30.お茶会
しばらくわが姫が淹れてくださった茶を賞味していましたが、反応がありません。
いぶかしく思って目をやると、わが姫がやるせないような表情をされているではありませんか。これはいけない、姫の憂いは私が晴らしてみせましょう。
「‥‥わが姫?」
「‥‥え。あ、どうしたの?エン」
あぁ、そのような儚いような笑顔を見せないでください。
しかし、輿入れなどという面倒臭いことに巻き込まれるのは私なのに、何がわが姫の気にかかっているのでしょう?
「‥‥隣国と言っても、隣町程度ですよ?」
というより、城下町程度です。あの城はあまりに広大でしたから。だって城門から母屋まで、馬車で移動するのですよ。私は面倒なので転移していましたが。あの頃は魔はありふれていましたし、私自身の力も満ち溢れていましたしね。
「え?えぇ、そうね。元クルサンド領地から、カミナンド領地までだと、そのくらいだったものね」
ふむ。冷静なお答え。すると、道中が煩わしいというわけではなさそうです。
というより、そういえば大切なことをお訊ねするのを忘れていました。
「‥‥わが姫は、この城に思い残すことがおありですか?」
ちなみに私にはありません。わが姫と出会えましたから、あとはどこでだって生きていけます。
しかしわが姫はその問いには首を横に振って答えられました。
「‥‥いいえ。‥‥何故そのようなことを訊くの?」
「それはわが姫が憂えていらっしゃるからです」
一体何が貴女を沈ませるのか。
真正面から問えば、わが姫はきちんと答えてくださいました。
「‥‥いつになっても、王族なんてものは政略結婚から逃れられないものなのね、と思ったの」
そうですね。私の結婚は、間違いなく政略結婚ですし。そこに恋愛感情は見出されないでしょう。少なくとも私の側にはありません。親愛の情は抱けましょうけれど。
ふと思い出しました。
「‥‥わが姫は、恋とかしたいのですね」
そういえば昔から、恋物語がお好きでいらっしゃった。
「‥‥それは、でも、‥‥」
顔を赤くして狼狽えるわが姫の手を握り、私は力強く請け負いました。
「大丈夫です。わが姫は恋とかしてください。全力を以て成就させますから」
私などが何もしなくても、わが姫に恋しない男はいませんけどね。




