第三話:阿蘇の記憶、火の国の洗礼
健吾がまだ10歳の頃。兄・誠はすでに「競艇の天才」として頭角を現し、下関の海で華々しくデビューを飾っていました。
一方、健吾は体の弱い少年でした。父に連れられ、療養のために訪れたのが阿蘇の外輪山にある親戚の家。そこで彼は、後に「阿蘇支部」の伝説となる一人の老レーサーと出会います。
1. 巨大な鼓動との出会い
ある夜、健吾は地鳴りのような音で目を覚ましました。窓の外、阿蘇の噴火口の向こう側から、青白い光の柱が立ち昇っていたのです。
それは噴火ではなく、**「地球のマブイ」**の噴出でした。
「坊主、あれが『生きてる』ってことだ」
隣に立っていた老人は、使い古された「からくりスーツ」の手入れをしながら言いました。
「人間も、自転車も、山も同じだ。芯にある熱をどう回すか。それだけで世界は変わる」
2. 「マブイの火種」を貰った日
老人は健吾を、整備中のボロボロのからくり自転車に乗せました。
「こいつを漕いでみろ。足の力じゃねぇ、腹の底の熱をギアに流すんだ」
非力な健吾が必死に念じた瞬間、阿蘇の山から吹き下ろす猛烈な風と、足元の地熱がシンクロしました。
カチリ、と健吾の中で何かが噛み合った音がしました。
コアマブイが初めて点火した瞬間でした。
自転車は異様な駆動音を立て、夜の草原を弾丸のように駆け抜けました。健吾の目には、兄が見ている海の景色とは違う、**「燃えるような大地の脈動」**が見えたのです。
3. 兄・誠への対抗心と決意
数日後、下関から見舞いに来た兄・誠に、健吾は言いました。
「兄貴、俺、競輪をやる。阿蘇の山を、この自転車で登りきってみせるよ」
誠は優しく笑いましたが、その瞳は勝負師のそれでした。
「いいぜ、健吾。お前がその火を絶やさずにプロになったら、俺も水の上からお前のマブイに応えてやる」
4. 阿蘇支部を選んだ理由
健吾にとって、阿蘇は単なる練習拠点ではありません。
「自分が死にかけていた時、魂に火を灯してくれた場所」なのです。
だからこそ、彼はエリートが集まる京王閣でも、華やかな京都でもなく、最も過酷で、最もマブイの燃焼が荒々しい**「阿蘇支部」**を自らの居場所に選びました。
「借り物のエネルギー(外付)ではなく、自分自身の『熱』で走り抜く」という彼のスタイルは、この阿蘇の火口を見つめた少年時代に形作られたものでした。
ここで登場する速水誠はからくり競艇黄金の波切り、魂のフルスロットルに登場する速水誠と同姓同名の別人という設定です




