第七話:魂の器(マブイ・コンテナー)
阿蘇の裾野、地熱の白い蒸気が静かに立ち昇る「阿蘇特機工房」。
健吾は、学園の卒業レースでボロボロになったグレーのスーツを、かつての恩師・源さんの前にそっと置きました。
「源さん、もうこいつじゃ無理だ。あのレースで……死にかけた。俺のマブイを、このギアはもう受け止めきれねぇ」
源さんは油と煤にまみれた太い指でスーツをまさぐり、鼻で小さく笑います。
「当たり前だろ。お前のマブイは『層レイヤー』が分厚すぎる。量産型の細いパイプじゃ、マブイが詰まって逆流するのも当然よ」
そう言って源さんは、工房の薄暗い奥から、重々しい黒鉄のフレームを引っ張り出してました。
最新のカーボン軽量とは正反対。鈍く光る、無骨で威圧的な「プロトタイプ」。
改良ポイント1:【マグマ・ラジエーター】
「お前のマブイは熱すぎる。なら冷ますんじゃなく、その熱を全部、前にぶちまけちまえ」
背中から両肩にかけて、阿蘇の火口を思わせる放射状の巨大冷却フィンを増設。
排熱を敢えて後方へ噴射し、**「熱噴射マブイ・ジェット」**による爆発的な加速を可能にした。
改良ポイント2:【阿蘇式・超高剛性クランク】
学園で叩き込まれた「効率至上主義」を、源さんは一蹴しました。
「トルクが全てだ」
歯車の一枚一枚に、阿蘇の火山岩で何度も焼き入れられた特注合金を採用。
健吾のコアマブイが2500フルバーストしても焼き付かない、地獄のような耐久性を持たせます。
改良ポイント3:【兄・誠の遺した「流体スタビライザー」】
「……これ、兄貴から送られてきたパーツか?」
健吾が気づいたのは、腰部に埋め込まれた小型ジャイロデバイス。
「ああ。下関の清水誠からだ。『弟の暴走を止めるのは、水の静けさだ』ってな」
競艇のボートで培われた姿勢制御技術を応用。
猛烈な加速と横Gの中でも、決して「落車」しない安定性を与えました。
新生スーツの名は――『阿蘇・炎(ASO-HOMURA)通称、炎』です
完成したスーツに脊髄インターフェースを接続した瞬間。
「――ッ!」
今までのどのスーツとも違います。
まるで全身の血管が一気に拡張し、熱い血潮が隅々まで駆け巡るような一体感。
軽く意識を集中させただけで、背中のラジエーターが「シュォォォッ」と低く唸り、吸気音が工房に響きます。
「これだ……。これなら、あの算盤みたいな計算を、もっと遠くへ蹴散らせる」
源さんは最後に、真っ赤な耐熱ペイントをヘルメットに吹き付け、健吾の背中を力強く叩きました。
「行け、健吾。
プロのバンクは学園の百倍濁ってる。マブイを盗もうとする奴、心を折りに来る奴……腐るほどいる。
だがな、お前がその火を絶やさねぇ限り、阿蘇の山がお前の背中を、ずっと押し続けてくれる」
プロデビューの舞台へ
健吾の初戦が決まりました。
場所は、兄・誠の地元・山口にほど近い「宇和島競輪場」。
通称、『闘牛の擂鉢』。
全国でも屈指の急カントと、容赦ない風が吹き荒れるバンク。
新生『炎』と、健吾自身の覚悟を、真っ先に試す最初の戦場となります。




