43.兄の成婚と、出立
兄の憤懣を余所に、特に事件は起こりませんでした。良い事です。自分で言い出したこととはいえ、わが姫以外の為に剣を振おうとは余り思えませんので。
特に、義姉の生家からの祝辞には気を付けていましたが、何かの呪いが込められているということもなく、ということは完全にただの言葉だけの脅しであったのでしょうね。いくらなんでも我が子の心が死ぬようなことをさせるような親が、今の世にも存在するなどとはあまり信じたくはないものです。
私はほとんど確信していましたが、気を抜いてよいわけはありませんので、結局、成婚の儀を挟んで5日ほどは、ずっと義姉に張り付いていました。日中は互いの婚約者様以上に近くにいますし、夜もなんだかんだで扉を挟んで番をしていました。おかげさまで、兄が意外と義姉に心を砕いている片鱗を耳にしてしまいましたよ。生々しくて少々げんなりしました。
そして、本日、私は生まれ育った国を後にします。
「家族のきずなを確かめられたようで安心したよ」
微苦笑を浮かべる婚約者様。皮肉ですか。確かに、おそらくは私の機嫌を取るために隣国まで出かけてきたというのに、当の婚約者は義姉にべったりでしたから、持て余したのかもしれませんね。
「そうですね。義姉も、この国で幸せであればよいのですが」
というか、家族というか義姉としかほとんど会話しませんでしたよ。母とは相変わらず会話をする気にはなれませんし母のほうも私を避けていましたし、父は父で嫁ぐ私が心配なようでしたし、その心配は的外れですし。兄とは少しは会話しましたが、若干砂を吐く思いでした。えぇ、必ず近くに義姉がいたので。義姉は大分、慣れてきたようで、兄に甘える気になったのは良い事です。感情を押し殺すよりは余程建設的でしょう。私は砂を吐きそうでしたが。
「それでは、参ります」
私は見送りに並ぶひとたち一人一人と視線を合わせました。
父のことは尊敬しています。兄が継いでも大丈夫な我が国にしてくれたのは父の尽力です。母のことは正直軽蔑していますが、それでも、兄と私とを産んだのはこのひとなのです。兄のことは、意外と心配が要らないのではないかと思えるようになったのが驚きです。きっと騎士の彼も兄を支えてくれることでしょう。義姉も、最後の最後に多くの時間を共に過ごして、素直に幸せを祈れる心境になりました。
そして、師よ。私は貴方を誤解していたのかもしれません。今だって母との関係は許せませんが、私が思ったようではなかったらしいことが分かっただけでも良かった。いつだって殺すつもりで挑んできた。師ひとり殺せないような、弱い私に興味はなかった。貴方の教えは私と私が守りたいひとの助けとなるでしょう。
私が剣を佩いて馬車に乗り込むのを、手伝ってくれた騎士のひとは妙な顔をして見ていました。けれど私は笑顔で礼を言い、物問いた気な視線など黙殺しました。
ドレスに長剣が似合わぬことなど先刻承知。けれどそれこそが、我が身とわが姫を守るのです。
これから私は嫁ぎます。生家を離れ、わが姫を傍らに、新たな地を踏みます。




