42.姫君が護衛
そんなことよりも、私は早く戻りたかったのです。
あれ、でも待って、護衛すると口にしてしまった以上、義姉を放ってはいかれないではないですか。この際母のことはどうでもよいですが。
「あぁ、マールがいてくれるなら安心だね!」
「‥‥妹姫様が、ですか?」
義姉の疑問はもっともです。普通、姫と呼ばれる人間がされるほうではなく護衛をするなどと、思わないものでしょう。私も思いませんでした。
「マールは強いよ。国一番はそこの彼だけど、二番くらいなんじゃない?」
「流石にそこまでは。けれどまぁ‥‥十番以内には入るのではないかと自負しますが」
「‥‥え、と、‥‥剣で、ですか?」
私と兄と師と、揃って頷きました。
「姫様の腕は保証いたしますよ」
「ありがとうございます。
さて、それでは兄殿下」
これ幸いと、弛緩した表情を見せる兄に、私はにっこりと笑んで見せました。
「これで憂いはないですね。式典のご準備をなさい」
「えー」
「えーではなく。
母君、師、あとのことはこちらにお任せくださって結構ですよ」
だから母は特に素早く私の前から姿を消してください。苛々するので。
結局ずっと、切ないような目で師を見つめていた母が、師を連れて去って行くと、兄の騎士が私に声をかけてきました。兄と義姉とは、披露宴のダンスの練習です。主に足を引っ張っているのは思った通り兄ですね。
「‥‥良かったのですか」
「それはまぁ、私にも準備がまるでないとは言いませんが」
「そうではなく」
私はちらりと目線をやりました。いつも通りの無表情ですが、案じてくれているのは分かります。
けれど私はそれを無視しました。
「‥‥おそらくは言葉だけの脅しでしょうし、何事も起らないでしょうけれど、気を抜いていいわけではないでしょうね」
「‥‥。そうですね」
思えば彼と会話をすることも、あまりない経験ではありましたね。そんな彼でも、私が母に対して抱く想いは分かってしまっているのでしょうね。




