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からくり競輪 ー烈風のマブイー  作者: 水前寺鯉太郎
プロデビュー編

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第十一話:凪に沈む炎


1. 「風の結界」崩壊

健吾が巻き起こした乱気流は、確かに一瞬、後方を混乱させました。しかし、高松の風を知り尽くした羽柴翼は、動じませんでした。

「甘いよ、健吾。一人で風を掻き回したところで、その分お前のマブイが先に削れるだけだ。……行くぞ、徳島ライン! **『ツイン・ボルテックス』**だ!」

羽柴と、後ろに控える徳島支部のベテラン選手が、スーツの整流板を完璧に同調させました。二台のからくりがひとつの「巨大な矢」となり、健吾の生み出した乱気流を力技で貫通。

一人で風の壁を押し返し続けてきた健吾に対し、二人がかりで効率よくマブイを回す羽柴ライン。その速度差は、残酷なほど明白でした。

2. 呑み込まれる「炎」

「――ッ!? 背後に、巨大な『真空』が……!」

健吾が気づいた時には、すでに羽柴のフロントホイールが健吾の真横に並んでいました。

ラインの二人が作る巨大な空気の流れが、健吾を「吸い寄せ」、そして「弾き飛ばす」。

「悪いな、健吾。これが『ライン』の重さだ」

羽柴が横を通り過ぎる瞬間、その巨大な気流の余波ダウンウォッシュが、マブイを使い果たしつつあった健吾のスーツを直撃しました。

出力の落ちた健吾の『炎(HOMURA)』は、まるで巨大なトラックに煽られた軽自動車のように、一気にバンクの内側インへと押し込まれます。

3. 絶望の「ハコ」閉じ

先行を許しただけではありません。

羽柴が前を塞ぎ、後続の徳島選手が健吾の横を固める。

健吾は、完全に敵のラインの**「ハコ(囲い)」**の中に閉じ込められました。

イン詰まり: 前も横も塞がれ、速度を上げようにもスペースがない。

酸欠マブイ: 他選手のスーツから吐き出される「燃えカス」のマブイを吸い込み、健吾のコアマブイが不完全燃焼を起こして喘ぎ始める。

(クソッ……動けねぇ! 出られない……!!)

単騎先行の最大の弱点。一度ラインに呑み込まれれば、そこから再加速して抜き返すためのマブイは、もう残っていないのです。

4. 敗北のチェッカーフラッグ

最終直線。

羽柴翼は悠々と先頭でゴール。健吾は、必死にペダルを回すものの、包囲網から抜け出せないまま、後続の追い込み勢にも次々と差し切られ、5着という無残な結果に終わりました。

ゴール後、健吾のスーツからは、勝利の排気音ではなく、ただ虚しい蒸気の音だけが「プシュー……」と漏れていました。

5. 瀬戸の凪に誓う

「……ハァ、ハァ……。これが、単騎の……現実か」

ペダルを漕ぐ力も残らず、健吾はバンクの隅に座り込みました。

そこへ、ウィニングランを終えた羽柴が、涼しい顔で戻ってきます。

「言ったろ。単騎の逃げなんて、ただの『ボランティア』だよ。お前が頑張って風を切ってくれたおかげで、俺は最高に楽なレースができた。ありがとな」

羽柴の言葉は、皮肉ではなく事実でした。

健吾は拳を握りしめ、高松の穏やかな海を見つめます。

(足りない。全然足りない。風を散らすだけじゃダメだ。一車で、あの『ラインの壁』ごと、全部焼き切るだけの……圧倒的な熱量がなきゃ、俺は一生『風除け』で終わる)

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