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からくり競輪 ー烈風のマブイー  作者: 水前寺鯉太郎
プロデビュー編

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12/22

第十二話:死出の大逃げ(高松2日目)


1. 狂気の「残り二周」カマシ

通常の競輪では、勝負が動くのは残り一周半から一周。しかし、健吾は違いました。

残り二周半のホームストレッチ。まだ誰もマブイを温存し、牽制し合っている静寂の中で、健吾の『炎(HOMURA)』が突如として異音を発しました。

「ギィィィィィィィィィン!!」

「なっ、速水!? 早すぎるぞ!」

後方のラインが動揺します。残り二周、通称「赤板あかばん」を通過する前に、健吾は全マブイを解放。**「大逃げ」**を打ったのです。

2. 「単騎の大逃げ」の絶望的リスク

「大逃げ」とは、後方を引き離して独走する戦法ですが、単騎で行うのは通常、自爆行為です。

マブイの枯渇: 二周(約800m)を全速で逃げ切るには、通常の3倍近いマブイ消費が必要です。ゴールまで持たずに「ガス欠」し、最後は歩くような速度になるのがオチです。

後方の団結: 一人が極端に逃げると、後方の2つのラインが一時的に「共闘」して追いかけてくるため、結局は飲み込まれます。

しかし、健吾には昨日の敗北で得た確信がありました。

(昨日の俺は、お前らの風を気にしすぎた……。だったら、追いつく気も失せるほど、遠くへ行くだけだ!)

3. 阿蘇式・過給オーバーブースト

健吾は源さんのカスタムを信じ、脊髄インターフェースを限界まで深く押し込みました。

「熱い……でも、回れッ!」

背中のラジエーターから、炎のような排気熱が噴き出し、健吾の自転車は時速80km、85kmと、競輪の常識を超えた領域へ加速します。

後方の羽柴たちは、あまりの早仕掛けに「どうせ最後に垂れる(失速する)」と高を括っていましたが、その差は20メートル、30メートルと広がる一方です。

4. 凪を切り裂く一筋の紅

実況が絶叫します。

「速水健吾、完全なる一人旅! これは競輪か、それとも脱走か!? 後方はまだ動けない! 風の壁を一人で粉砕しながら、阿蘇の火の粉を撒き散らして突き進む!」

残り一周。健吾の視界はコアマブイの過負荷で真っ赤に染まり、スーツの関節からは「キシキシ」と過給の悲鳴が上がります。

(兄貴……見ててくれ。ラインも、風も、全部置き去りにしてやる!)

後方のラインが慌てて追撃を開始した時には、健吾はすでに最終バックストレッチを通過。

羽柴が必死に「風の道」を作って追い上げますが、健吾が残した**「マブイの熱風」**が後方の視界と吸気を奪い、追撃の足を鈍らせます。

5. 決着:孤独なる勝利

最終コーナー。健吾の足はすでに感覚がありませんでした。マブイを使い切り、筋肉が焼き切れるような痛みが走ります。

それでも、単騎の孤独な影が、最初にゴール板を駆け抜けました。

1着:速水健吾(阿蘇)

大差たいさ――2位以下を5秒以上引き離す記録的圧勝。

ゴール後、健吾は自転車ごとバンクに倒れ込みました。

大逃げを決め、一人で風を切り裂いた代償は大きく、スーツの排気口からは真っ黒な煙が上がっています。

観客席は、静まり返った後に、地鳴りのような歓声に包まれました。

「バカげてる……。でも、あいつ、本当に一人で逃げ切りやがった!」

羽柴翼が、遠く離れた2着でゴールし、倒れている健吾を見下ろしました。

「……イカれてるよ。お前、その走り……プロで長くは持たないぞ」

健吾は荒い息の下で、薄く笑いました。

「……長く持たせるつもりはねぇ。一瞬でも、誰よりも熱く回ってりゃ、それでいいんだ」

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