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からくり競輪 ー烈風のマブイー  作者: 水前寺鯉太郎
プロデビュー編

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第九話:孤高の誓い(単騎独立)


「……兄貴からだ」

健吾が指先で空間にホログラムを展開すると、そこには下関の海を背景に、愛機と共に立つ兄の姿がありました。

> 『初勝利おめでとう、健吾。宇和島の絶壁を「水の技術」で超えたようだな。だが、お前のマブイは、誰かの後ろに隠れて回るには熱すぎる。

> 競輪の世界には「ライン」という絆がある。だがな、健吾。本当の怪物は、いつだって自分のマブイだけで風を切り裂くものだ。

> 俺も、水の上では常に一人だ。お前も決めろ。誰かに魂を預けるか、それとも――』

>

兄の言葉は、健吾が心の中で密かに、しかし確実に育てていた「違和感」を鋭く突いていました。

1. 葛藤:ラインか、孤高か

競輪の常識は、ラインを組んで風圧を分担し、戦略的に勝つこと。

しかし、健吾のコアマブイ2500は、他者と「同調シンクロ」するにはあまりに個性が強く、暴力的です。誰かの後ろに付いても、前の選手の排気マブイが健吾のスーツを焼き、逆に健吾が先行すれば、後ろの選手を熱波で窒息させてしまう。

「……やっぱり、俺には『道』は見えない。自分で作るしかないんだ」

2. 独立の宣言

健吾は翌日、阿蘇支部の支部長室を訪れました。そこには、源さんと共に健吾を見守る支部長が待っていました。

「支部長、俺……次の場所から、**『単騎専属スタンドアローン』**として戦わせてください」

その場にいた一同が息を呑みました。単騎専属。それは、ラインによる風除けも援護も一切拒否し、常に一車で、五人を敵に回して走るという、最も過酷で孤独な修羅の道です。

「速水、正気か? 333mならまだしも、500mバンクで単騎は自撮り(自殺行為)だぞ。マブイがいくらあっても足りん」

「分かってます。でも、誰かの影を走るマブイじゃ、俺のスーツ『炎』は回りきらないんです。俺は、俺だけの熱でゴールまで焼き切りたい」

3. 源さんの「餞別はなむけ

支部長が沈黙する中、源さんがニヤリと笑いました。

「……いい面構えだ。だったらよ、健吾。スーツの『外付マブイタンク』、外して捨てちまえ。単騎で戦うなら、中途半端な予備はいらねぇ。コアマブイだけで全てのギアを回す特化型に、今夜中に書き換えてやる」

「……お願いします、源さん!」

4. 孤独な猛牛の誕生

こうして、からくり競輪界に前代未聞の異端児が誕生しました。

「阿蘇の速水健吾は、ラインを組まない」

この噂は瞬く間に全国のバンクへ広まりました。

京王閣で計算に耽る算盤陣は、「愚かな。自ら生存確率を$0.1%$に下げたか」と冷笑し、小倉の影山は「……面白い。狙いやすくなった」と闇の中で目を細めます。

次なる舞台:風の「高松(瀬戸の凪)」

単騎としての初陣は、香川県・高松競輪場。

そこには、風を操る天才・羽柴翼が、ラインを組んで健吾を待ち構えています。

* 戦略: 5対1の数的不利。

* 装備: 外付タンクを廃し、コアマブイ直結となった新生『炎』。

単騎・健吾の「一車先行」が、高松の風をどう切り裂くのか。


今回、健吾がラインを組まずに単騎選手に転向しましたが、単騎転向におけるリスク等を説明します。

競輪における単騎転向(主に自力選手がラインを組まず単騎で戦うスタイルに切り替えること、特に脚質が逃げ・先行タイプの場合)のリスクは非常に大きいです。基本的に競輪はライン(連携)が有利な競技なので、単騎を選択することは「ハイリスク・ハイリターン」の極端な戦法になります。

単騎(特に逃げ・先行タイプ)の主なリスク

マーク(けん制)選手がいないため、先行するとほぼ確実に捲られる

逃げ・先行選手が単騎で先頭に立った場合、真後ろに敵しかいない状態になります。別線の捲り選手が後方から一気に仕掛けてくると、ブロックする味方がいないため簡単に抜かれます。

→ 先行しても「風よけ」にならず、直後に捲りで沈むケースが圧倒的に多い。

位置取りが極端に難しくなる

ラインがないと自分で好位(3〜5番手あたり)を確保し続ける必要がありますが、別線が次々と動くと最後方(7〜9番手)に置き去りにされるリスクが非常に高いです。

→ 位置取りに失敗すると、ほぼ何もできずに大敗(着外)になる。

戦法の幅が極端に狭まる

逃げ・先行タイプの単騎は、捲りに頼らざるを得なくなります。

逃げ切る → 風抵抗+マークなしでほぼ不可能

捲り → 展開が向かないと(人気ラインがすんなり逃げると)届かない

→ 結果、展開依存度が極端に高く、不発=惨敗になりやすい。

体力消耗が激しく、終盤失速しやすい

ラインがあれば番手が風よけになるため体力を温存できますが、単騎だと常に先頭付近で風を受け続けるため、特に逃げ・先行タイプは中盤以降に脚が止まりやすいです。

単騎は主に追い込み転向の理由が多く、逃げ・先行タイプが単騎に転向するケースは特に厳しいです。実際、単騎で逃げ・先行を貫いて好成績を残す選手は極めて稀で、ほとんどが苦戦しています。

まとめ:逃げ・先行タイプの単騎転向は「ほぼ不利」

勝てるケース:別線が先行争いで消耗し合った隙に捲りが決まる、または圧倒的な脚力で強引に押し切る(稀)

現実:リスクがメリットを大きく上回るため、着外になる確率が非常に高い

ファン目線では「単騎の漢気」や「一発逆転の爽快感」は魅力ですが、勝負という観点ではラインを組んだ方が明らかに有利です。

逃げ・先行タイプの選手が単騎転向した場合、基本的には「厳しい戦いになる」と考えておくのが妥当です。

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