだらない事するなよ『魔法無効化(マジックレジスト)』」


パリィンっと言う音を立てて獅鷹が構築した自爆術式は粉々に砕け散った。


自爆なんて楽な道は絶対に許さない、苦しめて、苦しめて、苦しめて、そして苦しみぬいて死にやがれ、外道。


「は?なんだそりゃ、魔法無効?いくらなんでもやりすぎだろ、あははは、いひゃひゃひゃ、くひひひひ」


獅鷹は遂に正気ではいられなくなり狂ったように笑いだした。


「さてさて、『完全回復(パーフェクトヒール)』これで状態異常も問題ない」


「っは!?俺は何をして、そうだ自爆魔法を無効化されて……」


俺は獅鷹の目の前に降り立ち、こう宣言する。


「拷問を始めよう、お前に狂う事は許されない」


それはもはや、死んでいる事と大差なかった。









★★★


気がつくと俺は全身を何かで縛られており、身動きが全く取れなかった。

唯一動く目で周りを見渡すとそこにはありとあらゆる拷問器具と白衣を身にまとった霞の姿があった。


どうやら、霞はどの拷問器具を使うか悩んでいる様だ。


「さて、どうしたもんかな、色々な殺した方を試してきたが……マンネリ化するのは避けたい……焼死、溺死、窒息死、斬首、ミンチ、撲殺、感電死……まだまだあるな……ふむ、まだ改良の余地はありそうだな」


俺は自分の耳が逝かれてしまったのか?と錯覚しそうになった。あいつの口から出る言葉はどれも異常なものばかりだった、殺し方でミンチなど聞いたこともないぞ…だがその成れの果てを想像すると背筋に寒気が走り思わず吐き気を催してしまう。


「よし、決めたぞ今回はこれでいこう、昔見た洋画でやってた手法だ、原理はよく分からんが苦しいのは確実だからやってみる価値はあるだろう」


そう言いながら霞は何か大きな物を持ちながらこちらへと歩いてくる。


「今回は少し斬新な殺し方にしてみようと思う、さてとりあえず猿轡を外してっと」


霞は俺の口を封じていた猿轡を外し、その代わりに筒の様な物を差し込んできた。喉奥までしっかり入れられた俺は思わず嘔吐くが霞はお構いなしにグリグリと押さえつけてくる。


「がぼっ、げぼっあがぁぁぁぁあーーー」


苦しい苦しすぎる、喉が痛い……筒の先に鋭利で小さな刃がついている様だ、熱い熱い痛い……呼吸ができない……


俺は口の隙間から血を吐き出しながら、この地獄が早く終わる事を願うしかなかった。


そして霞が筒を抑えるのをやめたのは、それから数分後の事だった。





「よく耐えたな、腑抜けだと思っていたが案外根性がある」


ふざけやがって……ふざけやがってぇ。


「まぁ、本番はこれからだ、さっきの筒は穴が空いていてそこから物を流し込むことが出来る、何を入れるかは秘密だ、入ってきたら自分で確かめてくれ、さぁいくぞ?」


そう言いながら霞は大きな赤色のボトルを筒に密着させ、何かを俺の口へと流し込んできた。


「んんんん!ーんんんんんんん!ん!ん!ん!ん!ん」


それは流動性のあるドロドロとした物で、ジャリジャリしていた。

だがまだ分からない、それが何か分かったのは俺の体に異変が現れた時だった。


「お?そろそろか」


お腹が固まってきた?のか……口も、喉も、内蔵も全て?なんで………ま、さ、か、まさか!


「お?その目は気づいたみたいだな、そう!お前の口から流し込んだのは俺自家製のコンクリートだよ」


コンクリート……そんなものが体内に入れば細胞と細胞を繋げて固まり最後には……そんな、そんな最後…人間の死に方じゃないだろ!


「大方人間の死に方じゃないだろとか思ってるんだろ?では逆に聞くがなんで俺が貴様らを人間として扱わないといけない?」


俺の頭は???で埋め尽くされていった、人間として扱わないといけない…なんて当然じゃないのだろうか?

もう俺には霞が何を言っているのか理解できなかった。


「そろそろ頃合か、いいデータが取れたよ、じゃあなクズ」


霞は壁に立て掛けてあったハンマーを手に持ち、大きく振りかぶった。

狙いは俺の腹部、霞が振りかぶったハンマーは一寸違わず俺の腹部を捉え粉々に打ち砕いた。


パラパラと言う音を立てながら俺の体は粉々になっていった。


最後に見えたのは満面の笑みでハンマーを振るう狂人の顔だった。







★★★


復讐を終えた俺は山小屋を出て、待ちくたびれているであろうルーシーとアーシャに逢いに行く。

山小屋から少し離れた場所で焚き火をしていた二人は俺が戻ってきた事に気付き駆け寄ってくる、レナは既に眠りに着いている様だ。


「満足いく復讐だったみたいだね?」


ルーシーは俺の顔を見るなりそう聞いてくる。


「あぁ、新しい殺し方も上手くいったしな」


「良かったですね十六夜さん」


アーシャはそう言いながら俺に微笑みを見せる。


「次の復讐が今から楽しみだよ、次は誰に会えるんだろうなぁ、楽しみで仕方がない」


さてさて、次はどこへ行こうかな?

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