31.解けた封印がもたらしたもの
私が至福の時間を過ごしておりますと、それを邪魔する輩が現れました。
「マール!
って、何でこの扉開かないわけ?!」
「建付けが悪いのか、急げば急ぐほど開かないのですよ」
建付けが悪いは嘘ですよ。
名残惜しいですが手を放し、わが姫に目配せをして隣室へ下がっていただき、私は扉に施した封印を弱め、内から扉を開きました。いかにも大儀そうに。実際、封印は完全に解いてはいませんから、かなり重く感じられるのは確かです。
「‥‥補修しないと?」
「何故疑問形なのかはあえて突っ込みませんが、必要はないでしょう。苦労はしていないし私はこの城を去る身ですから」
「そうそれを訊きに来たんだって」
父にでも聞いたのでしょうか。それで息せき切ってやってきたわけですね、この時間ということは、公務をサボったわけではなさそうで安心しました。
「それにしても成人した婦女子の扉を前触れなく開けるのは非常識ですね。
まぁ、お入りください」
この兄に対しては、遠回しな言い方など通用しないことくらいは学習しております。きっぱりと告げ、それによって兄(とその騎士)に対して私の部屋の封印はさらに弱まりました。具体的には、物理的に侵入するのを妨げはしないけれどなんとなく居心地悪く感じられるくらい。
「それで、このような時間にどうされました?」
わが姫を見出して、私はかつての魔法を少しばかり思い出しました。
わが姫の御身を封印していた分の魔力が私に戻りましたが、かつての私のように自在に操るべくもなく、けれどその思い出した魔力と魔法でもって、私は全力でわが姫をお守りする所存です。
わが姫は麗しいのです。どんな男も恋しないでいられないくらい。
けれどそれではまた不幸を呼び寄せるだけですので、私はわが姫に魔法をかけました。誰も注目しない魔法。悪意だけでなく善意でも、過ぎれば毒となるものです。ならばそのすべてを遠ざければよい。わが姫がご自身から近付きたいと思われない限り、誰の目にも止まらないというような、私は魔法をかけました。
同時に居室も封印しました。封印と言っても物理的に阻むそれではありません。心に作用するような魔法を私は得意としていました。理由には思い至らないけれどなんとなく嫌な感じがする、といった程度の封印です。それも中に入る私とわが姫には何ともないという優れもの。自画自賛です。
まぁそんなわけで、私の自室は私とわが姫の憩いの場ではありますが、それ以外の人間にとってはあまり嬉しくない環境でしょうね。案の定、兄は部屋に招かれたはいいもの腰を下ろそうともせず、少しばかり目を泳がせておりました。




