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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
運命の人
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覗き見 2

 リーシアは少し意識を無くしただけですぐに目が覚めた。

 寝台に座っていてそのまま横になったようだった。

 今視終わったことを、今エイゼンとドゥノが丁度話している最中だと思うと、リーシアは不思議な気分がした。

 

(ようやく婚約を解消したいことが本気だと伝わったのね。

 あんなにショックを受けたエイゼンは初めて……)


 リーシアは複雑な思いを胸に、小さく息を吐いた。

 吐く息は少し熱く、下がったはずの熱が戻ってしまったのを感じた。

 またしばらくは寝台から動けないだろうと再度息を吐いた。


(エイゼンを傷つけたかったわけじゃない。

 自然に離れて行けるようにしたかったのに。

 呆れられるくらいが丁度良かったのに)


 未来が視えるといっても全てを視ているわけではない。

 視なかった部分に何があるかわからないし、視えた部分もリーシアが干渉することで変わってしまう未来でしかない。

 望み通りに操作なんて出来ないが、それでも思わぬことが起こると強い後悔が沸き上がった。

 変えられたかもしれないと、もっと良い未来(いま)に出来なかったのは自身の力不足だと思わずにいられなかったからだ。


(意地悪な女に見せても駄目だったのに、貴族じゃなくなりたいと言えば落ちこむなんて。

 義務と責任を捨てるだなんて、ドゥノ様の言う通り考えてもいなかったわ。

 責任感がないと呆れられたのもあるかしら)


 リーシアは布団を被って自嘲気味に笑んだ。

 エイゼンとドゥノの会話を見て、自分自身の将来のことをあまり考えていないことに気付いた。

 まずエイゼンとの婚約を解消すること、家が悪く言われないように立ち回ること、友人たちが幸せになれること、それがリーシアの行動の根っこだった。

 解消できた後の自分がどうなって何をして行くのかまでは考えが及んでいなかった。

 ――問題なく解消出来る未来が全くなかったからでもあったが。

 

 視えた未来を拒絶するため、未来は何度も何度も変わり、今では最初に視たときと全く違う未来に変わっている。

 それでもエイゼンと結婚する未来が続いている場合は多く、そうでない場合は自身の力では異能を理由に破滅する事態ばかりだった。




 エイゼンと結婚すれば上手くいかずに壊れていく。

 大事にして優しくしてくれる彼は不貞行為などで裏切ることもない。

 けれど彼の視線の先に自分はおらず、子を産んだ未来があったことはなかった。

 エイゼンと結ばれるとリーシアは体調を崩して長生き出来ない。

 早死にする自分を見続け、自分が死んだ後の彼がどうなるかも気になり、死んだ後の世界も確かめるようになった。

 彼はリーシアの死に苦しみ、何年も独身を貫き、ようやく再婚する。

 ――ひっそりと、ずっと惹かれていた女性と。

 再婚した彼はリーシアの影を引きづり苦しそうだが、愛して慰めてくれる妻と幸せに暮らす。

 ――リーシアさえいなければ、もっと早く結婚できていたはずの女性と。



 異能がばれて身を滅ぼす未来に続くこともあった。

 ユレアノに打ち明けようと覚悟した時なども酷かった。

 異能として国に仕えれば自由がなくなるからと、ユレアノはリーシアの事を隠そうとする。

 それが逆に目立って、ユレアノに打ち明けると確定で異能が知られてしまうらしかった。

 知られると二人とも反逆者という扱いで拘束・監禁されて道具のように力を使うことを要求される。

 家も異能者を隠していたことで重い処罰を受け、父母は娘の末路に涙し絶望する。


 結婚しても不幸、異能が露見すれば結婚しない道もあるが不幸。

 異能とばれないまま結婚を回避することしかリーシアの頭にはなかった。

 責任感などと言われても、上手く処理できず虚ろな言葉にしか聞こえなかった。


(心が死ぬか体が死ぬかの二択。

 領民を守るためでもなく、誰かのためにもならないのに耐える意味はないわ。

 私が耐えて『不幸』になったとしても、私の大切な人たちが幸せにならないのだもの)


 それは言い訳ではなくただの事実で、リーシアは不幸になりたくないことに罪悪感はなかった。


 リーシアの死後、エイゼンは葛藤し自責の念に苦しめられる。

 そもそもエイゼンはリーシアと婚約していなければ、これから好きになる人と幸せになれるはずのだ。

 リーシアの父母も娘を守れなかった後悔などでやつれ、悪い時は娘の後追い心中する。

 義弟はどんな未来でも、義姉が死んで自分が蚊帳の外に置かれていたと知り人間不審になる。

 友人達も、使用人達も、暗い顔で泣いていた。


 リーシアが不幸になると、親しい人達は何かしら心に大きな傷を負う。


 目を閉じれば怠い体は眠りを求め始めたが、扉の向こうで話し声と人の動く音が聞こえて、リーシアは現実に戻された。


(ユレアノ様の声と……割れた小瓶を片付けているのね)


 管理人とユレアノが片付けをしていると分かり、リーシアはまた目を閉じた。

 熱の出ているリーシアが行っても困らせるだけだ。

 手伝いを考えず大人しく寝ている方が彼らの心は平穏だ。


(そうだ、ユレアノ様……)


 リーシアは熱くなっていた体が一気に冷たくなるのを感じた。

 ユレアノはエイゼンの前で、これでもかと言うくらいリーシアを心配していた。

 演技ではないその様子はユレアノの優しさとリーシアへの親愛を正直に表現していた。


(あれだけ仲が悪いように演技してたのにどうしよう)


 リーシアは勢いよく上半身を起こした。

 目眩がして倒れるがそんな場合ではないと手を付いて起き直した。


(ユレアノ様と仲が悪いけど仲が良い台本を考えないと。

 矛盾がないようになんて、どうやって?

 どうしよう)


 演技とばれていることを知らないリーシアは必死だった。

 一生懸命頭を働かせ考えていたため、片付けが終わったユレアノが部屋へ戻ってきたのも気付かなかった。


「リーシア様、無理しないで」


 ユレアノは体を起こそうとしているリーシアを寝かせなおし、看病のため忙しく動き回った。

 嫌な顔もせず冷たい水やタオルを用意して汗をぬぐい、食べやすい物をと果物を切る。

 今日だけではなくいつもリーシアを心配し、気遣って大事にしてくれる。

 リーシアは優しく愛しい親友を見て涙が滲んだ。


「ユレアノ様、ありがとう」

「早くよくなってくださいね」


 ユレアノの慈愛あふれる笑顔がリーシアの胸に刺さった。

 一番の友達で優しくて強いユレアノ。

 頑張り屋で一生懸命で。

 自由のない異能者で。

 リーシアを心から心配して大事にしてくれる。


 リーシアは心の中で強く誓った。


(ユレアノ様、ありがとう。

 私、頑張ります)


 彼女に幸せになってほしい。

 そんな想いでいっぱいになった。


(頑張って、出来るだけ早くエイゼンと別れますから、待っていてくださいね)




 ユレアノはエイゼンの『運命の人』なのだ。

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