5 皇太子
私はルーカスに連れられ、小型飛行機に乗って隣国の王宮へと向かっていた。
ルーカスの部下だと思われる少女が飛行機を操縦し、ルーカスは隣に座っていた。
私は彼に皇太子について尋ねることにした。
「あなたからみて、皇太子殿下はどんな方なの。」
「弟はこれ以上にないほど王に相応しい人物です。
きっと弟本人もそう思っているでしょう。」
「皇太子殿下のどんなところが王に相応しいと思ったの。」
「たとえば、俺なんかは自分と仲間が平穏に暮らせればそれでいいと思っている。
そのためなら誰かを犠牲にできる。
俺は王の器にないんです。
でも弟は、国のために自分を犠牲にするのが当然だと思っている。
利己的なところは一切ない。
弟は計算高く敵に対して冷酷だけれど、その実国と民のために尽くしているんです。」
「そう。
私は皇太子殿下と気が合いそうだわ。」
「はるばる我が国へご足労頂き感謝する、カドリーヌ公爵令嬢。」
13歳にして隣国の実質的な支配者である皇太子リオンはそう言って王の間に到着した私を出迎えた。
リオンは人形のような人物だった。
それは彼の瞳によるところが大きい。
澄んだ水色の瞳は氷のようで、人間らしさが感じられないのだ。
「王宮にご招待いただき光栄よ。
なぜあなたが私を呼んだかおしえていただけるかしら。」
リオンは感情の読めない微笑みを浮かべる。
「私はこれから我が国の民にとある重大な発表をするのだ。
貴殿には最もよい席で聞いてもらうべきだと思い招待させていただいた。」
リオンはそれ以上説明せず、王座から立ち上がるとバルコニーへと出た。
バルコニーから見える城前の広場には人々が集まってリオンの演説を待っていた。
リオンは高らかに宣言する。
「3年前、私は敵国より神の地を奪還することに成功した。
その神の地に私は新たに教会を建てた。
今日よりその教会を開き、この国の信仰の中心とする。
新たな教会の最高責任者は私自身が勤める。
我が国における教会の人事および財産の管理は私が責任を持つ。
これより我が国は教団からの分離独立を宣言する。」
広場は割れんばかりの拍手の音に包まれた。
「ずいぶん大胆なことをするのね。」
バルコニーから室内へ戻ってきたリオンに声をかけた。
リオンは涼しい顔で「民のことを思えばこれが最善だろう。」と答える。
「教団の上層部は腐敗しきってしまった。
我が国の財産は我が民のもの。
無限に金を欲しがる教団の者たちに分け与えるつもりはない。
貴殿も同じ考えだろう。」
冷たい瞳にみつめられ私は身構える。
「殿下はなんでもご存知なのね。」
「貴殿こそ大胆な動きをしていたからな。
貴殿は腐敗した教団の手から己が国を救うため、自らが王座につこうとしているのだろう。
貴殿と私は共通の敵をもつ友だ。
私が手をかそう。」
敵に内部で混乱を起こさせ、それに興じて勝利するのがリオンの得意とするやり方だ。
リオンは教団からの独立を確実にするため、私たちと教団を戦わせ教団を弱体化させようとしている。
その戦いで私たちの国が不安定になることも彼の利益になる。
リオンの母は我が国の王女であることを口実に我が国の王位を狙ってくるかもしれない。
リオンの手を取るのはリスクが大きい。
けれども、彼の協力があれば勝利が確実になることを私は確信していた。
「では、僭越ながら殿下に頼みたいことがあるの。」
「聞こうか。」
「私と婚約していただけないかしら。」




