44.新たなる地へ
さて、数日前に始まって、同時に気付き、けれども隠されているらしいことについて、いつ言及しましょうか。
乗り心地の良い馬車でした。装飾はほとんどなされず、だから優美さを求める生国の面々に言わせれば安っぽいとなるのでしょうけれどもその実性能の良い馬車でした。これならばわが姫の御身にも負担がないので安心ですね。
「それにしても残念ですね。姫の剣の腕が見られるのかと期待していたのに」
わが婚約者様、まぁこれは実質嫁入り行列ですからすでに旦那様と呼ぶべきでしょうか、が、正面の座席で笑っておられます。
はて何のことでしょう、と思い、それから相変わらず悪趣味なことだとため息をつきました。
「剣など振う機会がないに越したことはないでしょう」
「そう言わずに。結構期待していたのだけれどね、国一番の剣士の、愛弟子の腕前が見られるかと」
「別に愛はないでしょう」
まぁ、大分手をかけていただいたのは確かですが。
先ほどから私は、馬車の外の気配を探っています。隣国の継承者と、その跡継ぎを産むべき人間が移動しているのです、少なくない人数が護衛についているはずですが、これがまた性能の良いところで、乗り心地だけではなく音についてもかなり遮断しているようです。これならばれないでしょうきっと。
「旦那様、わが姫」
それでも流石に不安はあったので、私の結界を張り巡らせてから、私は正面の旦那様と隣のわが姫をと見つめました。ちなみに旦那様側の人間は乗り込んでいません。不用心なことですね、私、彼を殺そうと思えば殺せてしまうのですけれど。
「エン?」
ずいぶんびっくりされたらしく、わが姫がはじかれるように顔を上げました。
「お芝居をいたしましょう」
「お芝居?」
こん、と扉を叩いて、その感触が常と違うことに気付いたのでしょう、旦那様が訝しげな表情で私を見ました。何をしたのだ、と。何を考えているのだ、と。
「わが姫。旦那様と恋に落ちたでしょう?」
私からすれば一目瞭然だったのですけれど、わが姫の狼狽と言ったらありませんでした。どうしましょう、瞬間的に真っ赤になって破壊力が半端ありません。眼福です。旦那様はちょっとどころでなく苦い心持でいらっしゃるようですが。
「え、何、なんで、え‥‥」
「母君が起こした騒動の時、旦那様が恋に落ちるのを感じましたので」
「‥‥あぁ、忘れていた。姫とはつながっているのだった」
ばれないつもりでいたのですかね、旦那様は。
‥‥書きたかったのは恋に落ちた場面だったのですが‥‥
母君が悪いのです。母君が暴走するから、恋に落ちた瞬間に、居合わせることができなかったのですよ‥‥
主人公だけでなく、岩も母君が嫌いです‥‥
だらだらと書き続けていたのはあの場面を描くためだけだったのにっ。




