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第26話:任務か、仲間か 1

「さっき蔡思琴おばさんが言っていたこと、聞いてなかったのか? もし見つかったら、俺たちはそのまま風の国へ送り返されるんだぞ!」


 奕德は妤玟が弁当を自分の目の前に差し出してきたのを見ると、慌てて手を振りながら言った。


 しかし、妤玟は笑いながら奕德に言った。


 「だって、あなたは昨日の夜から何も食べてないんだよ! お姉ちゃんも、午後の訓練は今までよりもっと厳しくなるって言ってたでしょ? 何も食べなかったら、また倒れちゃうよ。だから今のうちにこっそり少し食べようよ。だって、お姉ちゃんに見つからなければ問題ないでしょ?」


 奕德は首を横に振った。


 「ダメだよ。俺たちの目的は紛争武士に復讐することなんだから。もし今回の機会を逃したら、一生あいつに復讐できなくなるかもしれない。そんなことに比べたら、何日か少し腹を空かせるくらい、全然平気だよ」


 それを聞いた妤玟は笑顔を引っ込め、真剣な表情で奕德に言った。


 「確かに、私も紛争武士をこの手で殺したい。でも、今の私たちの実力じゃ、あいつに傷一つつけることもできない。だから今の私たちに一番大切なのは、ちゃんとご飯を食べて、一生懸命訓練すること。いつか、私たちの力が十分に強くなって、自分たちの手であいつを殺せるようになるまでね」


 妤玟はため息をついてから、続けた。


 「だから、早く食べて! お姉ちゃんが戻ってきたら、もう間に合わないよ」


 奕德はそれでも心配そうに尋ねた。


 「でも、君だって昨日の夜からずっとお腹が空いたって言ってたじゃないか! もし君まで訓練中に倒れたらどうするんだ?」


 それを聞いた妤玟は笑い出し、困惑する奕德に言った。


 「それは、あなたがお腹を空かせて倒れちゃうんじゃないかって心配だったから、お姉ちゃんにそう言ってただけだよ。私、夕飯を一食抜いただけでまともに訓練できなくなるほど弱くないからね! だから早く食べて。じゃないと、お姉ちゃんが戻ってきたら、本当に何も食べられなくなるよ」


 奕德はようやくそれ以上断ることをやめ、警戒するように周囲を見回した。


 そして、妤玟から差し出された弁当を受け取り、急いで食べ始めた。


 妤玟は最初、奕德がようやく自分の弁当を食べてくれたことを喜んでいた。


 しかし、奕德が本当に一口も自分のために残すつもりがないことに気づくと、慌てて声を上げた。


 「ちょ、ちょっと待って! 私の分も少し残してよ! できれば私だって、お腹を空かせたまま訓練したくないんだから!」


 二人はそのまま楽しそうに弁当を分け合っていた。


 そのため、少し離れた場所にある大きな木の陰から、蔡思琴が静かに二人を見つめていることには、まったく気づいていなかった。


 二人が弁当を食べ終えたのを見届けると、蔡思琴は木の陰からゆっくりと姿を現した。


 そして、二人に向かって大声で叫んだ。


 「風神よ! 我に力を与えたまえ!」


 瞬間、周囲の空気が凄まじい速度で蔡思琴のもとへと集まっていく。


 二人がまだ状況を理解できていないうちに、蔡思琴は一瞬で二人の目の前へと移動し、左右の手で一人ずつ、二人を地面へと強く押さえつけた。


 そして、怒りに満ちた声で二人に怒鳴った。


 「どうやらあなたたちは、本気で復讐するつもりがないようね! それとも、私の言ったことをまったく聞いていなかったのかしら! 戦場では命令がすべてなのよ! あなたたちは私の命令に堂々と逆らった。どうやら、罰を受ける覚悟はできているようね!」


 妤玟は恐怖に震えながらも、自分の胸の中にあった言葉を口にした。


 「お……お姉ちゃん、ごめんなさい。でも、私はただ奕德が耐えられなくなるんじゃないかと思って、勝手にお弁当を分けただけなんです。もし本当に罰を与えるなら、私一人だけにしてください。奕德は悪くありません」


 蔡思琴はさらに声を張り上げ、二人に怒鳴った。


 「あなたのその性格は、戦場では自分自身を死なせるだけじゃない。下手をすれば、たくさんの人まで死なせることになる。もし今、もう一度だけチャンスを与えるとしたら、それでもあなたは私の命令に逆らって、奕德に弁当を分けるの?」


 妤玟は目を固く閉じ、大声で答えた。


 「分けます!!! 何度だって、私は迷わず奕德に分けます!」


 その言葉が響いた後、世界が一瞬にして静まり返った。


 聞こえるのは、恐怖によって荒くなった奕德と妤玟の呼吸だけだった。


 奕德が、自分も妤玟ももう終わりだと思った、その時。


 蔡思琴が突然、「ぷっ!」と吹き出した。

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