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第1話:ギルド登録と鑑定スキル疑惑

元植物園職員が書く植物知識チート系異世界転生です。こちらぎゅっと圧縮した短編版なので十数話で完結予定です。

▼異世界転生とギルド登録


 目が覚めると異世界だった。

 何もわからずおろおろしていると見かねたライオン獣人のカロンさんが助けてくれた。


「まあ落ち着け。おまえ、ええと、名前はダイチだったか?

 事情はだいたいわかった。 

 魔法がない世界にいたってことはダイチは異界わたりして来たってことだろう」


「それって、つまり転生したってことですか?」


「まず間違いな。精霊様のお導きだろう。

 そうだな。ともかく冒険者ギルドに登録に行くか。

 このままじゃ生活できねぇだろ?

 ギルドで依頼を受けて冒険者として生計を立てればいい。俺ぁA級冒険者だ。ギルドには顔が利く。

 助けてやっからよ!」


「ありがとうございます……!

 僕、植物が好きなので採取をやってみたいです」


「おお、そりゃよかった。討伐の方が儲(もう)かるが、採取系の依頼も多いぞ。どんどん受けてたくさん稼げ!」


「頑張ります!」


 かくして僕は異世界での生活のために冒険者として薬草採取に励(はげ)むことになった。


▼薬草採取と葉序(ようじょ)の概念


 さっそく薬草採取の依頼に出発した。

 カロンさんの紹介で、テイマーの女の子が付き添ってくれている。

 黒ウサギの獣人の女の子、チルルだ。

 快活でしっかりものでとても頼りになる。

 魔獣を巧(たく)みに操って、あっという間に薬草の自生地に連れてきてくれた。


「薬草採取ってわたし苦手なんだけど、ダイチは楽しそうだね」


「うん、植物が好きだからね。

 あ、ほら、依頼のモヨギ草があったよ!」


 僕は草原の一角を指差す。

 見本としてもらったものと同じ植物が風に揺(ゆ)れている。


「え? こんなに遠くから見つけるのは無理でしょ?

 それに、ニセモヨギ草の方かもしれないよ」


「いや、間違いないよ。モヨギ草とニセモヨギ草の見分け方とっても簡単だし」


「ええ? それはさすがにウソでしょ。モヨギ草とニセモヨギ草の見分け方ってわかってないんだよ?

 この道何十年のベテラン冒険者の勘か、上級魔導士様の鑑定魔法でしか見分けられないんだから」


「え? いやいや、そんなことないよ。めちゃくちゃ簡単だよ?」


「え? 本当に?」


「うん、本当。だってモヨギ草は互生(ごせい)でニセモヨギ草は対生(たいせい)だもん。

 一目瞭然(いちもくりょうぜん)だよ」

 

「……そのゴセイ、タイセイってなんの話?」


 チルルは怪訝(けげん)そうに眉を寄せる。


「あ、もしかしたら用語が違うのかな? 葉序(ようじょ)、つまり葉のつき方のことだよ」


 僕はわかりやすいようにモヨギ草とニセモヨギ草を地面に並べて説明する。


「葉っぱの付け根をよく見てね。モヨギ草は茎から互い違いに葉っぱが生えているでしょう? こういうのを互生(ごせい)って呼ぶんだ。

 そしてニセモヨギ草の方は2枚の葉っぱが同じ位置から生えてる。これは対生(たいせい)っていう葉のつき方。

 確かに葉っぱの形は似てるけど、葉序(ようじょ)が違うから簡単に判別できるでしょう?」


 最初はぽかんとしていたチルルが説明するにつれて、目をキラキラさせ始める。


「……本当だ。すごい! こんな簡単な見分け方があったんだね! わたし、今まで葉っぱのつき方なんて考えたことなかった!

 これってものすごい大発見だよ!?」


「そうなの? 僕のいた国では図鑑に普通に載ってることなんだけど……」


「そんなことないよ! すごいよ! 飛び級でランクあがっちゃうかもよ!?」


 チルルが耳をしきりにぴんぴんさせて喜ぶ。

 ……僕からするとそこまで大騒ぎすることには思えないけどなぁ。

 

「アハハ、じゃあまあいっぱい採取して帰ろ!」


「もちろん! ギルド中がひっくり返るくらい驚かすわよ!」


 僕らはせっせと薬草採取に励(はげ)んだ。

 

▼鑑定スキル疑惑とM級冒険者の資格


「……申し訳ありません。責任者を呼んで参りますのでお待ちください」


 ギルドの職員さんがあわてた様子で裏に引っ込んでいく。

 なんだろう。

 僕はチルルに長い耳に小声で耳打ちする。


「どうしたのかな?」


「どうしたもこうしたもないよ。鑑定結果がすごすぎて一般の職員さんじゃ処理しきれないんでしょ?

 見なよ、この結果。初心者の初受注なのに300株全部モヨギ草だよ? ニセモヨギ草はひとつもなし。

 ありえなさすぎて、わたしが職員さんでも上司を呼びに行くわ」


「……そんなに? あんなに簡単に見分けられるのに?」


「だ・か・ら! めちゃくちゃ大発見だって言ったじゃない! もっと自覚もって!」


「うーん、でもさ……」


「お待たせいたしました。副長のアウェア・グラスです。鑑定結果を伺いました。

 申し訳ありませんが、お二人とも別室によろしいですか?」


 チルルと話していると職員さんに連れられて上司の人がやってきた。丸メガネのお兄さんだ。

 それにしても副長さんって、ずいぶんえらい人が来ちゃったなぁ。

 僕らは促(うなが)されるまま、別室へ行く。


「ええと、今回の薬草採取はお二人で集めたのでしょうか?」


「いえ、わたしも手伝ったけど9割くらいはダイチが集めてますよ」


「なるほど。では単刀直入(たんとうちょくにゅう)にお尋ねします。

 ダイチ様。どんな鑑定スキルをお持ちですか?」


「え?」


「大規模鑑定魔法か、特殊な血統魔法か、あるいは精霊の祝福でしょうか?

 どちらにしてもこれほどの能力ですとギルドだけでなく国へも報告する必要がございますよ」


「えーと……、どれも違います」


「秘密にしたいお気持ちはわかりますが……。

 この結果は限度を超えています。

 通常、初心者ですとモヨギ草の採取割合はよくて3割程度で、残りの7割はニセモヨギ草が混入します。

 ベテラン冒険者でも1割程度はミスがあるのが普通です。

 それなのにニセモヨギ草の混入が0株というのはありえません。依頼達成速度も早すぎます。これは何らかの方法で鑑定を行ったとしか考えられません。

 もしや、伝説の鑑定眼の持ち主なのでは……?」


「いやいやいや! 全然違います!

 ただ、植物を観察して同定(どうてい)しただけです。

 強いて言うなら観察眼です」


「カンサツガン……? それは一体どんなスキルでしょうか?」


「いえ、スキルとかではなくてですね……」


 僕はチルルにしたように副長に説明する。

 モヨギ草とニセモヨギ草は葉序(ようじょ)、葉のつき方で見分けられる。本当に簡単なのだ。特殊スキルなんてまったく必要ない。


「……な、なるほど。こんな見分け方があったとは……。

 これは、素晴らしい大発見です! 大変画期的(かっきてき)ですよ!」


「ですよね、ですよね!? なのに、ダイチったら当たり前のことみたいに言うんだから!

 こっちが困っちゃいますよ」


 副長は目に涙を浮かべていて、チルルにはじとっとした目で見られる。

 そんな風に見られてもなぁ……。

 当たり前の知識すぎて興奮されてもまったくピンとこない。


「ちなみに、モヨギ草とニセモヨギ草には葉序(ようじょ)以外にもいろいろと違いがありましたけど、それも説明した方がいいですか?」


「え!? それは聞いてないよ、ダイチ!」


「ちょ、ちょっとお待ちください!

 そのように貴重な知識をギルドに安易に開示して本当によろしいですか!?」


「えーと、じゃあ内緒にします……?」


「えー! わたしは知りたい!」


「い、いえ。ギルドとしては大変ありがたい限りですが、冒険者の情報秘匿(ひとく)の権利も大事に守られるべきものでして……」


 チルルはピョンピョン跳ねて楽しげだけど、副長はハンカチで汗をぬぐって困り顔だ。


「ダイチ様。確認ですが、他の薬草に関してもこのように特徴を言語化することが可能ですか?

 そして、それをギルドに共有していただけると?」


「え? そうですね……。

 他の薬草がどんなものか知らないですけど、簡単でいいなら、どういう特徴があるかは説明できると思いますよ?」


 こっちの世界の植物は全然知らないけど、見たまんまの特徴を話すだけなら、まあできるだろうし……。


「なるほど、承知しました。

 では、ダイチ様。M級冒険者になりましょう」


「え!? M級ですか! そんなのアリですか!?」

 

 チルルが驚いて飛び上がる。驚きすぎて黒い毛並みが逆立っている。

 僕はむしろチルルの声にびっくりした。


「ええっと、M級冒険者ってなんですか? そんなランクありましたっけ?」


 登録の時に冒険者の説明を聞いたけど、最低がF級であとはそこからE、D、Cとあがっていくだけだったはずだ。M級は聞いた覚えがない。


「M級冒険者とは、S級・A級の上級冒険者や特殊技能持ちの特定冒険者が現役を引退した後、その知識や経験を後続の冒険者たちに広めるためにギルドが与える資格です。

 立場としてはギルド専属の特任講師や研究者のような形になります。

 ギルドが独自の基準で認定するものであり、希望してなれるものではありません」


「え? それってめちゃくちゃすごい資格じゃないですか? カロンさんが引退したらなれるかどうかっていう資格ですよね?

 それに初心者の僕がなるんですか?」


「ええ。駆け出しのF級冒険者がM級に認定されるなど、まったく前例のない前代未聞(ぜんだいみもん)の事例ですが、それほどの価値があると判断いたしました。

 そうでもしないと、開示される情報に対してダイチ様の立場が釣り合いません」


「いやでも、そんな大げさな……」


「大げさじゃないってダイチ! すごいことなんだから、素直に副長に従おうよ!

 ていうか、M級だよ、M級! M級の冒険者って言ったら国王陛下から勲章(くんしょう)授かってるような人たちばっかりなのよ!?

 冒険者にとって一番の名誉と言っても過言(かごん)じゃないよ!

 断るなんてありえないよ!」


「そ、そっか。わかったよ……。

 えっとじゃあ、副長さん。よろしくお願いします……?」


「なっていただけますか! なによりです!

 はっきり言って、ダイチ様の知識は革命です。

 これから騒がしくなりますよ……! 覚悟してくださいね!」


「は、はい」


 こうして、あれよあれよという間に、僕は史上初の最年少飛び級M級冒険者として有名になっていくのだった。

長編版はこちら(タイトル同じです)

https://ncode.syosetu.com/n3580ln/

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お読みいただきありがとうございました。

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