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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
運命の人
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覗き見 1

 リーシアは『夢』の中でエイゼンを視ていた。

 手の怪我が気になって、見たくないと思いながらも目が離せなかった。

 時間的には未来と言いながら、同時進行に近い未来だ。

 数分先に起こる事を視始め、視ている内にその時間軸が遠く離れていく。

 実際の時間よりも力で視ている時間の方が短いために、今の出来事から未来に起こる事へと、次第に引き離されていくのだ。

 今までになかった力の使い方で、リーシアは未来と言いながらも現在に近い誰かの行動も見えるのだと知った。

 まるで覗き見のような力だ。


 関われないタイミングの未来なので、今まで見てきた未来のように大きく変わることもないはずとリーシアは考えた。




 エイゼンはユレアノと別れ、というよりも放置され、一人医務室へ向かった。

 普段は医師や看護士のみだか、王族が在学している間は、城から派遣された異能の者も待機することになっていた。

 王女であれば女性、王子であれば男性が派遣されるため、ルクレイスが在学中は男性の異能者が居ることになる。

 医務室では医師たちが紅茶を飲んでいた。

 ローレッタはまだ戻っていないようだった。

 病人も怪我人も出ることは少ないため、医師らは基本的に休んでいるか研究をしている。

 エイゼンに最初に声をかけたのは医師ではなく異能者であるドゥノだった。

 茶色い髪と目で背は低め、30代前後の男性だ。


「ルクレイス様に何かあった?

 そんな訳でもなさそうか」

「え、あ、はい」

「どうしたんだ。

 君がそんな間の抜けた顔をしているなんて」

「いえ、別に。

 手を怪我したので」


 医師たちはドゥノと視線を交わし、ドゥノはエイゼンを奥の部屋の1つへ案内した。

 医務室の診察や相談のため、小部屋が幾つかならんでいる。

 熱を出しやすいリーシアもたまに世話になることがあった。

 ドゥノはエイゼンを椅子に座らせて、治癒で簡単に傷を治した。


「君がそんなだとルクレイス様に影響しかねないよ。

 何か問題が起きたのか?」

「まあ、いえ」

「あの変わり者のリーシア嬢のことかな」

「リーシアは謎めいているだけだ。

 変わり者なんて言い方をしないでください」

「客観的に見て変わり者だろう。

 感情的な濁った目ではいずれコーラス家を名乗れなくなるよ」

「……」

「君はルクレイス様に与える影響が大きい人間の一人だ。

 もしずっとそんな態度でいられると関与せざるを得ないんだが」

「リーシアが」

「うん」

「リーシアが貴族を辞めてでも婚約を解消したいと」

「嫌われたものだねぇ」

「違うんです」

「すごい自信だ」

「ずっと一緒に居たんです。

 だからわかるんです。

 自信なんかじゃない。

 さっきも怪我をしないか心配して」

「好いてない相手を心配することもある」

「……」

「まぁ、貴族を辞めるなんて無理だよ。

 学園で多少自立した生活を体験すると言っても平民のレベルじゃない。

 何もしなくても食事が出てくるのに、その食事を作るために買い物に行って、買い物をするために市場へ足を運び、代金を払うために汗水垂らして労働する。

 無理だね」


 エイゼンは咎めるような視線をドゥノへ向けた。

 

「貴族には貴族としての仕事がある。

 遊んでいるわけじゃない。

 時には何もせず何かをして貰うことすら仕事です」


 感情が揺れているためか、エイゼンの口調は定まらなかった。


「羨ましい仕事だよ」

「義務も責任も無ければね。

 ……権利も義務も全て投げてまで別れたいのかと思うと」

「果たしてそこまで考えてるかなぁ」

「リーシアは考えています」

「子供だろう。

 リーシア嬢も君も。

 貴族が平民になった時の苦労をちゃんと分かっているかな」

「リーシアは、大丈夫てす。

 彼女はヴィジット家の娘ですから」

「貧しいの?」

「逆です。

 ヴィジット家を知りませんか」

「僕は元は平民だし仕事とも関係ないしね。

 習ったかも知れないけど覚えてない」

「ヴィジット家は地力のある家の一つです。

 領地と親族を何より優先するので表に出ませんが」

「……国よりも?」


 ドゥノは興味が湧いたか目を細くして片眉を上げた。

 良い感情で無いことはエイゼンも気づいたが、この国の貴族にとっては一般常識レベルの世間話なのでそのまま話した。


「領民にとって分かりやすい主君は領主です。

 領の運営が安定して良好で自治を大きく認められている領が幾つかあって、ヴィジット領もその一つです。

 領は富み、領民は領主を信頼して従う。

 栄えている小国と考えると分かりやすいですね」

「それは良くないんじゃないの?

 その頂点として敬われるべきは王家だ」


 ドゥノはリーシアの実家の説明の前置きにでなく、国と領主と領民の関係に食いついた。

 領主と領民だけで完結しているような説明は、ドゥノには気に入らないものだ。

 王族に仕える異能持ちは王族至上主義に教育される。

 どの程度に染められるかは異能と発覚するまでの家庭環境にもよるが、ドゥノは濃く染まっているようだった。


「国にとっても領に取ってもメリットがありますからね。

 良し悪しはともかくヴィジット家はそんな家の一つです。

 リーシアが町へ降りれば沢山の人が助けるでしょうし、ヴィジット家は平民とも距離が近いので知識もあるでしょう

 ……リーシアが本気で望めば、ヴィジット家に守られつつ平民として生きることになるでしょう。

 当主はリーシアの父親で、一人娘を可愛がってますから」

「ふうん」

「それからヴィジット家は王族を裏切らないと信用された家系の一つですよ。

 忠誠心でなく利害関係の一致と人柄によるものですが。

 ちなみにそんな家系は幾つかあります。

 ドゥノさんが警戒する必要はないです」

「君の所は?」

「忠誠心は高いのですが、残念ながら信頼されないようですね」

「宰相サマの(てのひら)の上だからね。

 信用できないよね」


 二人は小さく笑った。

 ドゥノは言葉ほどエイゼンを心配しておらず、余り興味もないようだった。

 話は次第に大きく逸れて、そのままリーシアの事へは戻らなかった。




 エイゼンは悩みとは違う会話をして少しだけ気が晴れて、落ち着きを取り戻せた気がした。


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