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さて、舞台は宵の口。何処にもありて珍しからずの大衆居酒屋。
いわゆる場末に構えどリーズナブルにて評判なり、足を運ぶに値するが庶民のオアシス。
此の物語に据えたり主人公も、千客万来の端くれ程には馴染みのようだが、其れはこの際どうでも宜しい。
信楽焼であろうか。ご立派を下げたる大ダヌキの門番をよそに、赤提灯にて飾られし引き戸の暖簾を潜りたれば、そこはまさに呑兵衛たちの桃源郷。
懐古的な電球色へと染められし和洋折衷のモダンな店内は、いつにも増さん大勢の客にて活況を呈している。
外観からは察しに難き広がりを見せる空間なれども、アンビエンスは斯くも狭々しく感じさせたり。
やはり至る席まで満員御礼だからであろう。
拝察するに、特段と盛り上がりたる大学生らしき一団もいるようだが、大半は仕事帰りの会社員に違いあるまい。
成程、今宵は華金の因果となりしかな。
華金なるが死語か否かさて置き。昨今は飲み二ケーションも減りつつあると聞き及びしたれば、まだまだ盛況のようで何より。
あちらこちらと賑々しくも飛び交うは、酔客たちの楽し気な会話に高らかなる注文、些かタガが外れし笑い声。
其の合間を縫わんが如く、溌溂たる愛想良き店員たちが忙しげに勤しみたらん。
……などと、拙くなりに描写して何であるが、特段に珍しき眺めという訳でもなかろう。
活気に満ちたり、何処にもあるが如き酒場のありふれた光景。
そんな空間の一角たるに、場の空気から剥脱でもしたかの如く、とでも申してみようか。
陰鬱が漂う小さきテーブル席がひとつ。




