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宵闇の騎士  作者:
第3部
31/59

30.お茶会

 しばらくわが姫が淹れてくださった茶を賞味していましたが、反応がありません。


 いぶかしく思って目をやると、わが姫がやるせないような表情をされているではありませんか。これはいけない、姫の憂いは私が晴らしてみせましょう。


「‥‥わが姫?」


「‥‥え。あ、どうしたの?エン」


 あぁ、そのような儚いような笑顔を見せないでください。


 しかし、輿入れなどという面倒臭いことに巻き込まれるのは私なのに、何がわが姫の気にかかっているのでしょう?


「‥‥隣国と言っても、隣町程度ですよ?」


 というより、城下町程度です。あの城はあまりに広大でしたから。だって城門から母屋まで、馬車で移動するのですよ。私は面倒なので転移していましたが。あの頃は魔はありふれていましたし、私自身の力も満ち溢れていましたしね。


「え?えぇ、そうね。元クルサンド領地から、カミナンド領地までだと、そのくらいだったものね」


 ふむ。冷静なお答え。すると、道中が煩わしいというわけではなさそうです。


 というより、そういえば大切なことをお訊ねするのを忘れていました。


「‥‥わが姫は、この城に思い残すことがおありですか?」


 ちなみに私にはありません。わが姫と出会えましたから、あとはどこでだって生きていけます。


 しかしわが姫はその問いには首を横に振って答えられました。


「‥‥いいえ。‥‥何故そのようなことを訊くの?」


「それはわが姫が憂えていらっしゃるからです」


 一体何が貴女を沈ませるのか。


 真正面から問えば、わが姫はきちんと答えてくださいました。


「‥‥いつになっても、王族なんてものは政略結婚から逃れられないものなのね、と思ったの」


 そうですね。私の結婚は、間違いなく政略結婚ですし。そこに恋愛感情は見出されないでしょう。少なくとも私の側にはありません。親愛の情は抱けましょうけれど。


 ふと思い出しました。


「‥‥わが姫は、恋とかしたいのですね」


 そういえば昔から、恋物語がお好きでいらっしゃった。


「‥‥それは、でも、‥‥」


 顔を赤くして狼狽えるわが姫の手を握り、私は力強く請け負いました。


「大丈夫です。わが姫は恋とかしてください。全力を以て成就させますから」


 私などが何もしなくても、わが姫に恋しない男はいませんけどね。

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