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こくしの

 俺が問うと、レイテルさんは浅く息を吐き出した。


「アデルは自分の昔のことについて何て言ってた?」

「ええっと、確か、勝手に知ったら怒る。嫌うと」


 笑う太陽との関係を聞いたときにこう答えたはずだ。自分が話せるときまで待ってくれないか、と。先に知ればきっと嫌うと。

 なら俺のこの行為は裏切りで、レイテルさんに頼んでいることもそれだ。

 だとしても、俺は曲げない。

 あくまで真っ直ぐとレイテルさんを見ていると、眉をひそめて硬く閉じていた瞳が開かれる。


「アデルは君に選ばせたんだよね?」

「はい。きっと」

「なら、答える。アデルの昔のことでいいかな?」


 良いんだね? というような確認に頷きを返す。もう偽善とかの領域ではない。これに同意した以上は、俺のわがままの話だ。ならば最後まで貫き通さない限り、引けない。

 もう一度満足げな微笑を浮かべ、深く頷いたレイテルさんは朗読をするかのように話し始めた。


「こくし、っていう言葉がアデルに向けられるのを聞いたことがある?」

「はい。笑う太陽が茶化してそう言ってました。何処かの家の名前なんですか?」

「少し違うね。こくしっていうのは、騎士の中でも特別な部隊の名前だったんだよ。結構前に無くなっちゃったんだけど」


 想定とは少し違ったが、やっぱりかとすんなり納得する自分がいた。昔は騎士のようなこともしていたとかの発言や、あのでたらめな強さだって納得がいく。

 ただ、無くなったという言葉が嫌に引っかかった。


「ちょっとした伝説みたいな扱いもされてたんだよ。黒い装備を纏った彼らは、死を(こく)し、死を(こく)したという。恐れよ、その名は黒死隊。ってね」

「その部隊が無くなったというのは何故ですか?」


 必要が無くなって解散するというのならわかる。だが、敢えて無くなったという表現をする理由が掴めない。その言葉からは、どうしようもなく悪い結末を連想させた。


「詳しいことはわからない。あんまり話してくれなかったから」

「知ってることだけで良いです」

「わかってるよ。急かさなくてもちゃんと話すから。黒死隊はね、外に出ることも多かったの。調査に出て、モンスターが危なそうな動きをしていたら、事が起きる前にそれを潰したり。そういう仕事が大半だったらしいよ」

「それで?」

「外で何があったかはわからない。けどここから出る前には大人数だった黒死隊が、数日後に帰ってくる頃には数人だったの。中でも無傷だったのはアデルだけで、一緒に帰ってきた仲間はそう何日も保たなかった。アデルも毎日仲間の所に行って看病を手伝ってたけど、それでも……」


 モンスターの恐ろしさは誰よりも知っている。どんなに強い人間だって不覚を取ることがあることも知っている。


「あのとき、アデルが『死ねなかった』って呟いた声は、今でもまだ思い出せるよ」


 酷く寂しそうな顔で体をよじり、レイテルさんは自分を抱くような姿勢を取った。

 死ねなかったというのはどれほど切実な言葉なのだろう。

 多くの時間を重ね、共に生きたい、共に死にたいと思った人間が全て離れていって、自分だけが残されたというのは。

 不意に、ズキリと胸の奥が痛んだ。


 彼女の言動や性格の一部は元からああなのかもしれない。ただあの軽いノリに隠された、助けを求めず深い関わりを拒むような態度は、それを知った今では酷く痛々しいものに見えた。

 信頼が千切れる痛みを知った。掴んだものが解ける虚しさを、生まれる心の空虚を埋めようとして、軋んだ。

 もう一度それを味わうぐらいなら、大切なものなど胸にしまい込めるほどのものだけでいいとなってしまうことは自然なことだ。


「私が知っていることは、これだけ」


 そう言ってレイテルさんは目を閉じた。

 自然だから、わかってしまうから、痛々しくて見ていられないのだ。

 自分の頭の中を整理するのに手間どって、言うべきはずの感謝が口を出るまで時間がかかってしまう。


「ありがとう御座います」

「うん。私からも、お願い、いいかな?」


 その穏やかな言葉に、下げた頭を再び上げて、レイテルさんを見据えた。


「あのとき、私は逃げてしまったの。離れていくのを止められなかったの。嫌われるのを、怖がったの。だから今度は」

「逃げません。向き合います」


 言い切られる前に、割り込んだ。

 レイテルさんはそう思っているのかもしれないが、アデルにとって彼女の存在は相当大きかったはずなのだ。寧ろ、彼女が居なければ壊れてしまっていたかもしれない。

 呟きのままに、自分の命を断ったかもしれない。

 そんな事にならなかったのは、レイテルさんという存在の大きさ故だろう。


 だがそんな根拠のない言葉など、この場で言えるはずがなかった。

 そんなもの、心地いいだけのクソみたいな世辞と変わらない。これは、そんなもので汚していいものではない。


「……ありがとう、優しいんだね」


 その言葉にどう答えればいいかわからず、ただ頭を下げて部屋を出た。

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