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〈連載中〉スノウスフィアは夢を見ない ~夢渡り人の千夜一夜~  作者: 米野雪子


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第八夜 ~天使の抱擁~






「まあ、これは…」



商会に売れる家財品を整理していたら、

幼い頃のスノウスフィアから貰った似顔絵が出てきて、

それを手に伯爵夫人は、懐かしさに目を見開いた。

その似顔絵は、優しげに微笑んでいた。


よく…描けているわ。


あの子は、何でも平均以上に出来る子だった。

そういえば貴族学院でも、成績が良かったわね。


どうして、こんな奥深くに保存して…

ああ、これも褒められたスノウスフィアをアマンが嫌がったからって、

誰の目にも触れない、引き出しに仕舞ったのだったわ。


スノウスフィアが3歳の時に、アマンが生まれて7年間は平和だった。

アマンが7歳になって魅了が発動して…いいえ、排斥が発動していたのだ。

その辺りから、頭がぼんやりして…まるで遠くから自分を眺めているようで、

意識がアマンに傾倒していったのだ。


スノウスフィア…

あの子のあの寂しそうな、縋るような困惑した潤んだ瞳。

訳が分からなかったでしょうね…

何もしていないのに、一方的に嫌われて…無視されて。


それでも、あの子は何とかしようと、家族の役に立つ良い子でいた。

あんなに小さな子が、必死で考えて一人で戦っていた。


でも10年間…何も変わらなかった。


あの美しいゴールデンパープルの瞳が曇っていき、

光が無くなっていく様をよく覚えている…



ポタリと似顔絵に滴が落ちる。



謝ってももう遅いし、取り消せないけど…


ごめんね、スノウスフィア。

意志の弱い母親で…本当にごめんね…

10年間も、一人ぼっちにしてごめんね。


涙を拭いて、紙の丸みを取るために似顔絵の上に本を置き、

それを入れる額縁を探す。

これなんかいいかしら、絵の雰囲気に似合いそう。

淡いパールピンクの優しげな色の額縁を取り出し机に静かに置いた。



すると、こんな夜更けに玄関方面から足音が聞こえてくる。

気になった夫人は、ドアを薄く開けて覗き見ると、

アマンがコソコソと廊下を歩いている姿があり、不審に思いドアを開ける。



「アマン?もしかして、何処かへ行っていたの?

 外出は禁止していたでしょう?」


「お、お母様っ…え、あの…少しだけです」


「何処へ行っていたのですか?」


「…馬車を使えなくされているから、

 乗合馬車を使って街に行っただけですわ」


「随分薄汚れているけど…街の何処に?

 それに手に何を持っているの?」


「も、もう!関係ないでしょ!私物も買っちゃいけないの?」



くるりと踵を返し、

バタバタと私室の方へ走っていくアマンを呆れ顔で見送る夫人。

あの子は、どうしてあんな風になってしまったのかしら。


ああ…親として、本当に不甲斐ない。




* * * * * * *




「ねえ、ねえ、私も昨日見たわ!」


「本当?いいなぁ~、やっぱり素敵だった?」


「ええ!ずっと夢から覚めたく無かったもの!」


「あの…実は私、天使様に教えて貰ったの…」


「何を?」


「ずっと、一緒にいられる方法」


「ええっ⁉︎ 本当?教えて!」


「私も、私も!」


「うん、あのね…」



今貴族学院の一部の恋に恋する夢見る年齢の令嬢達に、

ある “まじない” が流行っていた。

指定の図形を描いた紙を枕の下に入れて眠ると、

夢の中で美しい天使様が、情熱的に抱きしめて、愛を囁いてくれるという。

それは、それは幸せな気分になるそうで、瞬く間に流行っていった。


そして、事件が起きてしまったのだ。




* * * * * * *




「庭師さん、このブナの苗…育つの早くないですか?」


「ええ、実は国王陛下が早く見たいと御所望で、

 土魔法で少し成長促進しております」


「へ?…あのヤロー、情緒のないことしやがって…」


「ははははっ、スノウスフィア様と早く一緒に見たいそうですよ」


「……あー、そういう事ですか。全く…」



王宮の庭師さんとこの前植えた、ブナの苗木の様子を見ながら話していると、

ライル文官が足早にこちらに近づいてくる。



「エリッヒ女官殿、ご機嫌よう」


「……?」



ああ、私の事か。

慣れないなー新しい家名。



「ライル文官、ご機嫌よう。どうかしましたか?」


「はい。ご歓談中、失礼いたします。

 火急の用事なのです。一緒に来ていただけませんか?」


「え、は、はいっ」



冷静沈着な彼が慌てているのは珍しい。

庭師さんと別れの挨拶をして、彼と共に歩きながら話を聞いていたが、

それがとんでも無い内容だった。

因みにイグネシアスは会議で席が外せない為、彼が代わりに対応している。



「令嬢の自殺が、立て続けに5件も?」


「はい、今回のこれは貴族学院の教諭からの依頼です。

 今の所、未遂で済んでいますが。そして急ぎ調査した所…

 共通しているのが “まじない” で見る事が出来る “夢” なのです。

 ですから、貴方様のご意見を伺いたいと思いまして」


「その夢を見て、自殺を?」


「ええ、ある “まじない” が一部のご令嬢の間で流行っていまして、

 “天使の抱擁” という夢なのですが、ある図形を紙に書いて枕の下に入れて

 眠ると大層美しい天使が夢に現れて、抱きしめて愛を囁いてくれるそうです」


「…それで、何故自殺をすることになるんですか?」


「その天使が言ったそうです。ずっと一緒にいられる方法だと」


「はあ?何ですかそれ!天使どころか悪魔じゃないですかっ、

 それに、天使が自殺を進めるって、どう考えてもおかしいのに…」


「ええ。恋も人生経験も浅い、幼い夢見る年頃のご令嬢達は信じ込んでしまい、

 そこまで考えが及ばないのでしょう。

 更にのぼせあがっていますし、頭お花畑状態ですからね」


「確かに、そうですね…枕の下に入れる図形っていうのは?」


「それを別室でお見せします」



ただの “まじない” じゃない。

そして、別室で見せられた、紙に描かれた図形を見て驚愕する。



「これ…短略化された術式の魔法陣に似てます」


「魔法陣?」


「はい、禁忌とされている、黄泉の国へ足を踏み入れる…地獄の門の術式です。

 私は職業柄、禁忌事項を叩き込まれてますから、そういう知識があります」


「何て事だ…よりによってそんな物を…」


「うーん…ですが、少し変えてあるので、効果はないと思うんですが…

 でも、これは明らかに悪意があります。

 早急に、その “まじない” を広げた人物を突きとめた方がいいです」


「そうですね。また詳細が分かりましたら、ご相談させていただいても?」


「勿論です」



何が起こっているのかしら…これ。

あの禁書庫に厳重に仕舞われている、禁忌の術式魔法陣を知ってるなんて。

一体誰が、何の目的で…




* * * * * * *




「スノウ、犯人が分かった」


「あれ?ライル文官と交代したの?」


「んあ、俺がこの先説明する」


「夢渡りしなくて大丈夫だった?準備してたのに」


「準備?」


「うん、リタにこの図形の紙を枕の下に入れて眠って貰って、

 私がその夢に渡ろうと思ってたんだけど…」


「はははっ、大丈夫だ。それよりお前に相談がある」


「うん、何?」


「広めた人物を辿って行ったら、あっさり分かった。

 犯人は同じクラスのご令嬢だったんだが…

 その…少し特殊な魔力を持っている令嬢らしくてだな…」


「特殊って?」




 “忘我”




「“忘我”?聞いたことない魔力だね。自分を忘れて夢中になる感じ?

 陶酔して心を奪われる状態とか…」


「ああ、今まではそれを自分自身に活用して集中力を高め、

 勉強や彫刻作業をしていたそうだ」


「そして、今回は他人に向けたのね?」


「その通り」


「どうして?」


「いじめだ」


「あー…そういう事か…過剰防衛というか、仕返しが、

 こんな大事になったって感じ?」


「ああ、本人もまさか自殺まで行くとは思わなかったらしい。

 暴力に暴力で仕返しするのは、その人物と同じになるから嫌だったそうだ。

 そこで考えたのが、この方法。

 図形に “天使の抱擁” の “夢” と “忘我” を付与して、

 夢に夢中にさせ骨抜きにして、自分から気を逸らせるつもりだったらしい。

 それらしい魔法陣を作成したが、地獄の門を開くつもりは無く、

 短略化してアレンジしているから、効果はないはずだと困惑していた」


「なるほどね。この子は良い子みたいね。いじめの原因は?」


「恐らく、妬みだろう。

 この “忘我” の令嬢は、サライヤ・ケイ・ダヴリンガー男爵令嬢。

 美術部に所属。芸術方面に優れていて、特に彫刻の才能が素晴らしいのだ。 

 著名な芸術家が授業の一環で講演にきた時、彼女の作品を大層誉めた。

 下手に目立ってしまったせいか、要らぬ妬みを買い、

 その日以来、低位貴族のクセにとか、嫌がらせをされ始めたそうだ。 

 そして、コンクールに出す予定だった天使の彫刻を完成直前に、

 5人の令嬢共に倒され壊された。令嬢達は停学処分を食らったが、

 当然彫刻はコンクールには間に合わなかった。

 しかも処分明けの令嬢達に、その件で逆恨みされ、教師の目の届かない所で、

 陰湿ないじめが続いていたんだと」


「はあ~…胸糞悪い。この子全然悪くないじゃん。

 何なのこういうわざわざちょっかい出してくる輩って…

 いつまでも無くならないね、こういうの…」


「ああ、だから処分に困っている。

 いじめの主犯5人は自殺未遂で痛い目にはあっているが、

 それとこれとは話は別だ。こいつらが犯した罪は、器物破損罪だし、

 故意でやっていて悪質だから、また処罰は必要だな。

 そして、ダヴリンガー男爵令嬢は被害者だが、やり返して大事になってる。

 こちらは、どうしたものか…」


「ねえ、あの術式は、彼女は何処で知ったの?」


「父親が元王宮の魔術師団の関係者だったのだ。

 親の書斎から見つけたんだと」


「なるほどねぇ。今後引退後の禁忌書籍の保存規約見直した方がいいね」


「昔は結構ガバガバだったしな。見直しさせるわ、文官共に」


「あーあ、また文官が酷使される…」


「いいんだよ。あいつらは、それなりに高給取りだし文句あるまい」


「やった事はあれだけど、この若さでこのやり方は大したもんね。

 仕返しじゃなくて “おまじない”で興味を持たせる方に誘導するの賢いわ」


「だが、今回のこれは結果的に、自殺教唆罪に問われることになる」


「でも、彼女はそんな風に導いてないんでしょ?」


「ああ、だからスノウお前、彼女に会って話を聞いてくれないか?」


「現実で?」


「そうだ。お前の方がこういうのは得意だろ?」


「うーん、まあいいか。その子にもちょっと興味があるし」




* * * * * * *




「って、何であんたまで一緒に来るのよ」


「俺が居た方が、早く判断下せるだろ」


「…そうだけどさ。変装までしてご苦労なこった。仕事は大丈夫なの?」


「おう、徹夜かな」


「…ちょっとぉ、働きすぎでしょ」


「だから、お前に頼んだんだ。頼むぞ?」


「へい、へい」



ゴトゴトと揺れる馬車の中で、隣にドスンと座るイグネシアス。

髪を茶髪に瞳の色も茶色に変えて、私の侍従のつもりらしい。

態度がデカイし、王族オーラが全然隠し切れてないが。


そして、学院に到着して職員室の奥の応接室に通される。


ソファにションボリしたご令嬢が一人、

その隣に女性教諭らしき人が付き添っている。


ああ、彼女か…


少しウェーブした茶色の長い髪に、瞳が新緑の緑で美しく、

外見は大人しそうな印象の女の子だ。


入室すると、ハッと顔を上げて立ち上がり綺麗に礼をする。

身のこなしも洗練されていて美しい。

とても他者を自殺へ追い込むような事をする子には見えない。



「初めまして、王宮に務めております。

 女官のエルッヒと申します。お時間いただきありがとうございます。

 こちらは私の侍従です」



ペコリとイグネシアスも軽く頭を下げる。



「は、初めまして。サライヤ・ケイ・ダヴリンガーです」


「ああ、緊張しないで。そのまま座っていて頂戴」



私はよそ行きの貴族らしい微笑みを浮かべ、自分もソファに座る。

イグネシアスは、ソファの背もたれの向こう側の私の後ろにスッと立った。

どうやら、侍従に徹する気らしい。



「さて、大体のお話は聞かせて貰ったのですが、今回は災難でしたね」


「え…、あ、はい…」


「壊されてしまった、彫刻はもう修復不可能なのかしら?」


「はい…胴体が…真っ二つに割れてしまって…」


「そう。お気の毒に。その彫刻はどうしたの?」


「まだ…取ってあります…壊すのが忍びなくて…」


「良かったら、見せてもらえます?」


「え、はい。でも壊れていて…」


「ええ、分かっているわ」



彼女の美術部のアトリエへ案内され、その彫刻を見た。


サンルーム付きの明るいアトリエだった。

それぞれ素晴らしい絵画や、芸術品が並んでいたが、

一際目立っているのは、その彫刻だった。


まるで生きているような躍動感。

そして、その大きさの迫力に驚いた。


私たちの2倍はあろうかという、大きな翼を内側に丸めて、

腕は何かを抱き抱えているようなポーズ。


これは…凄いわ…


体の曲線も素晴らしく髪の毛の一本まで繊細に表現されている。

凄い熱量…こんなの…どうやったら作れるのだろう。


…しかし、腰の上から斜めに切断されている胴体が痛々しい。

翼も片方取れて、片腕も上腕から折れている。

良くこんな素晴らしく、美しい作品を壊そうと思ったものだ。



「ほう…」



後ろでイグネシアスが感嘆の声を上げる。

さてはこいつ気に入ったな。



「素晴らしいわね。あなたは才能があるわ。

 この天使様は、何を抱きかかえているのかしら?」


「あの…この作品のタイトルは “天使の抱擁” です。

 天使の正面下に、5段ほどの階段を置いて、そこに人が立つと、

 天使に抱きしめられているような形に作っています。

 神様って触れられない存在だから、触れられる神様を作りたかったんです」


「発想が凄いわ…壊れてしまって…いえ、壊されてしまって残念ね」


「はい…この天使は、私の魂を吹き込んだと言っても、

 過言ではない作品だったんです。

 私にとって、本当に生きているような…魂の分身だった。

 もう二度と作れない程のっ…それを殺されたの…だから、だからっ!

 許せなかったんです。でも、でも…まさかこんな事になるなんて…」


「当然だわ。しかし、自殺に誘導はしていないのでしょう?」


「は、はいっ。もしかして地獄の門の術式が、

 何らかの力で働いてしまったのかも…」


「そんなはずはないわ。術式魔法陣は正確性がないと発動しない。

 ここに来たのはね、それを解明する為なの」


「…私を罪人として、捕らえに来たのでは無いのですか?」


「いいえ、まだ真相も分からないのに、そんな事しないわ。

 あなたは被害者で、いじめをした令嬢達に怒りもあるだろうけど、

 それより、作品を壊された悲しみの方が大きかったのでしょう?」


「……はい…」


「……これ、魔法で修復すると、コンクールの審査は通らないけど、

 それでも良ければ修復しましょうか?」


「えっ⁉︎」


「王宮に飾るといいわ。国王陛下が気に入ると思うの」



後ろでウンウンと頷いているイグネシアス。



「えっ、え…修復出来るのですか?」


「ええ、私は修復の魔力を持っているの。物体であれば、どんな物でも可能よ」


「ほ、本当に?お願いします!アダムは、私の、私の分身なんです!」


「ふふっ、この天使様はアダムと言うのね。

 では、始めます。欠片は全部ここにあるかしら?」


「はいっ!」



そう、私は修復魔法を持っている。物体だったら何でも修復できるのだ。

ただし生命のある生き物や、植物は修復できない。

だから、アマンは私の物を壊すという、無駄な嫌がらせはしてこなかった。

そして、あの子は私の心を壊しにきたのだ。


心も修復できれば…良かったのに。


詠唱して、フワッと欠片が浮き上がり、羽も腕も動体もピタリと元に戻った。

本来の形に戻った天使の彫刻は、更に魂が宿ったようで大迫力だった。



「あっ、ああああっ…ありがとうございます!」



彼女は涙を浮かべて打ち震え、

まるで恋人のように、天使の彫刻に抱きついた。


なんて勿体ないのかしら。

コンクールに出せていたら、優勝は間違いなかったでしょうに。



頑張っている人の足を引っ張る奴は大嫌いだわ。

その輩の根本にあるのは、劣等感そして嫉妬なのだ。

自分が出来ない事を実現している者への羨望と悔しさの妬み。


大人しく一人でいる子が、いじめを受けやすいのもそう。

自分は仲間を作る為に、必死に周りに媚びて沢山我慢して頑張っているのに、

一人でいる子は、そんな事しなくても平気そうで伸び伸びしている。

自分が苦労しているのに、それをしない者が幸せそうに充実しているのが、

ずるく見えて許せなくて、見下さないと気が済まないのだ。


しかも多勢に無勢で、圧倒的に不利な子が傷ついて泣いているのを見て、

自分はこれより上だと、マシだと実感して気分が高揚し自尊心が満たされる。

その醜く貧しい心を優越感に変えて悦に浸っている、低俗な生き物。


下らない…逆恨みもいいとこだ。

放っておけばいいのに…どうして、人間ってこんな思考になるのかしら。



元に戻った彫刻を見ながら、そんな事を考えていると、

天使の羽がピクリと動いた気がした。


…ん?気のせい?


しかし、気のせいではなかった。

両翼はバサリと彼女を包み込んで、さらに姿勢を低くして抱き込んだ。



「えっ」


「は?」



皆、呆然である。

そして、天使は彼女を守るように抱きしめながら、

上目遣いで鋭くこちらを睨み付ける。



「…貴様ら…サライヤの…敵か?」



喋った…んだけど…



「ア、アダム?」



抱きこまれたサライヤ令嬢も慌てている。

うわぁー、何これー。



「おい、スノウ、お前何かしたのか?」


「してない、してないっ、修復しただけだよっ」


「サライヤを害す気なら…許さん」


「えっ、アダム、あなたっ…」


「サライヤ、泣いている。こいつらのせいか?」


「違う違う!この方達はあなたを修復してくれたの。

 私も何もされていないわっ!」


「あの5人の女とは違うのか?」


「ええ、そうよ。え…今なんて…」


「あいつらみたいに、君を害する奴らは排除してやる」


「…え?」


「今、なんて言ったコイツ」


「アダム…まさか、あなたなの?あなたが…5人に自殺するように…」


「ああ、君を傷つけたんだ。当然の報いだ」


「おっとぉ、また話がややこしくなるぞ」


「…えーと…もしかして、この天使は自我を持っちゃったのかしら?」


「みてーだな…彼女は、魔力と魂の一部を注ぐように、

 深い愛情を持って、これを作り出した。

 そして、芸術家特有の集中力で、極限の深層意識に達したんだ。

 恐らくそれが契約魔術を結ぶ役割を果たして…

 自我を持った眷族が産まれたって訳か?いや、何だろうな、コイツは…

 使い魔か?まあ、サライヤ令嬢の隷属には違いないな…」


「あらー、どうしよう…収集つかなくなって来た」


「お前が余計なことすっから…」


「でも、5人のご令嬢の自殺の原因が分かったじゃん」


「まあ、確かに…どうするかな」



2メートルの高さの天使は目立ちすぎる為、小さくなれるかとお願いすると、

彼はみるみる小さくなり、まんまるの白い小さなフクロウになった。

今はパタパタ羽を震わせながら、サライヤ令嬢の肩の上にとまっている。



「うむ、そのサイズなら問題ないか」


「可愛い〜」


「おい」


「ああ、ごめんつい」


「…アダム、この姿でも大丈夫?」


「問題ない。こっちのがサライヤと近くていい」


「もう、私の為に誰かを害したりしないでね」


「どうして?あいつらは君を泣かせて私を壊した。酷い奴らだ」


「うん、確かにあの人達は嫌いよ。でも、殺してはダメ」


「…どうして?サライヤ私に怒っている?」


「ううん。怒ってないよ。私を思ってやってくれたんだよね、ありがとう。

 でもね、殺したいほど憎んでは居なかった。関わりたくはなかったけど」


「サライヤは避けていたのに、しつこく絡んできたのは、アイツらだ。

 だから、排除しようと思った」


「うん…だから、あのね…どう説明したらいいのかな…」



丸々した白いフクロウは、羽をパタパタして可愛い見かけと違い、

言うことが非常に物騒だった。


天使アダムは、自我を持ち始めた幼い子供のような短略的で稚拙な思考で、

放し飼いにするのは、非常に危険だった。

現に主人の為とはいえ、5人の令嬢を自殺に追い込んだのだ。

これは、人間社会の常識を学ばさせないといけない。



「なあ、お二人さん、ちょっといいか?」


「は、はいっ」



イグネシアスは、手を上げて納得していないアダムと、

必死に言い聞かせているサライヤ令嬢にある提案をした。


サライヤ令嬢は、特別援助制度で魔法学校に編入させることになった。

彼女の特殊な魔力、そして眷属の天使アダムの教育が必要だからだ。

今現在は、サライヤと同じ “忘我” の魔力を持っているが、

他にも保持している可能性があり、それも調べる為だ。


魔法学校なら、新しい試みだと喜んで対応してくれるだろうし、

美術部も、貴族学院より大規模で自由度が高いから、

きっと彼女は、こちらの方が伸び伸びできるだろう。


何より、あの天賦の才能をいい方向にまだまだ開花して欲しいし、

魔力もアダム含めて将来使いようによっては、非常に役立つ素晴らしいものだ。


彼女も嬉しそうだったし、

あの5人の令嬢から離れられるしで、アダムも納得した。


そして、帰りの馬車の中で息を吐き、もう一つの問題を口にした。



「まあ、サライヤ令嬢の方は、綺麗に解決したけどさ…

 こういうのは、いじめる側に問題があるのが多いんだよ。

 いじめ主犯5名の令嬢の家庭環境を調べた方がいいわ。

 多分、何か問題を抱えている。

 その後で、家族ごとカウンセリング指導と支援の必要があるかもね」


「そうだな…俺らの時もあったしな…学校側に通達をしておく」


「あんたさぁ、サライヤ令嬢を将来、王宮の魔術師団に就かせる気でしょ?」


「ははっ、バレたかぁ〜逸材だからなぁ……ぁっふぁ……ふあぁぁ〜〜…」


「…眠いの?」


「うーん、王宮に着くまで…少し、寝る」



コトン…



私の肩に頭を乗せて寝やがった。

ま、いいか。疲れてるんだろうし…こいつの援助のおかげで、

あの令嬢は、自分に向いている道へ行けたし。



「……んあ…ヘッタ、クソだなぁ…」



ん?何?寝てるよね。寝言?



「ステップ…ズレて…る…スノーウ…ふははっ…………んがっ」



こいつ夢の中でも私を馬鹿にしてんのかよ。

イラッとして、私はイグネシアスの前頭部をペシリと軽くはたく。


すると、奴はガバリと私を両手で抱き込んでギュウと組みつく。

うぎゃあっ、動けないし、寝相悪すぎだろ、寝相!


そして、帰りの馬車の中で、天使の抱擁ではなく、

イグネシアスの抱擁で、半目になりながら私は王宮へ帰った。







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