52.婚姻の儀の裏で②
ちらりとベールの影から、ながながと台詞を吐いている神官長に視線を送りました。台詞、と言うのは言い得て妙ですね、だって明らかに、神官長意味を理解していませんもの。まぁ確かに、この国は実利を取るお国柄みたいですし、おそらくは神殿も、ただこのような式典の為だけに細々と続いてきたようなものでしょうから、本当に力のある神官など育ちにくいのでしょうけれど。
(ということは、要はこのかたではありえませんね)
呪文は魔法を補助するものですが、意味を理解して世界に訴えかけてこそ、その真価を発揮するものです。音だけなぞってもそれは多少の意味はありますけれど、それは何もしないよりまし、程度でしかありません。そもそもが言祝ぎに紛れ込ませられた細切れのもの、そんな程度でこの緻密かつ大胆な結界を維持強化できようはずもありません。
(要が分からなくても、何とかなりそうではありますけれど‥‥)
いえ、それでも、やはりわが姫の幸せがかかっているとなれば慎重にいって悪いことなど一つもありませんよね。宣誓までまだ余裕があることもあり、私はもう少し探ることにいたしました。
やめたほうがよかったかもしれません。
(‥‥王弟殿下)
ベールの影からでも、目が合ったのがはっきりと分かりました。
(私の魔法に気付いている‥‥?)
あぁ、もしかして、前々からでしょうか。であれば、あんなに弱っちいのにこの私に手合せなど挑んできたのも分かります、つまり同輩と思ったのであれば。普通、魔法使いは魔法だけを研鑽するものです、それなのに私が剣を扱うものとして知られているものだから、試されていたのかもしれませんね。
今それが分かっても。
目はすぐさま逸らしましたが、正直、冷や汗が流れます。
果たして王弟殿下は敵になるでしょうか、味方でいてくださるものでしょうか。今でなければ探りようはいくらでもありますのに、気付いたのが今では、これはぶっつけで反応を見るしかないではありませんか。
(――ままよ!)
――覚悟を決めました。
折しも言祝ぎは言祝ぎだけ、結界の維持ではなく、きちんとした婚姻の為の部分が続いています。結界が完成しているのなら便乗しやすいし、そうでなくても強化が少しでも止んでいるタイミングに合わせられるのならそれは好機。
(世界から隔てられよ)
私のすることは単純です。主に外からの侵入に対して閉じている、邪なるものを弾く結界に、内からも閉じる文言を組み込むだけ。結界の維持を担っているかたがたが、ほかの魔法の気配に気付かなければ一番ですが‥‥視界の端から王弟殿下が鋭い視線を寄越して来、あぁやはり警戒されていたから目が合ったのだなと確信いたしました。今更どうしようもないのですけれどね。たとえ手を休めたところで、私が結界に手を加えようとしたという事実は消せませんから。
ひたすらすべてを無視して地味に戦う主人公。




