表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宵闇の騎士  作者:
第1部
13/59

12.空に刻む

 他人とつなぐ魔法を使うのは、初めてでした。


 名前が名前ですから、私の身近にいたかたたちは、私に魔法を修めてはほしくなかったようです。そのせいか、魔法を習いたいという気持ちは、剣を習いたいという我がままほどには受け入れられませんでした。普通は、我が身を傷つけることなく我が身を守れるという点では、剣より魔法のほうがよいのでしょうけれど。


 結局魔法については自己流です。それでも、己にかける魔法くらいなら不自由はありませんでした。


「これで‥‥えぇと、本当は、互いの名を空に刻むのが一番なのですが」


 なんとかお互いの身体の一部である髪の毛を数本使った簡単な儀式を終え、あとは仕上げの段階です。『空に刻む』とは、力を込めて口に出すことを言います。それによって世界に宣言するのです。この場合の互いの名は、もちろん、本当の名です。私が呼ぶのは簡単ですが、彼に呼ばせるのは無理があるでしょう。


「‥‥多分、呼び名で十分だと思います」


 それほど強固に結びつける必要もありませんし。というのは、一応本心でした。けれど、私はどこかで期待していたのかもしれません。


「‥‥いいえ。一度はきちんとお呼びしなければと思っていましたので」


 だから、王子がそう言ってくれたのが、本当に心底嬉しかった。


「‥‥空に刻むのにも、なにか作法はあるのですか?」


「‥‥世界への宣言ですから、究極本当に名だけでも十分なのですが」


 本当に、いいのですか?尋ねながらも私の心は浮き立っていました。だって、名を呼んでもらえる。私として、クルサンドの姫として生まれてから、一度も本当の名で呼びかけられたことがなかったのに。


「――はい」


「‥‥ありがとう、ございます‥‥

 それでしたら、私の後について、同じように告げていただけますか」


 正直ちょっと泣きそうでした。


 けれど震える声で私は空に刻みました。心を込めて。


「アデランテ・カミノ様を、生涯の友に」


「――エン(マール)・クルス姫を、生涯の友に」


 ――あぁ。


 心がつながった私たちが、最初に共有したのは、私の深い深い喜びと感謝の気持ちでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ