束の間の休息 2
アーシャと共に狩りに出たわけだが、この辺の地理は全く分からないので、何処に何があるのかよく分からない。
「アーシャ、この辺に無事な森って残ってるかな?」
自然に関してはエルフであるアーシャに頼るのが得策だろう。
「ん〜、そうですねぇ……少し遠出しないと無いと思います、この辺の森は全て燃え尽きたので」
完全にやりすぎである、オーバーキルも良いところだ。
「そっかならアーシャに任せるよ、時空魔法も見てみたかったしさ」
まだ、俺はアーシャの時空魔法を見ていない、ここで見せてもらっても構わないだろう。
「はいっ、じゃ行きます!ーーー時空魔法 転移」
アーシャがそう言った瞬間、俺とアーシャは時空の狭間に飲み込まれた。
それは一瞬の出来事で目を開けると俺とアーシャは鬱蒼と生い茂る森の中にいた、ルーシー達の魔力が微弱に感じられる程遠くの様だ。
小鳥のさえずりや虫のさざめきが耳によく馴染む、そよ風で靡く木々の音も凄く心地いい。
最近は悲鳴や爆音しか聞いていなかったので凄くリラックスできる。
「良いところだなここ」
そう言うとアーシャは顔を綻ばせ花の様な笑みを浮かべた。
「そうでしょ?ここは私にとって思い出深いところなんです」
なんとなく察しはつく、大方家族との思い出があるんだろう。
俺も日本にそういうところはあった。
「ここは幼少を家族と過ごした馴染み深い場所で、少し行った所にある山小屋に住んでいたんです、あの時は凄く楽しかったなぁ……っは、すいません、つい感傷に浸ってしまいました」
「別に謝る事は無いさ、俺だって感傷に浸る事もある」
実際俺はしょっちゅう感傷に浸ってる、人の事をとやかく言う事はできない。
「ありがとうございます、十六夜さん、さて早速行きましょうかっ!」
そう言いながらアーシャは俺の腕を引いて駆け出した。凄く楽しそうに笑うアーシャの横顔を見ながら俺はされるがままに森へと入って行った。
森へ入るとアーシャはエルフの血が騒ぐのか凄く生き生きとしている、やはり悲しい顔をしているより笑っている顔の方が綺麗な女の子を引き立たせる。
「十六夜さん、居ましたよあれは…化け鹿ですね」
森の奥地に入るとアーシャが突然立ち止まり獲物の名前を口にする、三十mほど前方にそれはそれは大きい鹿がいた、化け鹿という名に相応しい図体だ立派な二本の角があり猛々しい脚は木々を容易に薙ぎ払えそうな程逞しい。
「……流石異世界ファンタジー…あんな鹿が地球にいたらとんでもない騒ぎになるな」
目の前にいる鹿一匹だけで何トンという肉が獲れるだろう、食糧難の地球では随分と重宝されると思う。
まぁ、今はとりあえず俺たちの空腹を満たす為に狩られてもらおうか。
「アーシャがやるだろ?俺は狩り初心者だからな、経験豊富なアーシャがやった方が俺も安心だし」
暇な時に読んだ狩りの本で血抜きetc.は見たことあるが、実際に狩りなんてやったことない、お粗末な事になるぐらいならここはベテランに任せよう。
「はい、そういう事ならお任せください」
アーシャは懐から俺が渡した改造拳銃を静かに出し魔力を込め始めた。感じる魔力的に麻痺を付与した弾丸を生成している。
つい狩りと言えば頭をぶち抜いて殺すのかと思ったが違うみたいだ。
「ではすぐに終わらせてきます、ここでお待ちを。
ーーー時空魔法 転移」
アーシャはまた時空魔法を行使し時空の狭間に消えた、そしてすぐに化け鹿の真横に現れ弾丸を頭に撃ち込んだ。
「HAGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」
なんの前触れもなく突然横へ現れたアーシャにただの獣が反応出来るはずもなく、麻痺が付与された弾丸を頭に撃ち込まれ化け鹿は体を痙攣させながら大きい図体を地面に倒した。
ズシンと言う音を立てて地響きを鳴らした化け鹿は今もピクピクと筋肉を痙攣させ足掻いている、頭に弾丸を撃ち込まれたというのに元気なものだ、流石に生命力が強い。
それにアーシャは時空魔法を随分と使いこなせる様になったみたいだ、化け鹿の横へ移動した短い距離も俺をこの森へ飛ばした長距離も相当な技術が必要になるだろう。
「おぉ、やっぱり便利な技だなアーシャも使いこなせている様だし、良かった」
独り言の様にそう呟くと、アーシャから返事が返ってきた、どうやらエルフは耳がすこぶる良いらしい。
「これも全て十六夜さんのお陰です、本当に感謝しています」
やはり真っ正面から素直にお礼を言われるのはむず痒い気持ちになってしまう。
「よしっ、早く戻って鹿モーニングと洒落込もう、朝から肉って重たい気がしなくもないが、みんな育ち盛りだ大丈夫だろ」
なんとアーシャは俺と会話している最中に鹿を解体し終わっていた、なんとも素早すぎる手際だ。
それに時空魔法で作った倉庫?の様な場所に鹿肉を保存し鮮度が落ちない様にまでされている、本当に使い方が上手い。
「なら行きましょう、捕まってください」
そう言われ俺はアーシャの肩に右腕を置く。
「よし、良いぞ」
とは言え時空の狭間に入るのはなかなか慣れないものだ、そうだな例えるならエレベーターが下に降りる時の様な感覚と言えば分かるだろうか?
ーーー時空魔法 転移
くだらない事を考えている間に俺はルーシー達のいる荒野に戻ってきた。
「よし、とりあえずアーシャは先に戻っててくれ、俺は少しやり残した事があったの忘れてたからさ」
天使と老神とのいざこざのせいで完全に忘れていたアンクの知人達……
今も障壁の中でビクついてるかもしれない、悪い事をしたな。
「はい、分かりました、すぐに帰ってきてくださいね?」
アーシャは森の中で見せた笑みとは違う小悪魔の様な蠱惑的笑みを浮かべてルーシー達の元へと戻って行った。
天然悪女の素質ありだ、末恐ろしいな。
「早く探して帰ろう………ん?多いな」
辺りの魔力を探るとアンクの知人の物と思われる魔力と一緒に数十人の魔力が一緒にある事が分かった。
魔力には殺意と恐怖が混ざっており、錯乱状態にあるらしい。
いくら白雪と黒王が張った障壁が頑丈とは言え、怖い思いをさせ続ける事は無いだろう。
「こっちか」
魔力を頼りに歩みを進めると壊滅したアルカディアの近くに出た。そこには障壁の中でうずくまっている少年少女各5人ずつと、狂ったように障壁を剣や槍と言った様々な武器で攻撃する大人がいた、恐らくアルカディアの生き残りだろう。
耳を傾けると大人達の怒声が鮮明に聞こえてくる。
『てめぇら、いつの間に逃げやがった!』『なんでガキのお前らが五体満足なんだ!』『意味のわからない攻撃で俺の腕が無くなったってのによぉ!』『いっちょ前に安全な場所に隠れやがって!』
ふむ、逆恨みもいい所だ、それにあんな下衆を助けるやつなんていないだろう。
「はぁ……あの脂ぎった顔を触るのは穢らわしいな」
だが魔法や武器を使わずに始末したい、何か良い方法は無いだろうかと思考していると地面に無造作に落ちていた小石に目がいった。
「本気で投げれば殺せそうだな」
俺は手頃な小石を人数分拾い、一個ずつ野球ボールを投げる要領で投げた。まだ体に力を入れると節々が痛むのであまり力は入れていなかったが、すごい速さで真っ直ぐに飛んでいった小石は大人達の頭を粉々に粉砕した。
何人か狙いが逸れて体の一部に命中し、腕や脚が捥げた奴もいる。
死ぬのなら頭に当たって即死の方が苦しみは少ないだろうに……こいつらはついてないな。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあ……う、で俺の腕がぁぁぁ』
『あ、脚が?な、なんでとれて、るんだ?』
『おい!顔が隊長の顔がぁぁぁぁぁ』
隊長?を殺された大人達の周りは阿鼻叫喚の騒ぎになっていた。
各々の顔に血や脳漿がへばり付いている。
「少しだけやり過ぎたか?まぁいいけど」
クズが死ぬ?良いことじゃないか、状態だからなぁ。やっぱりクズが死ぬのは気分が良い。
「後は残りを殺してっと!」
俺はまた小石を拾いプチプチを潰す感覚で殺して、最後のクズを殺し終えると同時に少年少女に近寄っていき。
「さて、待たせたな、アンクが待ってる帰るぞ」
アンクが帰りを待っている事を伝える。
『あ、アンク?アンクが生きてるの?』『お兄ちゃん誰?』『お兄ちゃんは悪い人?』『お兄ちゃんは良い人?』すると様々な言葉が飛んできた。
やはり子供は元気が一番だ。
「そうだなぁ俺は良い人じゃない、が、お前達に怖い事をしたりしない、だから俺を信じてついてきてくれアンクに会わせてやるから」
これは事実だ、俺は善人ではない。
そして一人の女の子がみんなを代表してこう言ってきた。
「……お兄ちゃんを信じるよ」
「そうか、なら早く行こう、あっちに着いたら朝食も用意してあげるから」
俺はそう言いながら女の子の頭を優しく撫でる。
有栖の機嫌が悪かった時良くこうやったけ。
「「「はーい!」」」
相当お腹が空いてたのか、朝食という単語を出した瞬間急に元気になった。
「よし、ちゃんと着いてこいよ」
こうして俺は少年少女計十人を保護しキャンプへの帰路についた。
やはり無邪気な子供というのは微笑ましい。




