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第四話:家族のような温かさ 2

 詩孝榮は奕德を背負ったまま、一枚のガラス扉の前までやって来た。


 そして奕德に言った。


「お前、今は全身泥だらけだろう? こんな状態で飯を食べに行ったら、きっと気持ち悪いだろうな。だから先に風呂に入って、ゆっくり体を洗ってきなさい。着替えはあとで妤玟に持って来させるから」


 奕德はゆっくりと詩孝榮の背中から降り、ガラス扉を開けて中へ入った。


 浴室全体からは、簡素で素朴な雰囲気が感じられた。


 すでに湯が張られた立方体型の浴槽と、コップを置くためのものと思われるくぼみ、そしていくつかの簡素な木桶があるだけで、それ以外には余計なものは何もなかった。


 奕德はそれを見て、素早く身につけていた古びた服を脱ぎ、簡単に身体を洗い流した。


 そして、そのまま気持ちよさそうに浴槽へと浸かった。


 温かな湯の温度を感じた瞬間、奕德はついに涙を抑えきれなくなった。


 一滴、また一滴と、涙が頬を伝って流れ落ちていく。


 奕德は身体に伝わってくる温もりを感じながら、これまでにないほどの安らぎを感じていた。


 自分がいったいどれほど長い間、こんなにもゆっくりと心地よく風呂に浸かっていなかったのか、もう完全に思い出すことさえできない。


 どれほど泣いていたのかも分からないまま、やがてゆっくりと瞼を閉じ、夢の中へと落ちていった。


「おーい! おーい! おーい! いつまで寝てるの?」


 一連の呼び声によって、奕德は夢から目を覚ました。


 目を開けると、目の前には妤玟が立っていた。


 片手には何着かの服を持ち、もう片方の手で奕德の頬を優しく叩いている。


 目の前にいる人物が妤玟だと分かった瞬間、奕德は顔を真っ赤にして、しどろもどろになりながら妤玟に叫んだ。


「き……君……どうしてここにいるんだよ?」


 妤玟は不思議そうな顔で尋ねた。


「服を持ってきたんだよ。もしかして、お父さんから聞いてないの?」


 奕德は大声で叫んだ。


「僕は男なんだぞ! どうしてこんなところに勝手に入ってくるんだよ!」


 妤玟は肩をすくめ、困ったように言った。


「だって、さっき外からいくら呼んでも返事がなかったから、仕方なく中に入って見てみようと思ったんだもん。それに、あなたの身体なんて見ても何が面白いの? 紙みたいに痩せてるじゃん。私、全然興味ないからね」


 口ではそう言っているものの、妤玟自身も自分に非があることは分かっていた。


 だからこそ、拗ねたように頬を膨らませ、手に持っていた服を奕德へ放り投げると、素早く浴室から出ていった。


 奕德は着替えを済ませて浴室から出ると、妤玟の後ろについて食堂へ向かった。


 そこでは、詩孝榮が穏やかな表情でこちらを見つめていた。


 そして、その隣には三十代から四十代ほどに見える女性が座っていた。


 妤玟の母親と妤玟は、まるで同じ型から作られたかのようにそっくりだった。


 二人を見分ける唯一の違いといえば、目の色くらいだろう。


 妤玟の母親の瞳は琥珀のような濃い茶色で、妤玟の瞳は深い青色だった。


 その女性は奕德を見ると、温かく声をかけた。


「あなたが妤玟から聞いていた奕德君ね。ようこそ、ようこそ! 私は陳銀霞。この子の母親よ」


 奕德も簡単に自己紹介をすると、陳銀霞は次々と料理を食卓へ運んできた。


 奕德はおそらく、あまりにも長い間、温かな食事を口にしていなかったのだろう。


 彼らが「いただきます」と言った瞬間、彼はすぐさま周囲の目も気にせず、テーブルの上の料理を口へと詰め込んでいった。


 まるで台風が通り過ぎたかのように、テーブルの上にあった料理をあっという間にすべて平らげてしまった。


 奕德は満腹になった後、詩妤玟の家族へ向かって真剣に頭を下げた。


「詩お父さん、詩お母さん、本当にご馳走様でした。こんなに美味しい料理を食べたのは、本当に、本当に久しぶりです」


 陳銀霞は奕德の言葉を聞くと、たちまち嬉しそうな顔になった。


「本当? 気に入ってくれたならよかった! 本当によかったわ!」


 詩孝榮はその時、ゆっくりと奕德に尋ねた。


「それじゃあ、毎日こんな飯を食べたいと思わないか?」


 奕德は疑問そうに尋ねた。


「毎日?」


 妤玟は待ちきれない様子で奕德に言った。


「馬鹿ね。ここに住んでいいってことだよ」


 奕德はそれを聞くと、驚いたように言った。


「本当にいいの? 本当にここに住んでもいいの?」


 陳銀霞は笑顔で言った。


「もちろんいいわよ! あなたのことは、もう妤玟から聞いているから。あなたさえ嫌じゃなければ、ここにいたいだけいていいのよ」


 ここに住んでもいいという答えを聞いた瞬間、奕德はもう目尻に浮かんだ涙を抑えることができなかった。


 まるで決壊した川のように、涙が目から次々と溢れ出していく。


 奕德がここに住むことを了承したと聞くと、妤玟は嬉しそうに奕德を抱きしめて言った。


「やったー!!! 今日から毎日一緒に住めるんだね! これからはあなたは、この詩妤玟様が守る人なんだからね! この町で誰かがあなたをいじめるようなことがあったら、私は絶対に命懸けで仕返ししてあげるから!」


 奕德は涙を拭い、妤玟に向かって言った。


「これからは僕もずっと君のそばにいるよ。誰かが君を泣かせるようなことがあったら、僕も絶対に許さないから」


 二人が興奮しながら抱き合っていると、詩孝榮が二人の会話を遮った。


 そして妤玟に向かって言った。


「妤玟、奕德は今日、お前の部屋で寝ることになった。先に奕德が寝るための布団を準備してやってくれないか?」


「本当? じゃあ、今すぐ準備してくる!」


 妤玟はそう言うと、素早く布団を準備しに向かっていった。


 一方、奕德は詩孝榮に連れられ、自室の書斎へと向かった。


 書斎の扉を閉めると、詩孝榮は振り返った。


 そして、真剣な表情で奕德に尋ねた。


「お前は、本当に姓が『蕭』なのか?」

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