10.式典の最中
明けて、翌日。
本日は晴天なり。式典を行うにはこれ以上ない晴れ舞台ですね。
成人の儀、それに続く立太子の儀、付随する叙勲の儀。すべてはつつがなく進行しました。
式典の間は、特になにができるわけでもありません。呆っとしていると指示を聞き洩らしますし、かといって真剣に参加するような何事もありませんし。
仕方がないので列席するかたがたをなんとなく眺めておりました。
(‥‥へぇ‥‥)
中に一人、いかにもな王子様がいらっしゃいました。
(あれが、婚約者様でしょうか‥‥)
隙のない立ち居振る舞い、そして柔らかな雰囲気。まさに王子様でした。
(‥‥それに比べると兄は‥‥)
‥‥どこか物悲しくなりました。いいとこ貴族のご子息にしか見えません。なぜでしょう、軽薄な雰囲気からか。おかしいな、これは晴れ舞台のはずなのですが。隣国の王子様の匂い立つ気品と比べると、その付け焼刃の作法の薄っぺらい事。とちったりすることはないだけましでしょうけれど。
あぁ、なんとなく分かりました。兄には気品がないのですね。
品がないより大分ましですが、これが君主になってどうなのでしょう。‥‥まぁ、きっとあまりに頼りない君主ですので、逆に家臣が発奮してくれるかもしれません。支えるにはこれ以上ないでしょうね。
ないがしろにされることがないよう祈ります。
次に、私と同年代のお姫様にも目をやりました。
彼女とは何度か顔を合わせたことがあります。兄の婚約者です。
こちらのかたは‥‥なんというのか、覇気がありません。これは前々から思っていたことです、華やかな装いの割に、影が薄いと申しますか。未来の王妃様としては若干の不安を覚えますが、私が私がと前に出られるよりは良いのかもしれません。兄との仲は、見た限りですが、特に悪くもないけれどもよいというわけでもなさそうです。まぁ、所詮政略結婚ですし。
自国の道行きに想いを馳せていると、気付いたら式典は終わっていました。
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式典が終われば、あとは外交です。政治の時間です。主役である兄は大変でしょうけれど、おまけの私は特に注目を浴びることはありません。「あれが忌み名の王女か」、くらいの視線はまとわりつきますが、それは初対面のかたがたがいるところではいつものこと。今更気にしたりしません。
確たる役割のない私は、自室へ引っ込もうと、城中を歩いておりました。
そこにかかる声が、ありました。




