たった1話で露呈する本性。
「あの…社さん? この方は一体…?」
「それは私が聞きたいわね。 あなたは誰?下級生かしら」
火花がバチバチ、というか谷崎が一方的にちらしている。…まぁこいつならそうなってもしょうがないか。この阿呆の行動原理がわかってしまうのは、やはり俺も同類だからだろうか。
「…おい、そこの阿呆。俺ら一年生に下級生がいてたまるか。この学校には中等部もないしな」
「そ、そんなの知ってるし。胸が下級生並に小さいって言いたかっただけだしっ」
この無理がありすぎる言い訳、まさに漱石枕流。これ嘘だと気づかないのは谷崎以上の大馬鹿だけだろう。
というか後輩キャラって胸が大きな娘が多いような…どうでもいいか。
「はいはいわかりましたよ。それと機子、一応こいつを紹介しとこう。名前は谷崎 潤、何度も言うが阿呆だ」
「あっ、思い出しましたよ。この人入学式のとき新入生代表してましたっ。なら頭良いんじゃないですか?」
「そ、そうよ? 私は秀才なんだから。偏差値だって70オーバー、将来を嘱望されいるの」
「だが阿呆だ。それもなぜか勉強だけはできる阿呆。今度ぜひ大学で精密検査してもらえ。研究者たちがレアケースの資料が増えて泣いて喜ぶだろうよ」
「私を奇病扱いしないで頂戴。私のどこが阿呆だってのよ?」
「うーん…。昨日の夕食は?」
「………なんだったかしら?」
「じゃあ今日のお弁当のおかずは?」
「………た、卵焼き?」
「今日はその代わりにゆで卵が入ってたが。では最後に…今年は元号で表したら何年?」
「…えーっと…今は西暦でにせん…あれ? 私が今16歳だから…私が生まれたのは…何年だったかしら?昭和は64年までだから…平成は終わって…ない? いや…あれ?」
「ほら、阿呆だろう。 日常生活における記憶力が足りない…というより欠損してるんだ、こいつは」
機子は谷崎を哀れむような、慈しむような、生暖かい目で見ている。なんとなくこいつのパーソナリティを理解できたらしい。
「くっ…反論できないわね。ーーさ、さぁ早く帰りましょう? あまり遅くなると家の人が心配するわ」
「はい、そうしましょう」
機子が応える。初対面の同級生と普通に下校できるってすごい…いや、俺も初対面だっけか。コミュニケーション能力が高いらしい。羨ましいことだ。
ちなみに辺りが既に薄暗いので判別できないが、おそらく谷崎の顔は赤く染まっているに違いない。口調はいかにも優等生なのに…不憫な子である。
「ーー社? その人を哀れんだ目は何なのかしら。不愉快だわ」
「…お前、そんなので生きにくくないか?」
「余計なお世話よ。 …あんたが一生面倒をーー」
「何言ってるんだ?聞こえないが」
食い気味の難聴、いつもの手口だ。一種の様式美とでも…呼べないか。まぁ毎日のように繰り返しているとスキップしたくなるのも道理だと言わせてくれ。
「社さーん、帰らないんですかー?早く行きましょー」
「あぁ、今行くよ。…お前もわかっているだろう。しょうがないんだ、ほかにどうしようもない」
「だからってさっきは…いや、もういいわ。今度からはもっとちゃんとして頂戴ね?」
「努力はしますよ、お嬢様」
俺はそう言うと機子の方へ歩き出す。 後ろからついてくる足音が聞こえるほど、校門付近は静まりかえっていた。




