31話『忌』
母さんは人間が大好きだった。
綺麗で、美しくて、誰もが優しさを秘めている。
そう言って毎日笑う程。
『私は人間が大好きなのだ。
綺麗でどこまでも人に優しくなれて…凄く尊いと思うのだ。』
『もー!母さんは人間なのにどうしてボクはドラゴンなの!ずるいずるい!
母さんだけ人間なのずーるーい!!』
『ふははは!!崇め讃えろなのだ人間様を!』
そう、いつも笑っていた。
でも母さんが居なくなって、ボクはどうも出来なかった。
何をすれば良いか分からない。
母さんを探したいのに、翼の隠し方が分からない。
母さんを探したいのに、人間の常識が分からない。
母さんを探したいのに、森を出る方法が分からない。
ただ歩いて、母さんを探して、歩いて、歩いて、歩いて、歩いて、辿り着いたのは。
ボクと近い身長の少年だった。
「ん?お前迷ったのか?」
母さん以外の初めての人間にボクはドキドキして、どうしようも無く固まってしまった。
母さん以外の人と話せないボクに、その子は普通に接してくれた。
「なら俺が案内してやるよ!
村長の家で良いか!?」
そうボクの手を引いて、村の中を見せてくれた。
きっと母さんが凄く褒める程に素敵な人達なのだろう、そう思っていた。
「これはまさか……!!
聖龍様…っ!?」
「おい!怯えてるだろ!」
村長さんがそう言ってボクに触れようとした時もさらりと庇ってくれる。
優しい少年だった。
「いやぁ…すまない。
伝承にある聖龍が実在するとは思わず取り乱してしまった。」
まるで神様のように扱われた行き先の無いボクは、その村に住み着くようになった。
というよりも、出して貰えなかった。
「聖龍様……どうか我らにお恵みを…」
毎日のように、そんな声を聞き続けた。
……母さんを探したいと言っても…何も聞き入れてはくれなかった。
「母さんを探してる!?」
でも毎日のように訪れる彼は嫌いでは無くて、彼と話す時だけは楽しかった。
そして。
「なら俺も大きくなったらお前の母さんを一緒に探してやるよ!!」
そう言って手をとってくれた初めての友達は。
ある儀式をあとに……供物の大きな盃に溜まっただけの鮮血へと変えられてしまった。
「……」
「聖龍様……どうか…!お力を!」
ボクを聖龍だと崇める村の人々に。
「……どうして…?」
人間は助け合うじゃないの?
人間は分かち合うじゃないの?
人間は仲間思いじゃないの?
ねぇ、母さん。
「その素晴らしいお力を!どうか我々にも分けっ」
バリンッ……
…………
……
『人間は。』
……ああ…またボクは……
母さんの言ってることを忘れてたんだ…
『大概、化け物なのだ。』
そう、いつも、褒める前に言ってたのに。
「聖龍様っ……!!どうかっ…お静まりくだっ…!!!ァ■■■゛ッァ゛■■■■!!!■■■ッッぃ゛■■■ぉ■■じ■■■゛゛!!!」
赤くて、暖かくて、クッキーを焼いたような匂いが何処からか漂ってくる。
お腹が空いた。
「ッ…ィ゛■■ァ゛ァ■゛ぁ゛!■!!■■」
やっぱり寂しい夜くらいは母さんの膝で眠りたい。
…母さん…母さん。
「…………母さんが、人間が大好きなの少し可笑しいと思っちゃったよ…」
こんな奴らを…どうして…どうして好きなの?
どこも、綺麗なんかじゃ……ないよ。
『私は人間のこと、こう思ってるのだ。』
奪って、苦しめて、でも自分が幸せなら良くて、虚像を信じて、嘘を吐いて。
「……そんなのっ…何処が!!
綺麗だと思えるの……!!!!」
…どうしてそんなに愛おしそうに笑えるの?
『ふふ…綺麗で清くて、尊いから。』
綺麗で、清くて、尊い?
……なんでそんな…他人行儀なの?
『それでいて。
とても、可愛いのだ。』
…………【かわいい】…?
…………
…
……!!…あははは!
……わかった気がする!母さんが人間を大好きな理由…。
『どこまでも汚れられる。
そんな最低な化け物なのだ。』
「…あはは…っ。
そっか……そっかぁ……
母さんは…元から人間を見下してたんだね……」
そうじゃかったら、きっと可愛いなんて言葉出てこないよ。
「でも…でもね。」
それを聞いてボクも、人間を好きになれた気がするよ。
母さん。
「…人間は綺麗だから、純粋だから…」
白に黒を混ぜたらグレーになるように、花が土に混じって育つように。
剥げば一緒の醜悪な肉塊の肌で生まれ育つから。
「どこまでも、汚くなれるんだ。」
盃に溜められた鮮血はどれだけ汚れてしまったのだろうか。
……苦痛と恐怖の中で……どれだけ汚されてしまったのだろうか。
その苦痛すらも、人間の美しさだとしたら。
「…母さんも汚れてるのかな。」
美しくて慈悲深げなあの心臓に流れる紅は、どれだけ汚れを秘めているのだろう?
それすらも【美しい】のだろうか。
「…母さんも……」
汚れていることすら、美しいと言える母さんのように。
「そんな玩具なのかな…」




