表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宵闇の騎士  作者:
第3部
38/59

37.義姉と

「‥‥どうされたのですか」


 ぼんやりとした義姉をぼんやりと見つめていたら、やはりどこかぼんやりと、声をかけられました。しまった、押しかけたのはこちらだというのにぼうっとしていました。


「特にどうということもないのですが、お話ができないかと思いまして」


 いつもの通り、私の顔には張り付いた笑顔。


「‥‥お話、ですか」


「はい。私の侍女の淹れるお茶はそれはそれは美味しいのです」


 義姉はやはり薄ぼんやりと、ようやくわが姫を認識されたようでした。あぁ、とかはぁとか、口の中で何かを呟かれたようですが、さっぱり聞こえてきませんでした。それでも私の強引なお茶のお誘いを受けてくださることにしたらしく、私は初めて義姉の客間へ通されました。



 かちゃりかちゃりと、小さな音が部屋に満ちる。


 ぼんやりさんでも味のよさは感じたらしく、義姉がちょっと驚いたように目を見張ったのが印象的でした。すると幾分印象がはっきりと表れました。そうか、ぼんやりした印象は、目が細いせいだったのですね。


「‥‥お話、とは」


 それにしてもぼそぼそと話されるかたですね。


 私はちょっと首を傾げて見せ、それからにこりと微笑みました。


「お微笑(わら)いください」


と、私は兄の妃となるひとに言いました。


「楽しくなくても。幸せでなくても。それを表に出すことないよう。

 仮面でいいからお微笑いください」


 もちろん、嫁を不幸せにするような兄なら私が殴りに行きますけれど。


 義姉はきょとんと私を見ました。うん、やはり虚を突かれたときの表情は、別に薄ぼんやりとしていない。つまり私が笑顔の仮面を被るのと同じということでしょう。


「兄殿下はあぁいうかたですから、感情をただ殺すのではお互いによい結果にならないのではないかと思ったのです」


「‥‥つまり、それは」


「あのひとは多分、仮面の笑顔でも怒りはしませんよ」


 そのとき義姉の表情を彩った感情は何だったでしょうか。怖れ・怯え・怒り・あるいはそれら全てで、また全く違うもの。


「この国で貴女を損なうものはありません。もともとの同盟国ですから政治的な云々はそれほど期待されていませんし、むしろ貴女が不幸がるほうがよろしくないと思います」


 義姉はやはりすべてを押し殺しましたが、それでもぎこちなく唇を歪めました。


「‥‥それは忠告なのかしら」


 似たような笑顔を私も浮かべました。


「そのようなものかもしれません」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ