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第55話◇魔法官ご一行と大慌てのモルヒ叔父様

 呆然としていたため簡単に捕縛できたヨトウさんと隠し金庫から出てきた全ての証拠品を青騎士隊に引き渡すと、私たちはさっそく南ストレリチア邸に向かうことにする。


「ひとまずこれでヨトウについては確実に立件できるな」

「よし。じゃあ俺たちはもう行くよ?」

「後は頼んだよ、ウィリアムくん~!!」

「ああ、行け!!」


 青騎士隊の責任者としてのウィリアムさんにしっかりとそれらを引き渡して、残り四人で所定の場所に待たせていた馬車に乗り込む。

 カツラと眼鏡を先に外していた私以外のみんなも変装を解いて、アップルさんは魔法官の制服に、イデアとルークさんは「魔法官のお付きの人」らしいローブを身につけてフードで顔を隠す。


 そうして、馬車が南ストレリチア邸の前に止まったと同時に、さも「今走ってきて馬車を出迎えました」とばかりに私だけ先に外へ。


 少し急いだせいで息を切らしていたら、ちょうど「主人として国から派遣された魔法官を迎える」という体で表に出てきた叔父様に「客人を迎えるというのにそのように息を乱すなど、淑女としてどうなんだ」と文句を言われてしまった。


 私の淑女教育なんて、ここ数年、叔父様の「徹底的に教えない」って手配で全くできてないのにね。


 応接室に通されたアップルさんは叔父様に勧められるままにソファーに座り、私もその横に座るように言われる。

 叔父様はアップルさんの対面に。

 イデアとルークさんはアップルさんと私が座るソファーの背後に立っている。


 叔父様のソファーの後ろには叔父様付きの侍従がいて、メイドたちがアップルさんと叔父様にお茶を出す。

 メイドたちがはけて簡単な挨拶が終わると、アップルさんが私に向き直った。

 あえて初対面っぽく振る舞っているのがお互い少し面白かったりもする。


「それではイリスさん、魔法を使って頂いても?」


 ……ついにこの時が来たんだわ。


 既にアップルさんに私の魔法は見てもらっているわけだけれど、これが叔父様向けに披露する最初の魔法になる。

 何しろ、今日までこの人は私が魔法を使えることを断固として認めようとしなかったのだ。


「はい」


 その場の全員がじっと私に注目していて緊張感はあったけれど、プレッシャーとまではいかず、悪くはない手ごたえを感じながら私は唱える。


「風よ、私の手元に集まって」


 すると、風魔法の「白の魔法陣」が私の両手の間に発生した。

 そのため、叔父様と叔父様付きの侍従の人が驚いたように声を上げる。


「な……っ、白い魔法陣だとっ?!」

「こ、これは、まさか、『女神様の息吹』……!!」


 チィと話していた通り、叔父様たちは「風」の魔法だけでもこんなに驚いてくれた。


「イリスさんは『風』の魔法……それも、特別な、『風』の魔法が使えるようですね。女神様の加護を受けていらっしゃるという証なので、こちらはアストラルの王家、そして女神教会本部の方にも報告することになります」


 ニコッ、とアップルさんが叔父様に笑いかけつつの説明をする。

 ちょっと圧がある笑い方だ。


「そんなことは幼子にも知らされていることですから、この点は私が説明せずとも、とっくに報告義務についてはご存知と思いますがね、モルヒ公。形式として、改めてお伝えしておきますね」

「う、む」


 本当は魔法が使えることさえ魔法官様に報告したくなかった叔父様としては、歯切れが悪い返事をすることになった。


「はい、では魔法認定も終わりましたので、次は魔法学園についてですね。これで正式にイリス嬢は入学資格が得られたので、認定書と共に入学案内の書類をお渡しして……」


 アップルさんがガサガサと鞄の中から手持ちの資料を取り出そうとした、その時だった。


 コンコンコン!!

 突然、鋭く早いノックの音が響いて、すぐにドアが乱暴に開けられる。自然と全員の視線がドアに注目した。


「モ、モルヒ様、申し訳ありません、緊急のお話が!!」


 そう言って入ってきたのは、叔父様の部下で護衛の人だ。


「何だっ、今来客中だぞ!?」


 叔父様が言う通り、これは本来ならマナー違反のはずだけれど、彼にはよっぽど叔父様に伝えたいことがあるらしかった。

 ツカツカと入ってきて叔父様に耳打ちする。


「いえ、実はっ……ヨトウがっ……」

「――っ、何だとっ……!!」


 ヨトウさんが捕縛された話がようやく伝わったようだ。


「アップル殿。非常に申し訳ないが、アネモネの時と全く同じ説明の繰り返しとなるのなら、所用ができた故、私はここで失礼させて頂く。イリス、この先の話は一人で聞いておけ」

「わ、分かりました」


 言い置いて、足早に去っていく叔父様。

 侍従も護衛の人も一緒に出て行ってしまい、応接室には私たちだけが残された。


「……さて、どうしたんだろうねぇ、モルヒ公は?」

「ずいぶんと、分かりやすく、慌てちゃってるねぇ」


 ルークさんとアップルさんがニヤニヤと笑っている。


「外に出て行ったようだね。ヨトウの邸宅を覗きに行ったかな?それとももっと別の……『繋がっている先』かな?」


 しばらく黙って耳を澄ませていたイデアは、叔父様が立てた物音をずっと追っていたみたいだ。

 確かに慌ただしく玄関を出て行った音だったと思う。

 遠く馬のいななきも聞こえているから、慌てて馬車でも用意させているのだろうか。


 一体どこに行くのかしら?


 それは分からないけれど。

 今日行われる予定だった全ての作戦は、これで計画通りに終了した。


「やったねっ、イリスちゃん!!無事作戦完了だよ!!」


 こうルークさんが言ってくれて、私は笑顔になる。


 今日、もしかしたら殺されるのかもしれないと、ずっと不安だった。

 でも私は今、生きてここにいる。

 私にとっての悪いこと、その全てが解決したわけではないだろうけど、少なくとも「入れ墨の男に刺されての死」は、アンクルさんたちを退けたことで乗り越えられたんだと信じたい。


「はいっ!!皆様、本当にありがとうございました!!」


 みんなでハイタッチなんかしたりして。

 私は声を立てて笑う。

 今はこの喜びをかみしめたい。


 みんなのおかげで、両親が亡くなって以来、まるで赤の他人の家みたいによそよそしく思えていたこの邸宅の中で、初めてこんなに笑えている。


 お父様とお母様がいた頃は、こんなふうに私も笑っていたのだ。

 笑顔が絶えない家だった。


 やっと、そんな時間が戻ってきた気がするわ。

 少しでも続き気になられましたら、★★★★★とブクマで応援して頂けると嬉しいです!

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