迎え
少し長めです、正月の暇な時間にでも^_^
十六夜君が殺された直後。
僕は即座に同胞に魔法を撃ち込んだ、ありったけのMPを注ぎ込んで。
だが僕の魔法は辺りを焦土と化しただけで、相手に一切の傷を与えられなかった。
そんな奴らは片手で足りるほどしかいない。
そう僕の兄弟……
「久しぶりですね、姉上」
恭しく礼をする少年は僕の弟にして、癒しを司る大天使。
ーーーラファエルだ。
「やぁ、久しぶり、で?これはなんのつもりかな?」
「なんのつもりとは? あぁ、この人間の事ですか?すいません、邪魔だったので」
ラファエルに悪怯れる様子はない、それもそうか、僕たち大天使にとって人間など下等で下劣な取るに足らない生き物でしかないのだから。
「そっか……死ぬ覚悟は出来てるのかな?ラファエル」
でも僕にとって十六夜君は取るに足らない下等で下劣な生き物ではない。
大切で大切で仕方がない最愛の人なんだから。
「死ぬ覚悟?ご冗談を。こんな人間一匹で何をそう怒ってらっしゃるのですか、人間なんていくらでもいるじゃないですか、姉上は………おや?……なるほどそういう事ですか」
ラファエルが十六夜君の残骸に目を向けると既に再生が始まっていた。
僕が加護を与えているのに気づいたらしい。
「姉上あなたの様な方が人間に加護を与えるとは……愚かな事を。まぁいいです、次は根源ごと消滅させますから」
「僕が目の前にいて、そんな事させると思うのかい?ラファエル、お前の方こそ愚かだ、僕を怒らせるなんて」
僕は身体中から魔力を迸らせ人間ならさらされるだけで即死する程の殺気を放つ。
「くっ……ルーシーさん……イザヨイさん、は…」
「あぁぁぁぁ!っがっは」
僕の後ろにいたアーシャとアンクには魔力で壁を作っているけど、殺気に当てられてるみたいだ、このままじゃまずい。
「アーシャ、十六夜君は無事だ、数分でこっちに帰ってくる、でもそれまで僕は弟の相手をしなきゃならない、君はそこから動かないでくれ、もし僕かラファエルの攻撃が当たれば生きてられないだろうからね」
いくら僕の加護を受けた十六夜君の心臓をその身に宿していても、即死程のダメージは回復できない、できて欠損を復元するくらいだ。
十六夜君みたいに直接加護を受けていれば別だけど……
「いいね?絶対巻き込まれないでくれよ?あとその子を頼むよ、死なせたら十六夜君に怒られちゃうからね」
僕はアーシャを安心させる様に戯けてみせる、僕は上手く笑えてるかな?
いや、笑えてない、今の僕は十六夜君を殺された怒りでどうにかなりそうだ。
死なないならいいじゃないか、と、思う人もいるだろう、でも好きな人がバラバラになって死んでいく姿を見て黙っていられるか?
僕には無理だ。
「わか…り……ました」
相当きつそうだ、早めにここを離れた方がいいね。
僕がラファエルに場所を変えよう、と提案する前にあちらから話しかけてきた。
「姉上、見ない間に随分と下等な生き物と親密になったんですね、お話はもういいですか?
今日は大事な要件があってきたので、少し場所を変えたいんですが、どうでしょうか?」
「あぁ、構わないよ、こんな所でお前を殺そうとすればアーシャ達が死んじゃうからね」
大事な要件、ね。
大方予想はつく、父……神からの遣いだろう。
「では、行きましょう。
そうですね……では付いてきてください」
僕は飛び立ったラファエルを追いかける為に、足に力を込め全力で地面を蹴り上げ空に飛び立つ。
音速に近いスピードを維持しながら羽を出し滑空する。
数秒後目の前に空中で静止するラファエルが見え、僕も空中に滞空し話を聞く。
「ここでいいのかい?ラファエル」
僕達が滞空しているのは、十六夜君が滅ぼそうとしていた国、そうアルカディアの真上だ。
僕がアルカディアを眺めていると、ラファエルは淡々と要件を話し始めた。
「えぇ、そろそろ爺やも来るでしょうしね。それまでにここへ来た要件をお話しします、要件は1つ僕は姉上を迎えに行くように命じられわざわざ下界まで降りて来ました」
爺や……相談役まで下界に降りてきてるとはな。
それに迎えに来たとは、父は何を考えているのだろうか、あんな事があって大人しく従うとでも思っているのか?
それとも他に狙いが?
「何故、今更接触してきた?どうせ僕が虚無空間からでたのは分かってたんだろ?」
神である父が気づいてない筈がないのだ、それと兄弟達も気づいてただろう。
「そうですね、簡単に言うと時間が無かった、それだけの事です。
僕達は忙しいですからね、まぁそれは大目に見てください、っと無駄話はここまでにして、そろそろ返事を聞いても?」
分かっている癖に、いけしゃあしゃあと。
やはりムカつく連中だ、今すぐ殺してやる。
「……そうだね、お断りだ!」
僕は右手に魔力を集中し【破壊】を発動させ、ラファエルに一瞬で肉薄し顔目掛けて振りかぶる。
が、ラファエルはため息をつき残念そうに顔を下に向けながらユニークスキルを発動させる。
「はぁ、そうですか、残念です。【反射】」
そう言った瞬間ラファエルの目の前に見えない壁が展開され僕の右手は弾かれ、【破壊】の効果が乗った衝撃波が僕に襲いかかる。
「っ…!やっぱり馬鹿げたスキルだね、それ」
自分のユニークスキルを自分で喰らうなんて普通はあり得ない、やはり腐っても兄弟だ。
下級天使や他の上位天使とは格が違う。
「姉上、貴方は殺せない、父以外には誰にも。だから僕は防御に徹しますよ、まぁせいぜい力を使ってください」
「随分と余裕だな、ラファエル、殺されるとは思わないのか?」
「ご冗談を、僕のユニークスキルは姉上もご存知でしょう?僕に攻撃は無意味です」
そう、ラファエルの言う通りあのユニークスキルの前にはどんな攻撃も無意味だ。
でも手が無いわけじゃない、昔から僕は他の兄弟に舐められてる。
侮り過ぎだよ僕を。
「そう、そのユニークスキルは万能だどんな攻撃も無に化し、対象に打ち返す。
でも、それはそのユニークスキルの範囲内への攻撃だけだ、その範囲外からだと?」
僕は転移を使いラファエルの真後ろに移動する。
直ぐに反応し対応してくる、流石だ、でも僕にとってそのスピードは遅すぎた。
コンマ数秒あれば充分過ぎるのだ、僕は左手をラファエルの右腕に触れさせてから【夜】を発動させる。
ラファエルのユニークスキル【反射】にはもう一つ穴がある、それは攻撃以外は通り抜ける、という事だ。
つまりスキルや魔法を発動させていない状態だと壁を素通りできる。
まぁ今回は【反射】の範囲外からの攻撃になるけど。
「分かったかな?お前たち兄弟は僕を舐め過ぎだ。
だからこうなる、ほら僕の【夜】がどんどん侵食していくよ?このまま死ね、憐れな弟よ」
呆気ない、僕のユニークスキルは強すぎる。
身の丈に合わない力は身を滅ぼすと言うが、僕の力はまさしくそうだ。
こんなものを人間や他の生命が持つ事があれば、一瞬で世界が滅ぶ。
僕の様に何千年と使いかたを練習して制御できるなら別だけど。
神は何故こんなスキルを作り僕に与えたのだろう。
と、僕が要らぬ思考に耽っていると【夜】に飲まれた筈のラファエルの声が辺りに響き渡った。
「ふふっふふふふ、やはり姉上は強い、強いです。ですが、姉上も僕達を舐めてませんか?【制限解除】」
「なっ……【制限解除】?ラファエルお前……」
「えぇ、そうですよ。時が流れるのは早い、姉上と最後に稽古したのは千年以上も前だ、あの頃の僕と違って当たり前でしょう」
【制限解除】とは自らが司る事象を最大限に発揮する為のスキルだ。
ユニークスキルではなく大天使、つまり僕の兄弟達が開発していたオリジナルスキル…
ミカエル以外使えなかったのに……
「もうお分かりでしょう?僕は死にません、僕が司るのは癒しですから」
つまり今のラファエルは簡易的な【不老不死】の状態にある。
死んでもすぐに蘇る…【制限解除】中の事象操作は神のそれだ、ラファエルは癒しだが、他の兄弟が使えば人間など一瞬で根絶やしにできる。
元々大天使に事象を与えたのは、父である神だ、その力は制限がかかっていて【制限解除】を使う事で外す事ができる、つまり今神が与えた事象の力をフルで使用できる。
「気が変わりました、僕からも攻撃しましょうか。
まぁ姉上は死にませんけど痛みは感じますよね?僕が司る事象は癒しですけど、その反対も可能なんですよ?それ」
ラファエルが左手を振るうと僕の右腕が動かなくなり、数秒後途轍もない痛みが襲ってきた。
「ぐっ……あぁ…なんだこれ」
これは……身体的な痛みではない……根源を直接攻撃してるのか。
生きてる時に根源を攻撃なんて聞いた事が……
「あぁぁぁぁぁ、ク……ソ…がぁ…はぁはぁ」
なんて痛みだ、今までこんな痛み受けた事ない……
「いい顔ですね姉上、どうです?根源を直接攻撃される気分は?痛いでしょ?苦しいでしょ?ふふっ生きたまま根源を攻撃されるなんて体験二度とできませんよ?」
そりゃそうだろう、根源が消えれば存在が消えるのだから。
いくら【不老不死】だろうと、復活できない。
このままじゃ、根源を削られて死ぬだけだ…
「【死滅の魔眼】【絶断の魔眼】千切れろ」
僕は片目ずつ違う【魔眼】を発動させ、ラファエルを睨みつける。
死滅は視界で捉えたものを腐食させ破壊する。
断絶は死滅させたものを世界から隔絶する。
この二つの魔眼は二つで一つの魔眼だ、ラファエル相手じゃ一番効果がある、なぜなら。
「おや?治らない?おかしいですね、姉上のその目のせいですか」
僕はラファエルの右手と左足を世界から隔絶し、消しとばした。
隔絶されたその場所は元から無いという事で世界に書き換えられる、つまりラファエルの右手と左足は無いのが正常という事だ。
そんな場所を治そうとしても治る筈がない、元から無いのだから。
だが、不思議な事がある、何故避けなかったのか。
「ラファエル、お前随分と余裕じゃないか、少しは焦ったらどうだ?全身を消し飛ばされるかもしれないんだぞ?」
おかしい、なんだこの違和感は……
確かに強い、【制限解除】など驚く事もあったが…なんだこの違和感は。
僕とラファエルが本気で戦えばこの辺一帯もっと酷いことになっている筈だ、だが今のラファエルは全く手ごたえがない。
「ふふっ余裕、ですか、そんなものないですよ。姉上が相手なんですから」
やはりおかしい、なんだ、なんだこの違和感は。
急に弱くなった?そんな気がしてならない。
「お前、本物じゃないな……爺やか」
そう言うと虚空から二人の人物が現れる。
それは目の前にいる筈のラファエルと白髪で壮年の年寄りだった。
「姉上、気づくのに随分とかかりましたね」
「お久しぶりでございます、ルシファー 様」
「ヨセフ……貴様が下界なんぞにいるとはな、ラファエルをいつ入れ替えた?」
全く気づかなかった、手ごたえの無さを感じるまでは。
「ルシファー 様の【夜】にラファエル様が飲み込まれる直前ですよ」
あの瞬間僕は目を離した覚えはないが……トリックスターの異名は衰えていないようだ。
「ヨセフ、いやロキ相変わらずだな」
「ふぉっふぉっ、その名を聞くのは久しぶりですなぁ。さて大体の事情は把握しておりますが、やはり天界には戻って頂けないのですか?」
白髪の老人は細い目を開けこちらを見据え、再度確認してきた。
その瞳は驚くほど冷え切っている。
だが今更そんな脅しに従うわけがない。
「断る、僕にはやる事があるからな」




