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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
運命の人
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大切な人 2

 ユレアノはエイゼンを突き飛ばす勢いでリーシアの所まで走ってきた。

 そうして寝台の横に膝を付いてリーシアの手を握り、潤んだ目で覗きこんだ。


「リーシア様は私の一番の友達です。

 私を置いていかないで」

「ユレアノ様……」


 ユレアノは王城勤めと決められている。

 学園を卒業すれば今のリーシアでも簡単に会う事は許されず、せいぜい手紙が良い所だとお互いに理解している。

 何回も申請すればたまになら会わせて貰えるかもしれない。

 しかし貴族で無くなれば、その申し出すら叶わなくなるだろう。


 リーシアはユレアノを見つめてぎこちない笑みを浮かべた。


「大丈夫ですわ。

 ユレアノ様を一人にはしませんもの」

「絶対にですよ。

 リーシア様といる時が一番楽しいのです。

 せめて(ふみ)だけでも繋がっていたいのです」

「ユレアノ様、それでは愛の告白のようですよ」


 冗談めかしたリーシアに、ユレアノはようやく笑みを見せた。


「ええ、大好きですもの」

「ふふ」


 微笑み合う二人の横でローレッタが肩をすくめた。

 元々乗り気では無く、これ以上口を出す気が失せたためだ。

 ローレッタはぽつんと立ち尽くすエイゼンに苦笑して腰を上げた。


「私はそろそろ行くわ。

 変な話をしてごめんなさいね。

 貴女を大事に思って心配をしている人が沢山いるのは忘れないでね」

「ありがとうございます、先生」


 話し合いは決して気持ちの良いものではなかったが、リーシアは素直に頭を下げた。

 ローレッタが望んだ事でないのも、心配してくれたのもちゃんとわかっていた。

 ローレッタは小さく手をふって部屋から出ていった。


 立ち尽くすエイゼンを残して。


 リーシアは未だ動揺しているエイゼンと、扉の向こうの惨状をどうしようかと悩まされた。

 扉の向こうに割れた花瓶と花が散らかっていた。


(まず花かしら。

 あのままでは可哀想だわ。

 花瓶も片付けてもらわないと……管理人さんに報告かしら)


 貴族など位の高い学生が多いため、寮には専門の管理人や警備員が常駐していた。

 自分でやるが基本でも、不馴れな事は相談、危険な事は任せるというのが決まりだった。

 元々が何もしなくて良い身分の者達なので、こういった後始末に弱い一面を持っていた。

 リーシアがどうしようかと考えていた時、エイゼンはノロノロと動き出した。

 落ちた花を拾い集めようとするのをみて、思わずリーシアは声をかけた。


「駄目よエイゼン、怪我をするわ」

「リーシア?」


 リーシアに声をかけられてエイゼンは顔を上げた。

 ぼんやりとしている所に更に注意がそれて、エイゼンの指は花ではなくガラス片に触れた。


「っ!」

「あっ!」


 エイゼンが痛みで手を引くのと、少女二人が声を上げたのはほぼ同時だった。

 ただリーシアは寝台から動けず、ユレアノはエイゼンに駆け寄った。


「駄目ですよ。

 管理人さんに報告して片付けてもらいましょう」

「いや、これくらいは自分でやるよ」

「でもほら、怪我をしてしまいましたわ。

 リーシア様、指輪を貸して頂いても……リーシア様?」


 ユレアノは治癒の魔石を借りようとしてリーシアへ振り返り、違和感に首を傾げた。

 こんな時はいつも頼まなくともリーシアは指輪を使うように差し出してくれていた。

 だが今リーシアはどこか泣きそうな顔でユレアノとエイゼンをじっと見つめていた。


「リーシア様?

 もしかして気分が優れないのです?」


 ユレアノの頭からエイゼンの事がすっぽりと抜けた。

 リーシアの元へと戻り、額に手を当てて慰めるように髪をすいた。


「熱がありますわ。

 片付けは任せて横になってください。

 エイゼン様にはすぐ出ていただきますから安心なさって」

「俺は、そんな……」


 リーシアは力を使ったのでなく、考えすぎとストレスで熱を出していた。

 ユレアノはリーシアを強引に横にさせてエイゼンの方へ振り返った。

 エイゼンはうっかり『俺』といってしまう程動揺したまま、ぼんやりとリーシアを見つめていた。


 リーシアが逆らわず横になるとユレアノは追い出すようにエイゼンを部屋から出し、そのまま一緒に外へ出ていった。

 ユレアノが管理人を呼んで片付けている頃にはリーシアはもう眠りに落ちていた。

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