第1話◇精霊女王の怒りと女神様からの召喚
すでに息は上がり切ってえずきそうになるくらい苦しかったけれども、この足を止めることはできない。
薄暗い森、人が使う道からはとっくに外れて、道なき道を進んでいく。
やがて逃げ道はなくなった。
追い詰められた袋小路、私の足を払うように追手の長剣が振られるのを見る。
そしてわけがわからないうちに、私は地面に倒れ伏していた。
「っ、あああ……!!」
瞬間、私はその襲撃者の足に赤いトカゲらしき入れ墨を見る。
その体が暴れないようにと足で押さえつけるようにされて、とどめの刃が私の腹部に突き立てられた。
ああ。
わたし、死ぬんだわ……。
悟ったはずだったが、しかしほんの少し、もう数分だけ私は生き長らえることになった。
集まってきた襲撃者たちはもはやぐったりとして動けない私の服を探って宝玉を奪おうとしたが、突然、宝玉の中から恐ろしい鳥の化け物が空に現れたのだ。
その鳥はあっという間に周囲の男たちを蹂躙した。
朽ちた落ち葉が紅葉のように鮮やかな血の色に染まっていく。
やがて全ての命を狩り尽くすと、鳥は何故かこちらに近づいてきて寄り添う形で私をその翼に包み込んだ。
……ストレリチア、だ。
私はその化け物の名を知っていた。
しかし、そこにある一団が駆けつける。
我が国の第一王子・アルウィン殿下とその部下たちだった。
護衛たちが「アルウィン殿下を守れ!」と、名を叫んだのを聞いた。
ああ。
アルウィン殿下が、来てくださったのね……。
心強いその方の存在に、私の心は少し軽くなる。
けれど。
王国トノ盟約ハ、イトシ子ノ血ニ穢サレタ、始祖王ノ血ノ者ヨ、我ヲ裏切ッタナ、許サジ、許サジ……!!王族ナド、根絶ヤシニシテクレル!!
しかし、化け物は一喝。
途端、生み出されたつむじ風が無数の刃と化した。
複数の悲鳴。
目と鼻の先の距離で、金髪のその人が倒れ伏す。
その時、ちょうど顔が見えた。
本来なら、さらさらとしていそうな金髪と澄んだ湖のような水色の瞳を持った、とても美しい人。
今はその全身が赤色にまみれて、金髪は乱れ切って一部は血で頬に張り付いている。
息も激しく切らして。
そんな……。
王家の方まで殺されてしまうなんて。
完全に巻き込んでしまった形になっている。
一体どうして、こんなことに……。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ひっ、と思わず漏れた泣き声に気付いたのか、アルウィン殿下がこちらを見た。
彼の右手がこちらに伸ばされる。
まるで残った全ての体力と気力を振り絞るようにして。
「ああ、間に合わな、かった……貴女はこのように、はかなくなる人ではなかった、はずなのに……」
そう血に汚れた殿下の唇が最期に小さく悔し気に呟いたのを、私は遠ざかる意識の中で聞いた。
やがて意識は途切れていく。
この恐ろしい状況もこれでようやく終わるのだと、私はそのままそっと目を閉じる……。
何だろう。
身体を揺すられる感覚がある。
「――リス嬢、目を開けてくれ、イリス嬢!!」
そして、声も。
この声は……。
私はこの目を開ける。
至近距離、大きく見えたその顔は。
「アルウィン、殿下……?」
「よかった、気が付いて。大丈夫?起き上がれる?」
私が声に反応したことで、殿下は「安心した」と言いたげに、ふう、と大きく息をついている。
ご心配をおかけしてしまったみたい。
腕を取られて支えられるようにして、私はそのまま抱き起こされた。
「だい、じょうぶです」
本当に、不思議と、平気だった。
無傷だ。
つい先ほどまであれだけ辛かったはずの体も、全く痛くない。
刺された傷の痛みも血で汚れた服も乱れた髪も、そこには存在していなかった。
どころか、森の風景さえ存在しない。
白い。
そこはとにかく、純白の世界だった。
私たち以外に辺りには人も存在せず、建物もなく、街並みもない。
ただどこまでも続く白い地面と白い空――ううん、正直、これが地面なのか空なのかもよく分からない。
見知らぬその場所に寝そべる形になっていたのを、私は起こされたようだった。
「あの、ここは、私たちは、一体……」
「分からない。少なくとも、我が国・アストラルのどこかではないように感じるが……」
アルウィン殿下なら何が起こったのか分かるのかも、と思ったけれど、そうではなかったみたいだ。
『ここは神の領域。女神様のおわす場所』
「えっ!?」
「何者だ……?」
けれど、全く違った方向、私たちの背後からその回答があった。
いつの間に現れたのか、そこには白銀色の、機械仕掛けのカラスがいた。
『各々方、女神様がお呼びである。ついてこられよ』
白銀カラスは私たちの疑問には答えない。
言うだけ言っておいて、あとは振り向きもせず、そのままピョンピョン、ガシャガシャと跳ねるように白の道を進んでいく。
女神様というと、「創世の女神様」――この世界を創られたお方。
女神様を称える「創世教」は多くの人々に広く信じられていて、その宗教観は広く人々の生活に根付いている。
そしてアストラル王国では国教でもある。
分からない。
分からない以上、私たちもそのままついていくしかなかった。
「女神様がお呼びである」という、ただその一言に従って。
すっと殿下に手を差し出される。
それはエスコートの意志を示すものだった。
その手に支えられて、私は立ち上がる。
男の人からエスコートされるなんて初めてで、淑女教育が半端な私は正式な方法で立ち回れているのか分からない。
けれども、ただ今は促されるまま進むしかないわね……。
手を出すと、不安になっている私の気持ちを悟って下さったのか、少し強く握り返された。
大丈夫だと言うみたいに。
わりとハードな感じで始まりましたが、死に戻りものによくある「いつものパターン」なので大丈夫です、ちゃんと生き返ります!笑。
バッドエンドルートがこう、というやつですので、今後これより悪い展開は全くないです!
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