41.母というひと
ただ、と私は続けました。
「母君がこの様子では、難しいかもしれませんね」
けれどそれにたいして、兄から返ってきたのは同意ではありませんでした。
「そう?
そりゃ確かに心苦しいけどさ、こんなでも一応権限だけはあるんだから、無理に進めようと思えば進めるよ」
「?え、師は母君の騎士、なのでは?」
騎士は基本的に、主の命しか聞く義務はないはずです。
それよりむしろ、こんなでも一応、という台詞のほうに反応しかけました。自覚があったのか、と。
「‥‥いえ、姫様、私は陛下の騎士です」
え、それでは、あれ、私の勘違いだったのですか?私ずっと、そう思い込んでいたのですけれど。だっていつも母の傍にいたではありませんか。
「だから一応、僕が継ぐんだから、命令できるわけ」
心苦しいからできれば母上に賛成いただきたいと思ったんだけど、と兄は呟きましたが、私は正直聞いていませんでした。
あれ、父の騎士ということはつまり母の騎士ではなく、父が母を守らせていたと、そういうわけですか?国一番の剣士であるから?それは無駄ではないのですか、自身の騎士に自身以外を守らせて、あぁ、父は母を本当に失いたくないと、そういうことですか?
なにやらぐるぐるしましたが、それはひとまず置いておいて、私は話を進めることにしました。
「つまり母君が納得しさえすれば話は簡単だということですね」
というより私が来る必要はなかったのではないでしょうか。兄の起こす騒動を収めるのは私の役割だとそういうことですか。私が嫁いだらどうするつもりなのですか。
「わたくしは嫌です、耐えられない」
舌打ちしたいのを堪えます。
このような場所でよく言えるものですね、不貞を疑われないはずがないではありませんか、この女は馬鹿なのでしょうか。馬鹿なのでしょうね。私の視線に耐えても言い募る度胸には感服しますが、馬鹿なのでしょうね。
「‥‥ではこうしますか」
私の笑顔には、多分青筋が浮かんでいます。本当にこの女には苛々させられます。
「この国を出るまで、私が義姉君を護衛します。その頃には大方の外つ国のかたがたは出国されるでしょうし。それ以降、それほど長い期間はかからず普段通りに戻るでしょうから、その間だけ師にお願いする、というのは」
本当は、私の結界の魔法をかければ早いのでしょうけれど、その効用を知っている人間はいませんので、余計なことはしませんよ。




