51.婚姻の儀の裏で①
儀、と言うものはえてして冗長なものです。
普段だったら興味もありませんし、きっと意識を飛ばしていたのでしょうけれど、今回だけはそのようなわけにはまいりません。わが姫の幸せがかかっておりますし、私の人生も。まぁそちらはどうでもよいといえばどうでもよいのですが。
大聖堂は、それはもう厳粛な雰囲気でした。
それが、列席のかたがたの醸す雰囲気のせいだけではないと、足を踏み入れた瞬間に感じられました。ありとあらゆる邪なるものを弾く結界が、それは普段から張られているものではありますが、最大限に強化されていました。
成程。列席のかたがた全てから邪念が追いやられていれば、それは厳粛な空気にもなりますか。式の無事を祈るものか、あるいは見栄も手伝ってか、どちらだとしても理に叶っています。
けれどこの程度。かつて宵闇のエンだった私を甘く見ないでいただきたい。
言祝ぎは呪文のようにつらつらと続く。けれどその中にこの結界を維持するための呪文が紛れていることにもすぐに気付きました。それだけではなく、そういう目で見てみれば、この式典を彩るありとあらゆる小物が、それ自体魔法陣の補佐をしていることに気付きます。それを感じ取ることのできる目を持っていれば、それらが言祝ぎに紛れた呪文の一語一語に反応していることが見て取られます。例えば燭台の炎の揺らぎ、ステンドグラスの光の色までひそやかながら千変万化しています。
呪文であることを理解してからは、聞き取る努力はやめにしました。それはね、今の私の思考こそ、邪なるものと言えば邪なるものですが、だのに弾かれないところを見れば私にはそれほどの効果を発揮していないようではありますし、別段耳に入れても害はないでしょうけれど。あえて私と旦那様とへ向けた祝辞などを耳に入れることもないでしょうし。ただひたすらに思考を走らせます。はた目には畏まったように見えるように、動きは最低限で。ウェディングドレスは動きにくい、ということももちろんありますが。生憎と当方、乙女の夢を見るような思考回路は持ち合わせておりませんので、この控えめながらも華美な衣装はただ肩がこるだけなのですよ。
(――それならば、)
私はこの厳粛なる空気に、私の目的を果たす手助けをしていただくことにいたしました。それはこの大聖堂を隈なく覆っている結界、しかも式典の全てで強化されている。だったら相手取って無駄な労力を費やすよりも、便乗させていただくのが賢いというものでしょう。
全国の乙女様がた、このような主人公で申し訳ありません‥‥




