第7話 なじかは知らねど 心わびて
どのくらいの時間がたったのかは分からない。ぼんやりとミムラは立ち上がり辺りの景色を見渡した。
コスモベースは、正常な姿のまま、そこにあった。
計器類も椅子やテーブルの備品も、破損している様子はない。
けれども、ミムラも他の乗組員たちも一様に不思議な面持ちで、お互いの顔を見やった。そこには、金の瞳と緑の髪をもつ者は、一人もいない。
青い瞳に小麦色の髪、あるいは黒い瞳に黒の髪……
瞳と髪の色が変わってしまっている……
どういうこと! これじゃあ、まるで地球人と同じだわ。
開いたハッチの向こうから、鳥が囀る声が聞こえる。ふらりと覚束ない足取りで、外に出たミムラは信じられないと、声を荒げた。
コスモベースの外の世界は目に染み入るような緑の森。そして、響いてくるのは、さらさらと流れる水の音。
にわかに脳裏に浮かぶのは、映像でしか見たことのない惑星……
"地球?!"
「ここは、地球? まさか……そんなことって! 確かに私たちのコスモベースは、ブラックホールの中に吸い取られたというのに……」
ブラックホールを通り抜けて地球にワープしてしまった……とでも言うの? その時に《《何らかの力》》がかかって、瞳と髪の色まで変えてしまった?
形質操作?!
まさか、アウルが……? でも、そんなことが出来るのはもう神の領域よ。そこまでの力を彼が持っていたなんて……私には信じられない。
「ミムラ教官! 訓練生たちが!」
乗組員の一人が森の向こうを指差し、驚いたような声をあげた。
岩場のある川べりの方向から、semi−intershipに乗り込んだはずの卒業生たちが、コスモベースに向けてふらふらと歩いてくる。彼らもやはりブラックホールを通り抜けて地球に降り立ってしまったのだろうか。
「あなたたち、よく無事で……」
だが、彼らの顔をしてはいても、その瞳と髪の色はやはり地球人のような色に様変わりしていた。
訓練生らの元へ駆け寄ったミムラは、喜びと戸惑いと不安の気持ちが混ざり合い、泣きたいような気持ちになった。だが、歩いてきたのは3人、訓練生は4人のはず……
「ジルは? ……ジル・ナイトシェイドはどこ!」
* *
“ジル、起きて。もうすぐ、地上が見えてくるから”
ジル・ナイトシェイドは、聞き覚えのある澄んだ声に目覚めさせられ、乗り込んだ高速ロケットの中で瞼を開いた。
夢を見ているのだろうか。周りに過ぎてゆくのは星屑の欠片でもなく、彗星の尾でもない。
青い空にかかる白い雲。
ロケットの操縦席から、眼下に広がる一面の緑の森が見える。長く蛇行した川が森の木々の合間を縫って、遠くの海へ流れてゆく。
「こ、これは、この景色は……」
地球?
そして、金の瞳と緑の髪の少女を乗せた宇宙船は、地上に向けて下降しながら、ゆっくりと速度を落としていった。




