神の使徒
十六夜の復讐はここで少しお休みです。
俺は唯我と椎名を殺した。
これで喜持に続き三人目だ、もうアルカディアにいる勇者はいない、次の標的が何処にいるかもまだ分からないが復讐は着々と進んでいる。
しかし今回の復讐は俺に小さなしこりを残して終わった、その原因は唯我のあの言葉だ。
ありがとう。
変哲も無いただのお礼の言葉。
「くそが……」
駄目だ考えれば考えるほどモヤモヤする、今すぐにでもアルカディアを滅ぼして発散させよう。
「ルーシー、アーシャ今からアルカディアを滅ぼしてくる。二人はここで待っててくれ、そろそろアンクの知り合いを連れた白雪と黒王が帰ってくるからな」
そこそこのスピードでここへ近づいてきてる、あと3分もすれば合流できるだろう。
「分かりました、お気をつけて……それと……私の家族のお墓は…」
そうかアーシャには遺体を埋めて供養したとしか説明してなかったな。
「大丈夫だ、墓はアルカディアの外に作ってる、あんな糞だめに埋められたらかわいそうだろ」
最悪な事があった場所に埋葬する程俺は腐ってはいない。
そんなの俺だって嫌だからな。
「そうでしたか……ありがとうございます」
「気にするな俺がやりたくてやった事だ、さてと、じゃ行ってくる」
そう言ってその場を去ろうとすると。。
ずっと無言だったルーシーが俺の腕を掴んで止めてきた。
「なんだ?ルーシー」
ルーシーがこういった行動を取るのは珍しい。
「………確信は無いんだけど……嫌な予感がするんだ」
「嫌な予感?本当に珍しいな、どうしたんだよ急に」
俺がそう問いかけると、ルーシーから聞き捨てならない言葉が発せられる。
「僕と同じ魔力を感じるんだよ、アルカディアから」
ルーシーと同じ魔力、つまり天使?ってことか?
俺には全く探知できない、天使特有のなにかがあるんだろうか。
だが、それだけでアルカディアを滅ぼさない理由にはならない。
「つまりルーシーの復讐対象か?」
「多分ね、魔力の大きさ的に天界の中でもかなり上の部類だ」
「魔力で人物を特定とかできないのか?それができるならそいつだけ残して、」
と言いかけた瞬間俺の体が爆裂した。
そう何の兆候もなく、体が爆ぜ吹き飛んだのだ。
体からちぎれ飛んだ頭は数秒間機能しており、視力も健在だ。
そして意識が消える前に目で捉えたのは純白の羽を持つ一人の少年だった。
「て、ん……し」
★★★
細胞が作られ臓器が作られ骨が作られ血が流れ骨格を形成し全身が復元される。
細胞レベルからの復元は冗談じゃなく痛い、神経を捻りその上から塩酸をかけ溶かされている様な痛みだ。
こればっかりは何度やっても慣れない、ルーシーとの訓練中に初めて復元された時はあまりの痛みで数時間くらい頭が働かなかった。
暗闇に揺蕩うこの感覚も久しぶりだ、そろそろあいつが現れる時間だな。
『久しぶりだな、十六夜』
ーーーあぁ、久しぶり、時間通りだな
『なんで簡単に死んでいる、それでもルーシー様の加護を持つ超越者なのか』
ーーー悪かったな、でも今回の敵はやばい、恐らくルーシーと同格だ
『ルーシー様と同格……天使か』
ーーーそうだ、気づく間も無く殺された
『そうか……十六夜、お前はルーシー様の力で死ぬ事は無い、無いが、根源を全て消し飛ばされたら復元は不可能だ』
ーーー根源?なんだそれ、聞いた事ないぞ
『聞き慣れた言葉で魂魄と言った方が分かりやすいか?簡単に言えばお前の魂だ、今会話ができているのも魂が生存しているお陰だ、これが消えれば、もう分かるだろ?』
ーーーなるほど、もう生き返れない、か
『そうだ、それが天使にはできる、下位の天使ならお前の相手にすらならんだろうが、上位の天使は別格、その中でも守護天使はやばい、覚えておけ』
ーーー守護天使?そいつが俺を殺した奴か?
『それは分からん、ただの上位天使かもしれんし、守護天使かもしれない……そうだ見分けるヒントをやる、守護天使は首にそれぞれが司る事象のペンダントをかけているそれが目印だ』
ーーーそうか、そろそろ時間だろ?意識が覚醒してきた
『あぁ、もう復元が終わる。あまり早くここへは来るなよ、ルーシー様と共闘して殺してこい、お前一人ではまだ無理だ』
ーーー……分かった、ありがとう
そこで、俺の意識は微睡みから引き揚げられる。
みんな無事でいてくれ!
★★★
目を開けるとそこには先程までの光景が映し出される……事は無かった。
「おい、なんだこれは……」
あたり一帯焦土と化し、森は全て消え去っていた。
地面からは溶岩が吹き出し、空からは雷と雨が降り注いでいる。
みんなは、みんなは無事なのか?こんな、こんな事が?冗談だろ?
「っ……!アーシャ!おい!大丈夫か!」
呆然としながら目を動かしていると、地面に倒れ伏しているアーシャとアンクがいた。
二人共ズタボロだが死んではいない、ちゃんと息をしている。
「アーシャ、アーシャ!ルーシーは何処だ!?」
俺はアーシャにルーシーの居場所を一心不乱に聞き続ける。
「……ざ……よ…い…さ…ん……あっち……に」
途切れ途切れに俺の名前を呼び、アーシャが指したのはアルカディアがある方角だった。
「くっ……ありがとう、すぐ戻るからここで待っててくれ」
俺は自分の魔力と加護から引き出したルーシーの魔力で障壁を作りアーシャとアンクを包み込み、安全を確保した。
「とりあえず、これで危険はないだろう……」
ちくしょう!邪魔してんじゃねぇぞ、糞天使が!
俺は怒りと殺意を剥き出しにしながらルーシーのいるであろう方へ全速力で駆けた。
★★★
俺はアルカディア目掛けて全力疾走しながら白雪に念話を送っていた。
『白雪!今すぐにアルカディアへ戻ってこい!緊急事態だ』
『助け出した者達はどうしますか?』
白雪の言葉を聞いてその存在を思い出す。
っち!アンクの知人を助けに行かせたのが裏目に出たか。
『障壁を貼ってから黒王と一緒に来い!これから天使を殺す!』
天使を殺す……地球では平和の象徴だった。
なんとも皮肉の効いたセリフだな。
『かしこまりました、すぐ向かいます』
そこで念話は切れる、今聞こえるのは凄まじい轟音だけだ。
恐らくルーシーとあの天使が戦っているのだろう、この分ではアルカディアは既に滅んでるかもしれない。
でも今はそんな事どうでもいい、大事なのはルーシーが無事かどうか、それだけだ。
「糞がぁぁぁぁぁぁあ!」
もし、ルーシーにまで何かあれば俺は……
今年はこれが最後です!
皆さまよいお年を!




