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36話『現世の感情、浮き世の脳』


◇◇◇◇◇◇◇ミチルside◇◇◇◇◇◇◇◇


「ミチルたんも転生者ですよね!?」


「ええ、そうよ。」


 まさか会って直後に言ってくるとは…いやまぁ誤魔化しても無駄だから白状するけど。

んー…徹夜明けキツイ…


「えっと…あっ!体調は大丈夫でしょうかっ!!!」


 あっ多分会話内容無くなったのね。

哀れ哀れ♡


「にぃ様は快眠中よ。

昨日はあたしが書いた小説を朝まで見てもらってたから今はぐっすり♡」


 最近は月明かりが良いからつい沢山書いちゃうのよね。暇だし。


「まぁあたしはいつものことよ。

前世から今日まで、あたしは徹夜が常だもの。」


「それはっ……執筆が捗りますね!」


「徹夜の時が一番気分が良いものね~。」


 にしても、めっちゃ眠いわ。


「この館広いです……」


「ふふそうでしょう?ほぼ一階しか使ってないから二階は凄く埃が溜まっちゃってるの。

気を付けてちょうだいね。」


 ……待ってなんでこの子着いてきてるの!?

えっ!?今からあたし世界樹に出向かないといけないのだけど!!!


「あ、あと外に動物の骨がありましたけど、あれ全部捌いたんですか!?」


 ……いやでもここで撒いても主人公だしねこの子。

下手な主人公補正で追いかけて来そう。

強制力で付いてきそう。


「にぃ様がね。

あたしは危ないからやらせてもらえないの。」


 まぁ幼すぎる身体だから心配してるのかもね、でも子供って意外と危ないものに触れたい本能があるけど。

……あっあたし子供じゃないわ


「えっと待ってください何処まで…?ずっと廊下を歩いてますけど……」


「客室まで、あと10分ね。

ただ埃が溜まっちゃってて掃除するからあと30分は待ってもらうけど…」


 歩いてる時が一番アイデアが湧くのよね、特に階段裏とか。

にぃ様からよく心配されるけど…ごめんなさい癖よ。


「ここにしましょうっ!!ここ綺麗ですし!!」


 あー、この部屋はあんまり好きじゃないのだけど…まぁ雑談くらいなら良いわね。

殺すつもりは無いけど、早く帰って欲しい。


「……なら…

推し語りしましょう!!」


「一番最初にそれ聞くの!?」


 一応あたしラスボスみたいな感じしてたわよ!?

レイテル繋がりで!!


「僕は皆好きです!」


「まぁ…うん。

そうよね。」


 なんか雰囲気的にそんな感じがしたわ。


「ミチルちゃんは推しは誰ですか!?」


「誰も、一人も推しは居ないわ。」


 書いていて楽しかった。

それは本当、だけど誰も好きと言える子は居ない。

やっぱり自分のキャラクターだと好きとか思いにくいのよね。


「ついでに貴方はどうして全員好きなの?見た目?」


 まぁ癖を詰めたりはしたけど、そんなに…


「…このゲームに…キャラクターに救われたんです。」


「…救われた?」


 どんな理由を言うかと思ったら、まさかこんな事を言われるなんてね。

しかもこの場にこの子が居ることも番狂わせなのに。

ああ、本当。


「……ばっかみたいね。」


 殺意が隠せない


「あたしね。

このゲームのキャラクターどうでも良いの。」


 ふふ、救(・)わ(・)れ(・)た(・)?何をふざけた事を言ってるのかしら?

虫酸が走る、水を投げつけてやりたいわ。


「キャラクターに救われた?何を言ってるの?

現実世界でキャラクターが何か言ってくれたの?そんな訳ないでしょう?」


 どれだけ妄想を重ねた所で実物が出てくる事なんて無い癖に、それを人前で救(・)わ(・)れ(・)た(・)だなんて


「貴方を抱き締めでもしてくれた?励ましてくれた?馬鹿じゃない。」


 そんなもの指標に生きてきたの?そんなの凄く吐き気がする。

何の責任も取れない、何の助けもくれないそんな【捏(・)造(・)】に縋って生きてきただなんて言わないで、心から嫌い、嫌い大嫌い。


「手を握ってでもしてくれた?甘やかしてでもくれたの?

……そんなことあり得る訳無いでしょう?」


 ただの有象無象の一人の癖に

あ(・)た(・)し(・)の(・)作(・)品(・)に妄言を言わないで頂戴ガキ風情が。


「ええ、そうですね。

確かに皆とは直接接触した訳じゃありません。」


 …あら意外と素直。

まるで物語の主人公みたいね。


「それでも、僕(・)の(・)人(・)生(・)で一番。」


 ん?…まるで、あたしが書いてきたような。


「理解すらしようとしなかった僕に【人(・)間(・)】という生き物を、生き方を、醜い所も綺麗な所も教えてくれた存在なんです。」


「はぁ…英雄気取りが鬱陶しいわね。」


 …これ以上は負け恥を晒すわね。

ここまで主人公属性を持たれると負けるのはこっち、やっぱり前世とレスバが弱いのは変わらないわ。


「ごめんなさい、あたしの負けよ。」


「謝らないで下さい。

争おうなんて思ってませんから。」


 ミ(・)チ(・)ル(・)た(・)ん(・)はね。

ミチルの中身に成り代わったあたしに対してはどうなのかしら。

あー、もう、頭が痛くなるわね。

まぁほぼ何も考えて無いけど。


「……ねぇミチルたん。

ここの二階ってどうなってるんですか?」


 …『二階』?


「はい、ここの天井、木材じゃないですよね。

でもさっきまで見た部屋の天井は木材だけでした。」


「…はぁ…野生動物の解体部屋、森で暮らすとなると定期的に狩りをしないと食費がね。」


「なら元々の使用用途はなんですか?

ここは確かミチルたんとアズきゅんがある時に奪った館だった筈です。」


 ……なんの…話?

睡蓮に近付いてからずっと頭が働かない…

もやもやして思考が浮いてるわね…創作は出来るのに思考が働かない。


「ああ、これだから嫌いなのよ。考察厨は…

丁度この上の部屋は…元々は趣味の悪い貴族様の拷問部屋なの。」


 これもあたしが造った、あれもこれもあたしが造った。


「…悪いけどもう行きたくないわ。

そもそもそこの部屋の鍵はにぃ様が持ってるから開けられないし。」


 だけど、この創作の世界で心だけが現実にいる。

栓の抜けてパンクした脳がなんの興味も無く物語続きを考えている。


「それってつまり、もう拷問は行われてないって事ですよね…?」


「ええ。」


 なのに、理性はここにある。


「……なら…どうして。

…少し凹んでいるように見えるんでしょうか…?」


「………………ぇ…」


 まともに天井を見た事が無い、この部屋に入ることさえ無かったから、きっとあ(・)た(・)し(・)だ(・)け(・)が気付いて無かった。

……派手じゃない、ただ少し…下から見れば少しだけ。凹(・)ん(・)で(・)い(・)る(・)こ(・)と(・)に(・)。

……凹む程、重(・)い(・)も(・)の(・)が乗っかっていた?


「動物の骨や残りは外に出してましたよね?」


「え…えぇ、ほら腐敗が進むと木が使えなくなる…から。」


 ……あれ…生き物が腐(・)敗(・)が起こる事をにぃ様は…知ってる?

…衛生面…のことを何も知らないにぃ様…が?


「…ミチルたんは、徹夜が好きなんですよね?」


 夜に出歩くことが多かった、特に階段下で月明かりで…小説を書いたり。

レイテルと遊んだり……


「…重いものを移動させたら、ミチルたんは気付く場所に居たんですよね?」


 ……【私】なら、【ミチル】なら何も思わないかったかも知れない。

笑顔で受け入れるかも知れない。

でも、あたしは


「……ぃ…ゃ…」


 …そこで初めて明確に『睡蓮』の理性が邪魔をした。

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