50.輿入れ
さて、私には考えていることがあります。
見たところ、わが姫と旦那様との関係は良好なようです。少なくとも旦那様の気持ちはよくよく分かっています、この生々しいものを含んだ愛は、私のものではなく旦那様のものでしょう。わが姫のお気持ちは、伝えてくださる分しか分かりませんが、まんざらではないご様子。これであれば私の考えていることもそれほど夢物語ではないでしょう。
私とわが姫とがこの国に来て、あっという間に半年が経ちました。
今日、私は正式に、この国の王妃となります。
兄殿下の成婚の儀と同じくらい、いえそれよりもっと盛大でしょう、近隣の国から身分の高い来賓が大勢いらしています。兄殿下のそれのとき、旦那様が駆け付けたように、生国からは兄殿下夫婦がいらっしゃっていました。久々にお会いしましたが、相変わらず薄っぺらいかたです。これ幸いとあれこれ苦言を呈しておきました。
もしかしたら、お会いするのもこれが最後かもしれませんし。
「綺麗ね、エン」
「わが姫の美しさに比べればこの程度」
微笑みあう私とわが姫とを見て、旦那様が微妙な表情をしていらっしゃいました。
「‥‥まぁ、今更何も言うまいが」
ここは花嫁の控室であり、本来ならば旦那様もいてはならないのですが、まぁ、このくらいは許容範囲でしょう、きっと。なかなか個人的な話ができず、この機を逃すとぶっつけ本番になってしまうものですから、無理なおねだりをいたしました。
「それで一体どうしたらいいと言うんだ、この非常識」
あんまりな言いぐさですね?ですがまぁ、
「それは非常識なことを言うんですよ、旦那様」
自覚はあります。旦那様がひくりとひきつり笑いをされましたが、時間がないので放置します。
「式次第では、誓いの言葉は空に刻むことになっていますね」
それだけが私の懸念です。何せ空に刻むということは世界に宣言するということ、矮小な人間には、それを覆すことはなかなかできません。ですので、
「その間だけ、大聖堂に結界を張ります」
誓いの言葉をただ列席の人間に対してだけの宣言に挿げ替えます。そのくらいの魔法は、今の私にも使えるはず。
「私と旦那様とは、ただ生涯の友です」
たとえ国と国とのつながりだろうと、私は今更このかたに本当の意味で輿入れしようとは思えません。かつて空に刻んだこともありますし、わが姫のお気持ちもありますので。
「‥‥そんなことが可能なのか?」
「おそらくは。かつての宵闇のエンほどの魔法は、今の私には扱えませんが、それでも封印が解けただけ現在の魔法使いよりも強い魔を持っている、はずです。」
わが姫は不安がりもされず、ただ微笑んでいらっしゃいました。
「どうぞ私にお任せください」
そうしてはっきりと、わが姫と、それから旦那様に向けてはじめて、臣下の礼を取りました。




