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第16話:虎口を逃れたと思ったら、また虎穴に入り込んでしまった 1

  どれほど長い間眠っていたのか分からない。奕德は陽の光の温もりを感じ、ゆっくりと目を開けた。


  「奕德? 奕德! お姉ちゃん、奕德が目を覚ましたよ!」


  「本当? もう一生眠り続けるつもりなのかと思っていたわ」


  自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、奕德は顔を横に向け、声のした方を見た。


  すると、妤玟が手に持ったタオルを振り回しながら、嬉しそうに飛び跳ねていた。


  一方、蔡思琴はお粥の入った椀を手に持ち、奕德の目の前に差し出しながら言った。


  「早く食べなさい! ほかのことは食べ終わってから話しましょう」


  蔡思琴に言われて初めて、奕德は自分のお腹がとっくに空腹を訴え、ぐうぐうと音を立てていたことに気づいた。


  すぐさま、ほのかな香りが漂うお粥を受け取り、スプーンを手に取ると、大きな口で勢いよく食べ始めた。


  ようやく満足してげっぷをした奕德は、隣に座っている妤玟に興味津々な様子で尋ねた。


  「李建復おじさんは? どうして全然姿が見えないの?」


  妤玟は不思議そうにしている奕德に答えた。


  「おじさんなら、三日前に前線へ出発したよ」


  「三日前に出発したの!? 僕はいったいどれくらい眠っていたんだ?」


  奕德は驚きながら妤玟に尋ねた。


  妤玟は指を立てて、慎重に日数を数え始めた。そして、あまり自信がなさそうに答えた。


  「私の記憶が正しければ、たぶん十日くらい眠っていたと思うよ?」


  「十日間!!!! どうしてそんなに長い間、眠っていたんだ!?」


  奕德は驚愕の声を上げた。


  すると、蔡思琴がゆっくりと部屋に入ってきて、どこか意味深な口調で奕德に尋ねた。


  「初めて加護を使ったからかもしれないわね。それで、そろそろ私に説明してくれないかしら? どうしてあなたは、まだ十歳なのに加護を使えるの?」


  奕德は不思議そうに尋ねた。


  「加護? それっていったい何なの? もしかして、李建復おじさんが馬に乗っているときに叫んでいた、あれのこと?」


  蔡思琴は少し驚いた様子で尋ねた。


  「あなた、加護が何なのかも知らないの? 簡単に説明すると、加護というのは神々が自ら授けてくださる能力のことよ。自分に加護を授けてくださった神の名を唱えれば、その神の力を使えるようになるの。ただし、普通は十五歳になってから、自分だけの加護を授かるものなのよ」


  奕德は納得がいかない様子で尋ねた。


  「でも、僕はまだ十歳だよ! それなのに、どうして加護を授かることができたんだろう? もしかして、あの『闇の乙女』が関係しているのかな?」


  「闇の乙女? それはいったい何のこと? 最初から詳しく説明してくれるかしら?」


  蔡思琴は奕德にそう尋ねた。


  奕德は素直に頷くと、妤玟の家で聞こえてきた奇妙な物音のことから話し始め、無事に妤玟の家の隠し部屋へ逃げ込むまでの出来事を、一つ残らず説明した。


  奕德の話を聞いた蔡思琴は、あまりの衝撃に口を大きく開けたまま、しばらく言葉を失っていた。


  やがて、ようやく口を開くと、奕德に向かって言った。


  「あなた、自分がどれほどすごいことを成し遂げたのか、分かっているの?」


  奕德が首を横に振るのを見て、蔡思琴は説明を続けた。


  「まず、精霊の言葉を聞き取れるというだけでも、嫉妬されるほど貴重な能力なのよ。なぜなら、それはあなたが神々から『特別に注目されている』存在だという証拠だからよ」


  「特別に注目されている? それって何か役に立つの?」


  妤玟は手を挙げて、蔡思琴に尋ねた。


  蔡思琴は首を横に振って答えた。


  「私にもよく分からないわ。ただ、とてもすごい能力だと聞いたことがあるだけよ」


  そして、さらに話を続けた。


  「それから、あなたは神々から直接、神器まで授かっているのよ。神器というのは、神々に認められた者だけが授かることのできる特別なものなの!」


  奕德も手を挙げて尋ねた。


  「でも、僕はまだ十歳だよ? 神々に認められるような、すごい功績なんて何も残していないのに、どうして?」


  蔡思琴は不思議そうにしている奕德に答えた。


  「私の推測では、あなたが闇の神の加護を授かったことが関係しているのだと思うわ。私の知る限り、闇の神の加護を授かった人間は、あなたで二人目なのよ」


  「二人目!? じゃあ、一人目は誰なの?」


  奕德は興味津々な様子で尋ねた。


  蔡思琴が答えるよりも先に、妤玟が口を挟んだ。


  「それはもちろん、希望の勇者の仲間の一人に決まっているでしょ!」


  蔡思琴は苛立たしげに手を振り、二人に向かって言った。


  「もう、話を脱線させないでちょうだい! 今、一番重要なのは、まだ十歳なのに神器を持ち、加護まで使えるあなたを、これからどう扱うべきかという問題なのよ」


  それを聞いた奕德は恐ろしくなり、慌てて布団を引っ張り上げると、震える声で蔡思琴に尋ねた。


  「お……おばさん、まさか僕を捕まえて売り飛ばすつもりじゃないよね?」


  「おばさん」という言葉を聞いた瞬間、蔡思琴は怒りをあらわにし、冷たい表情で奕德を睨みつけた。


  「もう一度おばさんと呼んでみなさい。二度と明日の太陽を拝めないようにしてあげるわ!」


  蔡思琴は軽く深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、小さく咳払いをしてから奕德に言った。


  「今のところ、あなたを売り飛ばすつもりはないわ。でも、あなたの能力が光の国に知られてしまったら、地の果てまで追いかけられて、命を狙われることになるかもしれない。それが心配なのよ」


  奕德は蔡思琴に尋ねた。


  「じゃあ、蔡思琴おば……お姉さん、僕はどうすればいいの? もう二度と能力を使わないほうがいいのかな?」


  奕德が自分を「お姉さん」と呼んだことに満足した蔡思琴は、うんうんと頷きながら答えた。


  「人前で加護を使わないようにすれば、厄介事の大半は避けられるはずよ。でも、一番大切なのは、もっと強くなること。光の国の人間でさえ、あなたに手出しできないほど強くなるのよ。分かった?」


  奕德が素直に頷くのを確認すると、蔡思琴はポケットから小さな財布を取り出し、奕德に手渡した。


  そして、二人に向かって言った。


  「今日は喜ばしい日だから、あなたたち二人には思いっきり休暇を楽しんでもらいましょう。ちょうど今日は市場もかなり賑わっているみたいだし、一緒に出かけてきなさい。ただし、必ず日が暮れる前に帰ってくるのよ」


  この嬉しい知らせを聞いた妤玟は、奕德の手を引っ張ると、興奮した様子で市場へと駆け出していった。


  二人が遠ざかっていく背中を、蔡思琴が厳しい表情で見つめていたことには、まったく気づいていなかった。

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