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宵闇の騎士  作者:
第3部
43/59

42.姫君が護衛

 そんなことよりも、私は早く戻りたかったのです。


 あれ、でも待って、護衛すると口にしてしまった以上、義姉を放ってはいかれないではないですか。この際母のことはどうでもよいですが。


「あぁ、マールがいてくれるなら安心だね!」


「‥‥妹姫様が、ですか?」


 義姉の疑問はもっともです。普通、姫と呼ばれる人間がされるほうではなく護衛をするなどと、思わないものでしょう。私も思いませんでした。


「マールは強いよ。国一番はそこの彼だけど、二番くらいなんじゃない?」


「流石にそこまでは。けれどまぁ‥‥十番以内には入るのではないかと自負しますが」


「‥‥え、と、‥‥剣で、ですか?」


 私と兄と師と、揃って頷きました。


「姫様の腕は保証いたしますよ」


「ありがとうございます。

 さて、それでは兄殿下」


 これ幸いと、弛緩した表情を見せる兄に、私はにっこりと笑んで見せました。


「これで憂いはないですね。式典のご準備をなさい」


「えー」


「えーではなく。

 母君(ははぎみ)、師、あとのことはこちらにお任せくださって結構ですよ」


 だから母は特に素早く私の前から姿を消してください。苛々するので。



 結局ずっと、切ないような目で師を見つめていた母が、師を連れて去って行くと、兄の騎士が私に声をかけてきました。兄と義姉とは、披露宴のダンスの練習です。主に足を引っ張っているのは思った通り兄ですね。


「‥‥良かったのですか」


「それはまぁ、私にも準備がまるでないとは言いませんが」


「そうではなく」


 私はちらりと目線をやりました。いつも通りの無表情ですが、案じてくれているのは分かります。


 けれど私はそれを無視しました。


「‥‥おそらくは言葉だけの脅しでしょうし、何事も起らないでしょうけれど、気を抜いていいわけではないでしょうね」


「‥‥。そうですね」


 思えば彼と会話をすることも、あまりない経験ではありましたね。そんな彼でも、私が母に対して抱く想いは分かってしまっているのでしょうね。

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