記憶と魂をシャッフルされながら、次の異世界へと強制瞬間ワープさせられる。何度も、何度も、異なる姿に生まれ変わる輪廻の旅。
八王子市から。
元々の始まりは、ん億年未来の異世界から現代の八王子市に送り込まれた、とある社会人3年生の男子だった。
彼の宿命は数奇を極めていた。毎夜のごとく危機に瀕した美少女を救い出し、その見返りとして愛欲まみれの甘美な暮らしを送る。
しかし、至福の時間はいつも束の間だ。どこからともなく現れる謎のランプから紫煙が立ち込め、それを吸わされる度に、彼は記憶と魂をシャッフルされながら、次の異世界へと強制瞬間ワープさせられる。何度も、何度も、異なる姿に生まれ変わる輪廻の旅。
そして今回のワープは、いつも以上にバグが酷かった。
「……ちょっと、待って。これ、どういう状況?」
気がつくと、彼は絢爛豪華な御簾の奥にいた。漆黒の長い髪、薫物の芳しい香り、そして手鏡に映る我が顔は――誰もが振り返る絶世の美男子、光源氏。
しかし、その肉体に宿った精神(中身)は、ん億年未来の記憶でも、八王子の若手社員でもなかった。どういう手違いか、「港区在住・40歳のハイソな独身キャリア女子」の意識が完全に入り込んでしまっていたのである。
「嘘でしょ、私、ピラティスの帰りにオーガニック成城石井で買い物してたはずよ?
なんで令和ド真ん中なわけ? っていうか、この顔……イケメンすぎて逆にウケるんだけど」
中身が40歳ハイソ女子となった光源氏は、驚異の適応力でフレンチリネンのような白い狩衣をなびかせ、混乱する状況を分析し始めた。ラグジュアリーな暮らしには慣れている。
この貴族生活も、一種のグランピングだと思えば悪くない。
だが、この異世界はただの平安京ではなかった。
第二章:妖怪大ダコ水戸斉昭、襲来
その夜、事件は起きた。
月明かりが怪しく濁り、庭の池から突如として禍々(まがまが)しい妖気が立ち込める。
バリバリと音を立てて空間が裂け、現れたのは、巨大な触手を蠢かせる異形の怪物――妖怪大ダコ「水戸斉昭」であった。
「ウオオオォン! 尊王攘夷! 攘夷せよッ!」
なぜ幕末の烈公が巨大なタコとして平安時代に現れたのかは不明だが、その触手は一本一本が強靭な棍棒のようであり、毒々しい墨汁を撒き散らしている。
そしてその触手に絡め取られ、今まさに校舎裏、もとい、庭の寝殿に連れ去られようとしていたのは、一人の美少女だった。
「離しなさい、この軟体動物! 礼儀を知らぬ無頼漢め!」
少女は叫んでいた。しかし、その姿は尋常ではない。背中から炎のようなオーラを立ち上がらせ、怒りでその形相は「阿修羅」のごとく凄まじい。美しさと圧倒的な破壊衝動が同居した、恐るべき戦闘美少女であった。
「あら、大変。あの子のドレス……じゃなくて着物、シルク100%の上質な織物なのに台無しじゃない。それにあのタコ、なんか生臭くて美意識に反するわ」
中身が40歳ハイソ女子の光源氏は、すっと立ち上がった。八王子の若い社会人だった頃の「美少女を救う」という魂の防衛本能と、ハイソ女子の「美しくないものは排除する」という断捨離マインドが奇跡のシンクロを遂げたのだ。
「そこなタコ野郎。私のテリトリーで、そんなオーガニックじゃない墨をぶち撒けるんじゃないわよ!」
光源氏は、懐から取り出した高級な檜扇を優雅に一閃した。
その瞬間、光源氏の放つ「美貌のオーラ」が、物理的な衝撃波となって放たれた。40億年未来のエネルギーが、平安の世の最高峰のイケメンボディを媒介にして炸裂したのだ。
「ラグジュアリー・エステティカル・フラッシュ!!」
キラーンと輝く美男子のウインクから放たれた光線が、妖怪大ダコ水戸斉昭の脳天を直撃する。
「ギエエエェッ! これが……これが令和のハイキャリアの輝きかァァ!」
水戸斉昭は、あまりの眩しさと場違いな都会の洗練されたプレッシャーに耐えきれず、ドロドロに溶けて池の藻屑となり消え去った。
第三章:阿修羅美少女との、愛欲まみれの暮らし
「……ふん、見事な手並み。感謝するわ」
助け出された阿修羅のごとき美少女は、ふいと顔を背けた。ツンとした態度だが、その頬は光源氏のあまりの美しさに薔薇色に染まっている。
「いいのよ。それより貴女、肌が荒れてるわ。そんなに怒ってばかりだと交感神経が優位になりすぎて、ターンオーバーが乱れるわよ。私の部屋でデトックスしていきなさい」
光源氏(中身:40歳ハイソ女子)の包容力は、お局級に底知れなかった。
そこからは、怒涛の「愛欲まみれの暮らし」が始まった。
阿修羅美少女は、普段は苛烈で触れるもの皆傷つけるナイフのようだったが、光源氏の洗練されたエスコートと、圧倒的な美貌(オスとしての最高峰のフェロモン)に抗えなかった。
夜な夜な、二人は御簾の奥で肌を重ねた。
光源氏のテクニックは、現代40年間の経験値(知識)と、光源氏としての天性の肉体が融合したハイブリッド。
「あ、あんた……なんでそんなに、女性の喜ぶポイントを知っているのよ……!」
「ふふ、港区の夜を舐めないことね。ほら、ここにアロマオイル(高級香木)を焚いてあげるから、もっと力を抜いて……」
激しい情念を持つ阿修羅美少女は、光源氏の腕の中で、蕩けるような甘い声を上げ、完全に骨抜きにされていった。
毎夜、高級なワイン(のような最高級の古酒)を酌み交わし、贅の限りを尽くした愛欲の日々。
八王子の若き社会人、40億年未来の戦士、そして40歳ハイソ女子のトリプルミーニングを持った光源氏は、この平安の世の頂点を極めていた。
第四章:突然の終幕
だが、最高の贅沢は、長くは続かない。
ある夜、阿修羅美少女が光源氏の胸元で愛おしそうに眠りについた、その瞬間だった。
寝殿の片隅から、シュルシュルと不気味な音が響く。
「え……? この匂い、まさか」
見ると、空間の歪みから古びた「魔法のランプ」が浮遊していた。その注ぎ口から、紫色の怪しい煙がモクモクと立ち上る。
「ちょっと待って! まだ私、この時代の利権を半分も握ってないんだけど! 次のミッドタウンの打ち合わせは!? じゃなくて、午後からのプレゼンは!?」
必死に抵抗しようとするが、ランプの煙は容赦なく光源氏の鼻腔へと吸い込まれていく。
強制瞬間ワープの力が、彼の魂を肉体から引き剥がしていく。
「ああっ、私の、私の極上のラグジュアリー・ライフがぁぁーー!」
意識が遠ざかる中、最後に見たのは、愛欲に溺れた阿修羅美少女の、幸せそうな寝顔だった。
「うわあああマジで何なんだよこれ!!!
煙の代わりに今度は強制連行かよ!!!
おい、時空の裏でランプを擦り続けてるクソ黒幕!!!
煙の演出サボって、バグ負けしてんじゃねえよ!!!
今すぐ元の絢爛豪華な御簾の奥のベッドにロールバックしろォォォ!!!(大激怒)」
カチリ、と時空の歯車が回る。
気がつけば、彼はまた別の、見知らぬ異世界へと放り出されていた。次は果たして、どんな美少女を救い、どんなカオスな姿で愛欲に溺れるのだろうか。
ん億年の未来から続く彼の放浪記は、まだ、始まったばかりである。
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