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ローレライ2025  作者: RIKO(リコ)
第一部【宇宙編】
5/13

第5話 ブラックホール

 銀河の中を行く1機の宇宙船


 ― ジルと他の訓練生たちを乗せたsemi−intership ―


 それが、異様に強力なエネルギー波を放射する重い星へ引きずられてゆく。

 射手座のA*は、大質量のブラックホール。一度、その中へ落ち込むと光でさえも、その重力からは逃れなれない宇宙の墓場。


「お願いだから、僕をここから出して! 暗黒星雲の果てへ、ジルとみんなを行かす気なのか!」


 滲みだした鮮血をかまうこともしないで、アウルは吸音制御室の扉をたたき続けた。

 コスモベースの内部には、第1級の危険を知らせる、けたたましい警報音が鳴り響いていた。だが、極限まで外部と遮断された彼の部屋には、物音一つ響いてはこない。

 悔し涙が知らず知らずのうちに溢れてくる。それをこらえようとして、アウルははっと吸音モニターから逆流してきた音声に耳をすませた。


Ich weiss nicht was soll es bedeuten,

 Das ich so traurig bin


― なじかは知らねど、心わびて

  昔の調べはそぞろ身にしむ ―



「ローレライ……」


 その音を認識した時、アウルは絶叫した。


「この扉を開けろ! 僕をここへ閉じ込めるな!」


  緑の髪と金の瞳の少年の声が、部屋に轟いた瞬間、耳をつんざく大音響がコスモベースに響き渡った。


 アウルの中からほとばしった未知の“力”。


 接触感応コンタクト・テレパシーと、念動力テレキネシス


 その作用で、一気に膨れ上がった吸音制御室の空気の密度が、狭い空間に耐え切れず部屋の扉を押し破ったのだ。

 そして、アウル・ナイトシェイドは、吸音制御室から出て行った。粉々に砕け散った扉の上を夢遊病者のように覚束ない足取りで通り過ぎながら。


* * *


 コスモベースの管制室。


「semi−intershipの自動操縦システムへの精測レーダー進入を行います。誘導限界は3分。もし最終進入において5秒間インターシップからの送信がなかった場合はこちらからのアシストは無効となります」


 徐々に射手座A*の電磁波 ― ブラックホール ― の中へ引きずり込まれてゆく、 semi−intershipの映像を食い入るように見つめながら、女教師ミムラは、口惜しげに唇を噛みしめた。


「事前の整備には、何のトラブルもなかった……それなのに、なぜ、こんなことに……」


 コスモベースからsemi−intershipへ直接、誘導電波を送って軌道を修正させようとしても、絶大なブラックホールの吸引力に、勝てる見込みは1%にも満たない。


 手塩にかけて育ててきた訓練生たちを、むざむざ宇宙の墓場に追いやってしまうなんて……


「駄目です。訓練生からの送信はありません。semi−intershipは、ブラックホールの重力圏にすでに突入した模様で……」


 管制官の一人の声が空しくコスモベースに響いた。


「そんな、他に何か手立てはないのっ! あの子たちを見殺しにはできない!」


 泣き声のような叫びをあげたミムラは、その時、管制室にふらりと入って来た少年の姿に目を見張った。


「アウル……アウル・ナイトシェイド……」



 漕ぎゆく舟人 歌に憧れ

 岩根も見やらず 仰げばやがて

 浪間に沈むる ひとも舟も

 神怪き魔歌 謡うローレライ


 

  アウル、歌わないで。

  その歌を歌っては駄目。


 ミムラの頭の中に透き通るようなアウルの歌声だけが木霊していた。ぼんやりと薄れてゆく視界が、金緑から金紫のような光に彩られてゆく。

 酔っているわけでもないのに、口の中に甘美なワインのような味が広がった。だが、そこからは微かに血の味 ――がした。



ローレライ


それは、伝説。そして、地球から宇宙に伝え語られた魔性の調べ。




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