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精霊姫イリスと誓いの絆~一途な王太子は彼女への愛を心に刻む~  作者: 鰯野つみれ
第1章「女神様との邂逅と、私の初恋の記憶」
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第2話◇私と殿下の「初恋」の思い出

 私たちはかしゃりかしゃりと鳴る白銀のカラスの足音に誘導されて、歩き出す。

 何故かこの空間はひどく音が響いた。


「申し訳ありません、アルウィン殿下」


 この沈黙に耐え切れず、私はお詫びする。

 あの森での惨劇は、確かに起こったことだと理解して。


「私、私……何もできませんでした。精霊族の娘のはずなのに、ストレリチアを……あの状況を止められず、殿下や部下の方も、巻き込んでしまって」


 この世のあらゆる精霊を統べると伝えられる精霊女王「ストレリチア」、今から何百年もの昔、彼女が人族の男と交わり生まれたその子こそが、私たちの一族であるストレリチア家の始祖だそうだ。


 人族としての基本的な生体機能や見た目を引き継ぎながらも、一般的な人族には絶対にあり得ない「精霊女王由来の特有の強い魔力」を併せ持つ一族。

 この特殊な家系は便宜上「精霊族」と呼ばれ、通常の人族とは区別されることになった――。


 あれはストレリチアの力が顕現したもの、だと思う。

 だとすると、その血を継いだ者として、私が抑えなければならなかった。


 それなのに。


「伝説としては聞いていたが……あれが精霊女王・ストレリチアの一面だというのか」


 殿下は呟いて、そこであの状況を思い出したのか、切なげに眉を寄せた。

 そして小さく首を振る。


「いや、しかし、確かに語られた通り、王家側に不足があった。こちらがもっと早く動けていたら、こんなことには……」


 そうして、私の瞳を見て、謝罪する。


「すまない。君を苦しませた」

「いいえ……いいえ」


 殿下が悪いわけではない。

 そう思ったから、私は首を振る。


 むしろ、殿下は巻き込まれた側だもの――そう考えたところで、ふと疑問に思う。


「あの、アルウィン殿下はどうして、あの場所に……?」


 王都にいらっしゃるはずの殿下が、どうして我が南ストレリチア領の森に?

 問いに、殿下は何故か、少し恥じた表情になる。


「君を助けたかったんだ。どうしても。……できなかったが」

「私を……?」


 私は疑問を込めて殿下の横顔を見る。

 歩みを進めるたびに絹糸のような艶やかな金色がサラリと揺れて、眩しい。


「一度、城でのお茶会で会っただろう?」


 その問いに、私は頷いた。

 確かに、私はアルウィン殿下とお城でお会いしたことがある。

 かなり幼い頃のことだけれど。


「はい。おぼろげながらではありますが、覚えております」

「実はね、イリス嬢。私はその時から君に好意を抱いている」

「え……っ」


 ど、どうお返しすべきなのかしら。

 冗談、では……。


 その唐突な告白に驚いて視線を上げてみると、殿下の二つの瞳も私を見つめ返していて。


 本気で、おっしゃっているんだわ。


 その水色の瞳には、嘘が全く混ざっていなかった。

 澄み切ったそれに真剣さを感じ取って、私は思わず足を止めかける。

 けれども、促されるようにそっと手を引かれたから、私は従って、そのまま、また歩き出した。


「で、でも、たった一度、お会いしたことがあるだけなのに」


 平静に振る舞おうとするけれど、あまりのことに動揺し過ぎて、完全に声が震えていた。

 心臓もバクバクと大きく音を立てていて、息が上手く吸えない。苦しい。


 殿下にも聞こえてしまうかもしれないわ……っ。


「確かに、一度だけだね。でも、私にとっては、その一度だけで恋するには十分だった。忘れたことはないよ」


 なのに、殿下はますます私を動揺させることを、「恋」なんて単語を口走る。


 一度会っただけなのに、あんなに幼かったのに。

 今でもたまに思い起こすことがある。

 宝物みたいに大切にしまい込んでいた優しい美しい、二人だけの秘密の記憶。


 忘れ去ろうとしていた、きっと私の初恋だったもの。


 あまりにも他愛のない出会い過ぎて、きっともう忘れていらっしゃるのではと思っていたのに。

 すっかり覚えていらっしゃる上に、私に恋をしたとまで聞いてしまったら、一体どうしたらいいの。


「ちょうどあの頃、王太子としての期待の重さが耐えがたくて、すねていたんだ。礼節など、無意味だとも思っていた」


 確かにあの時の殿下は、らしくなく姿勢を崩していたと思う。

 すねていた、と言われると納得できてしまうくらいに。


「でも、年下の君があの日、とても綺麗に淑女の挨拶をしてくれた。美しいと感じたし、挨拶を受けて嬉しいとも感じて」

「そ、そんなっ……」


 あの日を思い起こして、顔から火を噴きそうになる。

「ほうら、私にもちゃんとできるもの」なんて得意げになった、子供っぽい挨拶を今思い起こすと、とても恥ずかしい。


「そういう気持ちを伝えるためにも、礼儀というものは必要だったと知った。それで、こんなことでは君の前に立つのが恥ずかしいと思って、心を入れ替えたんだ」


 けれど、こう続けた殿下は微笑んでいた。

 これは本当に大切な思い出なんだと言いたげに。

 だから、別の意味で余計に恥ずかしくなってきてしまう。


「本当は、ずっと会いたかった」


 そのアルウィン殿下の気持ちを表すように、手を握る力がさらに強くなる。


 私も、もっとお会いしたかったと思う。

 あのお城での思い出は、両親がまだ生きていて幸せだった頃のもの。

 私にとっても殿下は優しくて素敵なお兄様のような存在だったから。


 ……お兄様みたいと、あの時は思ったはずなのに。

 今は完全に男の人として意識しているみたい。


 殿下のお気持ちを聞いたせいかしら?

 こんなに、ドキドキしているわ、私……。



 少しでも続き気になられましたら、★★★★★とブクマで応援して頂けると嬉しいです!


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