第五話:健吾の戦術思考:マブイ・シンクロニシティ
(……クソッ、算盤のラインが「壁」を作ってやがる!)
健吾の視界には、算盤(1番車)と影山(5番車)が、バンクの上段から中段にかけて完璧な「斜行ガード」を敷いているのが見えます。計算された蛇行。健吾がどこから捲ろうとしても、算盤の精密なギアが弾き飛ばす軌道です。
【フェーズ1:外付マブイの全廃棄】
「羽柴! 外付をくれてやる! 吸えッ!」
健吾はスーツの外部バルブを無理やり逆噴射させました。
本来、加速に使うべき外付マブイ8000の残量を、後方の羽柴へ向かって「気流」として放出したのです。
狙い: 自車を軽量化し、一瞬の「身軽さ」を得ること。
代償: これで後戻りはできない。残された動力源は、自らの命そのものであるコアマブイ2500のみ。
【フェーズ2:カントの頂点への「逃げ」】
「算盤の計算じゃ、俺は内側に切り込むはずだ。……だが、それじゃあアイツの思うツボだ」
健吾はハンドルをさらに外、バンクの最上部、審判席の鼻先まで持ち上げました。
通常、333バンクでこの「大外」を通るのは自殺行為。走行距離が伸び、遠心力でスーツが外へ吹き飛ばされます。
だが、健吾には見えていました。
阿蘇の山で見た、風の「断層」が。
【フェーズ3:重力加速度(G)の変換】
(算盤、お前の計算は『平地』の効率だ。……でもな、競輪場には『崖』があるんだよ!)
戦術: カントの最頂点で、一瞬だけ全駆動系を「ニュートラル」にする。
物理現象: 300kgの車体と健吾の体重が、崖から落ちるような位置エネルギーに変換される。
接続: その「落下」の瞬間に合わせて、コアマブイ2500を一気にクランクへ叩き込む!
【フェーズ4:マブイ・バースト(魂の点火)】
(来い……コアマブイ! 兄貴の波じゃない、俺の、阿蘇のマグマを回せッ!!)
脊髄インターフェースが真っ赤に発熱し、健吾の視界が白く飛びます。
心拍数は200を超え、スーツの各関節から「キシッ、キシッ」と、強引なトルクに耐えかねる悲鳴が上がる。
戦術名:『阿蘇おろし・垂直落下捲り』
垂直に近い角度で、算盤の頭上から「降りてくる」健吾。
算盤の計算機(脳)がパニックを起こします。
「バカな! 摩擦係数を無視した加速……!? そんなマブイの使い道、教科書のどこにも……!」
レースの状況(第4コーナー立ち上がり)
算盤: 完璧なライン取りで最短距離。だが、上空から降ってくる健吾の「圧」に、初めてハンドルが震える。
健吾: 落下エネルギーとコアマブイが合体。車輪がバンクを削り、火花が算盤の白銀のスーツを焦がす。
影山: 消音ギアで虎視眈々と狙っていたが、健吾の放った衝撃波(マブイの余熱)に煽られ、ラインが割れます。
「行くぞ……算盤ッ!! これが俺の『卒業制作』だあああ!!」




