第二十二話:算盤の「残酷な解答」
「……見るに堪えないな、速水。君と那須が組んだ『風炎ライン』。計算上、その瞬間最大出力は一瞬だけ葵を上回っていた。だが、結果はこのザマだ」
算盤は眼鏡のブリッジを指で押し上げ、冷徹な分析を続けます。
1. 地力の差という「断崖」
「君のコアマブイは2500。桜庭葵は7000。この4500の差は、君がどれだけ『根性』や『戦術』を積み上げても埋まらない。例えるなら、マッチの火を何万本束ねても、太陽の熱量には勝てないという物理の原則だ。……那須妙子の風という触媒を使っても、太陽を消すことはできなかった」
健吾は歯を食いしばり、算盤を睨みつけました。
「分かってんだよ……そんなことは! 結局、地力(数字)がすべてだって言いたいのかよ!」
2. 算盤の意外な提案
「普通なら、そうだ。……だが、一つだけ『計算外』を起こす方法がある」
算盤はタブレットを操作し、健吾のコアマブイの波形データを拡大しました。そこには、健吾が自覚していない、一瞬だけの「異常なスパイク(突出)」が記録されていました。
「君が兄に言われた『再点火』。僕の理論で翻訳すれば、それは**『コアの強制共振』**だ。2500の器を壊さず、中身の密度だけを一時的に10000以上に引き上げる……。ただし、それは文字通り、君の命を削る行為になるがね」
3. 「計算者」のプライド
算盤は、少しだけ声を潜めて言いました。
「僕も、計算できない存在(葵)がこのまま君たちを蹂躙し続けるのは、僕の『美学』に反する。……速水。君を、僕の計算が追いつかないほどの**『特異点』**に作り変えてあげよう。阿蘇の源さんに伝えなさい。――『コアの殻をあえて薄くし、内圧だけで戦う設計に変えろ』とね」
4. 決意の夜
「……俺を、壊れやすい爆弾にしろってことか」
「そうだ。その代わり、爆発した瞬間の熱量は、あの桜庭葵の深淵すら一撃で蒸発させる。……やるか、速水?」
算盤の提案は、プロとしての寿命を投げ出すに等しい劇薬でした。
しかし、健吾の瞳に宿る火は消えていませんでした。
「……面白い。算盤、お前の計算通りに、俺がこの世界を焼き尽くしてやるよ」
健吾は、算盤が提示した「禁断のデータ」を握りしめ、再び阿蘇への帰路につきました。すべては、あの底知れない笑みを浮かべる少女、桜庭葵を「地力」でねじ伏せるために。




