第53話◇裏帳簿の隠し場所は?
ウィリアムさん・アップルさん・ルークさんは青騎士隊の方に軽い怪我人が出ていたのと、捕縛した人たちを王都まで連行するための指示に追われている。
近衛である青騎士隊が王都以外の土地で犯人を捕縛した場合、本来ならその土地の領主に指示をして領地にある留置所に一時的に入れることになっている。
でも、今回に限っては絶対にそれを叔父様に任せるわけにはいかないから、直接王都の本隊と連絡を取り合いながらの身柄の移送になるようだ。
何しろ、捕縛者の人数が多いんだものね。
そのため、私とイデアはそちらを三人に任せて、この強制捜査でまだ捕らえきっていない最後の人物、ヨトウさんを捕まえるために、二人っきりで彼を捜索することになった。
「きっとヨトウは邸宅の中で息をひそめているはず……」
そう予測したイデアが、スタスタと軽快に玄関から入っていく。なので私もそれに続く。
あれっ、そういえばドアは?
歩いてきた私の経路に、ドアは既に存在していなかった。
突入時、ウィリアムさんが斬って飛ばした「かつて門だったはずの鉄棒」が数本、見事にドアを突き破って一帯を破壊し尽くしていて、周囲の壁や絨毯なども含めて完全にズタズタにしていたから。
破壊済ゾーンを通り越して、私たちはルークさんが事前に突き止めていた「怪しい場所」に向かってみる。
階段を上がった二階にある、ヨトウさんの私室の奥にある小部屋だ。
「ここだな」
今度はガチャリとドアを開けて、イデアが部屋の中に入る。
ベッドと、クローゼットと、書き物のためのテーブルとイスがあるだけの、シンプルな部屋。
ここがヨトウさんの私室なんだと思う。
そしてその奥に続き間があった。
「この奥、よね」
足を進めて覗き込むと、まるで物置小屋のようにごちゃごちゃと、様々なガラクタが置かれていた。
すごい、確かにこの部屋、怪しいかも。
ここまで大量にものが置いてあると、いちいち手に取って確認したり木箱を一つずつ開けてみたりと、「どこに隠してあるか」を捜索するのにも、ものすごく時間がかかりそうだわ。
ウンディーネが描かれた油絵。
金製の香炉。
動物や植物をモチーフにした浮き彫りが全面に施されたアンティークの家具。
三角帽子をかぶった象牙製のノームの置き物。
つやつやと輝く流木。
珊瑚のオブジェ。
美しいレースで作られたドレスを纏ったシルフの精巧なお人形。
甲冑。
繊細で鮮やかな花の絵が描かれた観賞用の大量の陶磁器。
銀の水差しとコップのセット。
刃は外されているものの金銀宝石の装飾と彫刻が施された槍の柄。
さも貴族らしく偉い人っぽい髭の男の人の銅像。
翡翠の腕輪と指輪とネックレスのセット。
今にも襲い掛かってきそうなサラマンダーの銅像。
大量の古書。
他にも、じっと見ても何なのか分からないアイテムや、中身が分からない木箱が、無差別かつ大量に並べられていた。
そしてその木箱の隙間に、ヨトウさんが文字通り、ビクビクと震えながら潜んでいた。
「ああ。君、こんなところに隠れていたんだ?」
「ヒイッ!?」
イデアが声をかけると、飛び上がる勢いで驚いてこちらを見る。
かわいそうに思えるくらいに彼は怯えていた。
「ここに逃げてきた、ってことは、君が隠し通したい書類もこの空間にある、ってことかな?ヨトウ・キャビッヂ」
ルークさんはあくまでも「邸宅の構造上、一番怪しいのがここ」と指摘していただけだったけれど、当の本人が追い詰められた結果、「何をおいてもこの部屋に」と辿り着いたというのなら、このゾーンに裏帳簿が隠されている可能性はかなり高そうだ。
「ふ、ふん、だとしたら何だっ!!どうせ貴様らでもどこに隠されてあるかは分かるまい!!」
「自信たっぷりに言うね?」
「そりゃそうだ。俺にもどこにどう隠してあるか、このガラクタのうち、何が隠し金庫になってるのか、分からねぇんだからな!!俺を拷問して聞き出そうっつっても無駄だぞ、何しろモルヒ様自らわざわざここに、南ストレリチアの屋敷から荷物を運びこんで隠してんだ!!でも、俺はその現場を見てねぇんだからな!!」
イデアに煽るように言われて、ヨトウさんはうっかりそんなことを口走ってしまう。
それじゃあ「確かに裏帳簿はここにある」とか「叔父様が自ら隠した主犯だ」とか、いけないことを言ってしまったも同然なのに、と私は思ったけれど、ヨトウさんの早口は止まらない。
「それに、モルヒ様言ってたぜ。モルヒ様と同じ、三属性以上の精霊魔法を使える人間しか、隠し金庫の鍵は開けられねぇってな!!四属性全てを使えた死んだ前当主・ドラセナが生きてりゃワンチャンあったかもしれねぇがなぁ!!ハハハ、死んでっからなぁ!!残念だったなぁ!!」
ドラセナ、お父様の名前……。
勢いのままヨトウさんが口走ったのは、大切なお父様の名だった。
こんなふうにお父様のことを言われるなんて、と私の心臓はキュッと掴まれたみたいに苦しくなる。
でも、お父様も、四属性の魔法を使えていたんだわ。
そして叔父様も、三属性を使えるということなのね……。
敵側の、悪い人ではあるんだけれど、私にお父様の話をしてくれる人は少ない。
これも貴重な情報源と思うことにする。
「探せるもんなら探して見ろよ……!!」
こう言い放ったヨトウさんの目は血走っていて、ひどく興奮もしていて、それは自棄になっているようにも見えるけれど、同じくらい「絶対に見つけられるわけがない」と自信を持っているみたいだ。
「どこ……一体どこに隠されているの!?」
私はこの部屋全体を必死に見回す。
どうしよう、全然分からない!!
ここに置いてあるもの全てが、どれもこれも怪しく思えてくるわ……!!
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