38.その血筋
表面上は終始和やかに、けれど互いにどこかいびつな笑顔を浮かべ、夕食後のお茶を終えて私はわが姫と連れ立って部屋へ戻りました。
「あのかたは、つまり、怯えているということかしら」
その道すがら、ぽつりとわが姫が呟きました。
「‥‥そう言って構わないと思います。
同盟国は、カンタール公の裔ですから」
「‥‥そういうこと」
そこからの入り婿であるところ父にはそんな片鱗はないので忘れがちですが、かの公爵家現在の王家は、なんというのか、家父長の権限が非常に強いのです。外部からでは本当のところは分かりませんけれども、ここ数年義姉を眺めていた結果私が思い至ったのは、かの王家では婦女子の感情など封じ込められているのではないか、ということです。言ってしまえば横暴なのですよね、父はそんなことがまるでありませんけれども。
「‥‥何百年も経ったことなどあまり意識はしていなかったのだけれど」
息を吐くその姿も麗しい。
「何百年も経ったのだったら変化してもよかったのに、ということばかり変わらないのね」
「ひとなどそういうものでしょう」
私が一言告げただけで、何かが変わるとは思っていません。ただ、ここが生家と違うということだけでも知っていてほしかった。仮面を被ることを悪だと言われたら、私だって息もできないのですけれど、押し殺されなければならないことと、自ら仮面を被ることでは生き辛さが段違いだと思います。
あとは兄の仕事ですね。あの素直さで、仮面を被り続けることなど阿呆らしいと思い至らせてくれたらよいのですが。
「‥‥ねぇエン、あなたは?」
兄夫婦の道行きに想いを馳せていましたら、わが姫が小首を傾げて私を見ました。
「私ですか?」
お揃いのように首を傾げました。
「あなたも、だって、笑顔は仮面なのでしょう?」
それはその通りです。
「‥‥私には、秘密がありましたし」
わが姫を再び見出すことだけが目的でした。そのような私が、普通の子供のように両親に甘えられるはずもなく、意図もなく兄に懐けるわけがなかったのです。
「でも今は、わが姫が傍らにいらっしゃいますから」
ようやく心から笑えるのです。




