12.空に刻む
他人とつなぐ魔法を使うのは、初めてでした。
名前が名前ですから、私の身近にいたかたたちは、私に魔法を修めてはほしくなかったようです。そのせいか、魔法を習いたいという気持ちは、剣を習いたいという我がままほどには受け入れられませんでした。普通は、我が身を傷つけることなく我が身を守れるという点では、剣より魔法のほうがよいのでしょうけれど。
結局魔法については自己流です。それでも、己にかける魔法くらいなら不自由はありませんでした。
「これで‥‥えぇと、本当は、互いの名を空に刻むのが一番なのですが」
なんとかお互いの身体の一部である髪の毛を数本使った簡単な儀式を終え、あとは仕上げの段階です。『空に刻む』とは、力を込めて口に出すことを言います。それによって世界に宣言するのです。この場合の互いの名は、もちろん、本当の名です。私が呼ぶのは簡単ですが、彼に呼ばせるのは無理があるでしょう。
「‥‥多分、呼び名で十分だと思います」
それほど強固に結びつける必要もありませんし。というのは、一応本心でした。けれど、私はどこかで期待していたのかもしれません。
「‥‥いいえ。一度はきちんとお呼びしなければと思っていましたので」
だから、王子がそう言ってくれたのが、本当に心底嬉しかった。
「‥‥空に刻むのにも、なにか作法はあるのですか?」
「‥‥世界への宣言ですから、究極本当に名だけでも十分なのですが」
本当に、いいのですか?尋ねながらも私の心は浮き立っていました。だって、名を呼んでもらえる。私として、クルサンドの姫として生まれてから、一度も本当の名で呼びかけられたことがなかったのに。
「――はい」
「‥‥ありがとう、ございます‥‥
それでしたら、私の後について、同じように告げていただけますか」
正直ちょっと泣きそうでした。
けれど震える声で私は空に刻みました。心を込めて。
「アデランテ・カミノ様を、生涯の友に」
「――エン(マール)・クルス姫を、生涯の友に」
――あぁ。
心がつながった私たちが、最初に共有したのは、私の深い深い喜びと感謝の気持ちでした。




