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ヴォールのアメジスト 〜公爵令嬢の『予言』は乙女ゲームの攻略本から〜  作者: 本見りん


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恋人の旅立ち 2




 アベルとローズマリーが去った部屋で、今はリオネルと側近であるイヴァンとジルの3人が顔を青くして立ち尽くしていた。



「……リオネル様、レティシア様は……」


 側近である2人は心配そうにリオネルを見た。



 ヴォール帝国は言わずと知れたこの大陸で1番の大国。

 3代前の皇帝の時に起こった各地を巻き込んだ戦争に勝利し、押しも押されぬ大帝国となった。

 一方ランゴーニュ王国はその戦争時には同盟国として食料の補給を任される事で属国となる事を免れた。更に戦後には帝国の公爵令嬢を王妃とする事でその公爵家の庇護を受け属国となる事を免れている。……この豊かな実りがある王国で、地理関係的に見ても奇跡的な事だった。


 今回のレティシアのクライスラー公爵家への養女になる件は、レティシア自身の立場を強固にする為、そしてその公爵家の力でこの王国を更に帝国から守る為でもあった。



 リオネルは考える。


 ……確かに、レティシアの亡くなった母は帝国の元貴族とは聞いていた。しかも20年前に没落した現皇帝の派閥である元貴族だと。今回、レティシアは帝国へ行ったらその事を調べると意気込んでもいたのだ。……レティシア本人もこの事を知らなかったのだと思う。そもそも母が帝国の元貴族という話もパーティーの前日に義母から聞いたばかりだと話していた位だ。


 そしてこの王国に現皇帝派の元貴族の流れを汲む王妃が誕生すれば、帝国との関係は更に良くなる。そんな打算も国王達にはあったとリオネルは承知している。



 ――しかし。


『現皇帝の姪』


 そう、ローズマリーは『予言』した。



 そうなるとそれは、前皇帝の落とし胤か20年前行方不明となった皇女の娘、そのどちらかという事になる。


 結論から言うと、そのどちらであってもこのランゴーニュ王国から考えれば非常に厄介な問題だった。



 前皇帝の隠された娘だったとするならば、当然現皇帝から睨まれる事になる。しかもレティシアは成人しており、前皇帝派の貴族は有力な皇位継承者候補として彼女に群がるだろうし、後々帝国を揺るがす帝位争いになる可能性もある。

 彼女が帝位継承権を放棄しこの王国の王妃となるとしても、現皇帝からは睨まれこの王国の存続も危ぶまれる事態になる可能性もある。



 そして、20年前に行方不明となった皇女の娘だった場合は……。



 リオネルは頭を抱えた。

 そして思う。おそらくは行方不明となった皇女の娘である可能性が高いと。

 何故ならば、その皇女と恋仲だったと噂されるクライスラー公爵があれ程レティシアに執着したのだ。


 そしてレティシアは兄弟でよく似ていたという伯父であるコベール子爵とよく似ている。おそらくは血縁関係があると考えて間違いはない。……と、するならば。

 レティシアの母こそが皇家の関係者という事になり、つまりそれは行方不明になっていた皇女であるという事。


 コベール子爵の帝国で外交官をしていたという弟が皇女と出逢い、密かに連れ帰り結婚しレティシアが生まれたと考えるのが妥当だろう。


 そして当時の皇女は同腹の兄が帝位争いに敗れた事で幽閉状態にあったと思われる。その時接点が無かったはずの子爵の弟がそこから連れ去ったとは考えづらい。皇女は何らかの事情でそこを追われ、亡命する為に訪れた我が王国の領事館でそこで働く子爵の弟と出会った、という事ではないか。……だからこそ彼らは何かに追われながら隠れ続けなければならず、ずっと密やかに生きていた。



 ――それを、今の皇帝はどう判断されるのか。


 最悪、子爵の弟が皇女を拉致したという事にして、この王国の王家を廃しランゴーニュ王国を属国としようとするか。そして、レティシアの存在をどうしようと考えるのか――。



 更に、この事を知ったら我が父である国王はどう動くのか。

 もしもこの国内にレティシアが居る時にこの事を知ったならば、この先の不安をなくす為に彼女の存在を秘匿しようとしたかも知れない。もしかすると、彼女を殺害しようとしたかもとも考えられる。


 そう考えると、この事は彼女が出発してから発覚したのでまだ良かったのだ。その可能性を考えてクライスラー公爵はそれを我々に言わなかったのだろう。

 皇女と恋仲と噂されていた公爵は、レティシアがその皇女の娘だと気付いていないはずはないのだから。



 今、元コベール子爵令嬢であるレティシアはヴォール帝国の公爵家の養女となり、この後はランゴーニュ王国の王太子であるリオネルの妃になると大々的に発表されている。

 既にその身はもう帝国の領地に入っている事だろう。この王国の者はもうレティシアに手は出せない。


 ――もう彼女は既に帝国のクライスラー公爵令嬢であり……この後は『皇女』となるのかもしれない存在という事なのだから。




 ふー、とリオネルは大きく息を吐いた。


 知らなかった事に出来れば良いが、そういう訳にもいかない。国王への報告と、今この王国でおそらく唯一この事を知っているのかもしれない人物に確かめなければ。



「イヴァン。陛下に私が内密に謁見したい旨を伝えてくれ。そして、ジル。……コベール子爵を、至急王宮に呼び出すように」




 ◇ ◇ ◇




 ……時は遡り、レティシアがランゴーニュ王国をリオネルやコベール子爵夫妻、友人達に見送られ出発したすぐの馬車の中。


 ……レティシアは、ずっと泣き続けていた。


「レティシア様。お別れの時は気丈にシャンとしておられましたのに……。愛する方や家族友人方との別れは辛いですわね……。大丈夫ですよ、帝国までは1週間はかかりますからそれまで存分にお泣きください」


 侍女ハンナは随分と大雑把な慰めを入れてくれた。



「……うぅ……っ。……ぐすっ……。い……いくらなんでも、そこまでずっとは泣かないわよ……。でも悲しい時にはちゃんと泣いた方がいいって何かの本で読んだから……。貴女には迷惑をかけるけど……ぐすっ」


 前世の本だったとは思うけれど。人に迷惑をかけない程度に泣いたり怒ったりは必要だと思う。



「……私は一切気にしませんので、心ゆくまでお泣きください」


 ハンナはそう言うと、レティシアにハンカチを渡して向こうを向いてくれた。……うん、あと少しだけ、こうしていさせてね……。



 ◇ ◇ ◇



 馬車は途中の小さな街道の街に休憩と昼食の為に止まった。そこから降りて来たレティシアは……。


 まだ少し目は赤いものの、笑顔で周りの護衛や休憩者の人達に挨拶をした。先程まで大泣きしていたとはとても思えない姿だった。


 ……やっぱり、思い切り泣いたのは正解! ここからはこれからの帝国での生活に頭を切り替えないとね!



 それからレティシアは休憩の街ごとに土地の名産品や特色、最近の出来事などを聞いたり、帝国の話を聞いて自分なりに情報収集をして勉強した。その様子にハンナは安心しつつ、その切り替えの早さに感心していた。

 そしてレティシアは更に馬車の中ではハンナから帝国貴族の話を詳しく聞く勉強熱心さだった。



「へぇ。今の皇帝陛下はクライスラー公爵と同い年なのね。帝国にも学園はあるのよね? だったらお2人は友人だったのかしら」



 帝国の皇帝の話になり、何気なく思った疑問をハンナに聞いてみると彼女は表情のないまま答えてくれた。


「……帝国にも勿論、それは立派な『帝国学園』がございます。皇族や貴族のみが通える学園でございますが、何ぶん帝国は広く貴族もそれはたくさんいらっしゃいますので、お2人が友人であられたかどうかは……」



 それはそうなのかも、と思いレティシアは頷く。


「公爵は、私の母と幼馴染で学園でも良い友人だったと仰っていたの。ッ! じゃあ、母も皇帝陛下と知り合いだった可能性はあるのよね!? 大きな学園でも皇子殿下相手ならお顔くらいは拝見した事はあるんでしょうね……。私は皇帝陛下に最終的にパーティーでご挨拶すると聞いているの。もしも陛下と母が知り合いだったなら、私を見てお母様の事を思い出したりしていただけたりするかしら……」



 ――それは、当然思い出すのだろう。

 レティシアの姿形、そしてその雰囲気……。

 皇女の兄である皇帝はレティシアを見ればおそらくは気付かれるだろう。


 ……レティシアが、皇帝陛下の実の妹の娘だということに。



 顔はコベール子爵家の父に似ているレティシアだが、髪や瞳の色、そして全体の雰囲気は母である皇女によく似ていた。何よりその深い紫の瞳を見れば一目瞭然。

 皇女を知る人が見れば当然すぐに分かると思われた。



 真実を知るハンナはそう思いながらも、若くして帝国を亡命しなければならなかった母を覚えていてくれる人が誰かいるのかもとどこか楽しみにしているレティシアを、複雑な気持ちで見つめていたのだった。
















お読みいただき、ありがとうございます!


リオネルはレティシアの隠された事実を知り驚きました。そしてこの事がこれからの2人の障害にならないようにと願いながら動き出しました。

一方レティシアは前向きに帝国での生活を始める為に動き出しています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この温度差よw いよいよもって、本人以外は知ってる状態になっちゃったなぁw
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