家族との決別
「本当にごめんなさいっ、お姉様っ」
これって、小説の中だけの想像上の虚構の物語だと思っていたわ。
本当は、実話に基づいていたのかしら…
妹が私の婚約者と不貞を働き、挙句に只今めでたく妊娠中。
信じられないことに、一番の被害者の私を気遣う所か、
両親は泣いて謝る妹に同情して、私に2人を許して歓迎してあげろと、
4対1で謝罪という名の譲歩を強要をしているのだ。
悲しいとか、悔しいとかより、怒りが湧いてくる。
衝撃だわ。
こんなに馬鹿な人達だったなんて。
妹は、魅了の魔力を持っている。
微量な魔力量にも関わらず、少しでも対象が好感を持とうものなら、
その気持ちが増幅して、こんな風に籠絡し隷属されるのだ。
他人を思い通りに操るまではいかない魔力量だったせいで、
王宮の魔力鑑定で、運良く魔力封じを免れていたが、
家族内で何故か私にだけ、実害が出ているのである。
その原因は、妹の私に対する嫉妬心や対抗心の影響だと思われる。
妹のアマンは魅了持ちだが “夢渡り人” としての能力が全くない。
能力持ちは一族の中でも稀なので、珍しい事ではない。
しかし、この能力は一族繁栄に非常に役に立ち、
崇め奉られるほどの有難い存在で、どこの家もその能力者を大事にしていた。
ちなみに、能力持ちは名前に “スフィア” を必ず入れて名付けるのだ。
そして、それを持って生まれた私に対して強い劣等感を抱いているらしい。
自分は役立たずで生きるのが辛い、運の良いお姉様が羨ましい、
私なんかが生まれてきて本当にごめんなさい、きっとお姉様も私を
足手まといだと思っているんだわ、などと嘯いて自分を卑下し続け、
アマンは弱者を演じて、周りの同情を誘い私を悪者に仕立てていった。
そして、両親もそんなアマンに同情して可愛い哀れな娘の
微量な魅了に影響を受けてしまったのだ。
勿論、全ての人に通用する訳ではない。
嫌っている相手には全く効かないし、現に私には全く効いていない。
つまり、この3人は悲しいことに、
私より妹が好きなのだ。
子供の頃から、この魅了の魔力で好き勝手やってきた妹にうんざりし、
庇う両親にもうんざりしていたのに、
今度は婚約者まで…しかも妊娠って…
両親には、育てて貰った恩はあるけれど…
魅了のせいとはいえ、明らかに妹と私は両親から受ける愛情の格差があった。
それに気がついた時、どんなに私が傷ついたか…
両親に好かれようと、どんなに努力したか…
でも、そんなの魅了の前では、全く効果なかったみたいね。
ああ、今度こそ愛想が尽きた。
私は伯爵家の長女で後継者として、長い間領地経営と管理を学び、
私が領主となり、他家から婿を迎える予定だった。
それが、子爵家三男の令息、婚約者のヘリオだ。
貴族学院でもクラスは違ったが、同期で顔は知っていた。
可もなく不可もない、優しそうで穏やかな人畜無害な雰囲気の令息だった。
でも所詮、こいつも本質は盛りの付いたオス犬だったのね。
家同士の婚約だったし、愛し合っていた訳ではなかったが、
彼とはこの2年間、良好な関係を築けていたと思っていた。
でも、そう思っていたのは私だけだった。
今私の目の前に立っている4人は、全員私の味方ではない。
私は、一人ぼっちだった。
絶望で、泣きたくても泣けない。
逆に笑い出しそうになっている私の感情と心は、もう限界だった。
「なぜ、私が許す前提で話が進んでいるのですか?」
「優しいお姉様なら、分かってくれるでしょう?
いけないと分かっていても、この思いは止められなかったの。
私だって苦しかった…とっても悩んだんです。
それに、私たち仲の良い姉妹だったではないですかっ、だからっ…」
「仲が良かった?どこが?」
「いつも私の言う事を聞いてくれて、理解してくれましたわ」
「思い通りにならないとピーピー泣いて被害者面して煩いし、
我が儘で面倒だから黙って従って、放っておいただけよ」
「ひ、酷い!そんな風に思っていらっしゃったなんてっ!」
「あのさ、悲劇のヒロイン気取りやめてくれる?
本当に悪いと思っていたら、普通思いとどまるでしょ?
どうせ、いつものように両親も私も許してくれるって思ってた癖に。
それに…ねえ、どうして不貞をした二人が被害者面しているの?
私は妹と婚約者二人に裏切られたの。
そしてなぜか、お父様とお母様も妹の肩を持っている。
私が今、どんな気持ちなのか分かります?」
「お前は強いではないかっ、だが、アマンはっ…」
「強いから、傷つかないんですか?
それにこれは、淑女教育で身についた仮面で表に表情が出にくいだけで、
ちゃんと私は、深く深く傷ついてますわ。
残念ながら、それを通り越して、あなた方を心から軽蔑しているし、
呆れているし、相当腹に据えかねて怒りを通り越して、笑い出しそうです。
それに、許すも許さないも私が決める事。下手に出るフリをして、
数で威圧し弱者に許しを強要しないでくださる?」
「まさか、許してくださらないの?私のお腹には子供がいるのにっ」
「だから何よ?
勝手に、性欲に身を任せて婚前交渉して、
子供が出来た事を美談に仕立てないでよ、汚らわしい。
しかも、一度の体の関係で妊娠なんて奇跡に近い。
何度あなた達二人は、私に隠れてヤリまくっていたのかしら?」
「な、なんて下品な事をいうの!そんな風に育てた覚えはありません」
「事実ではないですか、お母様。
それとも、妹の不貞は下品ではないのですか?婚前交渉ですよ?」
「大事な後継ができたのです!それとこれとは話が違います」
「へぇぇ~、後継の子供を妊娠したら不貞でも許されるんだ。
初めて知りました。勉強になりますわ、お母様」
「酷いっ、酷いわっ!本当は私の事、嫌っていらっしゃったのですね?
私はお姉様を尊敬してたし大好きだったのに!悲しいですわっ、ううっ…」
「あーはいはい。もう、いい加減にして。
私を傷つけて、人生を壊して、醜聞持ちにした本人が何ほざいてんだよ。
泣きたいのは、こっちだっての。
しかも、私はここに残って領地経営の仕事しろってどういう事?
私、この家の奴隷か何かなんですか?」
「お前の方が、今まで学んできた期間が長いだろう。
だが、アマンは妊娠中だし…学ぶにしても出産後になる。
それまでの繋ぎを務めて欲しいのだ。家族だから助け合うのは当然だろう。
その後に、お前にも縁談を用意するから、それまで協力して欲しいと、
言っているだけだ」
「家族だから助け合う?あ、じゃあ、私家族じゃないんですね。
要求ばかりで、傷ついている可哀想な私を誰も助けてくれないんですもの。
私を飼殺しにする気満々なのバレバレだしー。
それに、その子が本当に学ぶと思っているんですか?
貴族学院の成績が下の下だった子が?賭けてもいい、絶対やらない。
私はもう後継者じゃないし、家族でもないらしいから尚更関係ないし。
その子が無理なら、孕ませた婚約者のヘリオに学んでいただいたら
よろしいのでは?」
「わ、私はもう当主を引退する予定で、静養先の別荘を購入したばかりだし…
今から教えたら何年かかるかっ…」
「言い訳ばっかり。だったら今すぐやれよ、クソ親父!」
「お、お前!なんて口の利き方をっ!
まさか、この提案を聞き入れないつもりなのか?スノウスフィア!」
「えーとぉ、要約するとぉ〜、自分達は楽して幸せになる権利があって、
私には無い。そう言っているんですよねぇ?
そんなの受け入れる訳ねーだろ。
ねえ、お父様、お母様、私って何なのです?
自分たちの可愛い娘は、そこにいる自己中な上に不貞を働いた
下品で淫乱な妹だけで、私は使い勝手のいい、ただの道具だったのですか?
ったく…あんたらの都合ばっか押し付けてんじゃねぇよ!」
「げ、下品な言葉をやめなさいっ!…それに、被害妄想が過ぎるのではないか?
裏切られて辛いのは分かる。混乱して感情が昂っているのだろう?
大丈夫だ。今は分からなくても、時間が経てばきっとお前も…」
「あ────っ‼︎ やってらんねーわっ。
こっちはずっと、家族だからって耐えてきたんだよ!
私は、もうここから出ていくしっ‼︎
金づるの、“夢渡り人” は居なくなるけど、何とか出来るよね?
そっちは4人もいるんだから。まあ、せいぜい頑張ってください」
「ま、待てっ‼︎ まさか本気で出て行く気なのか⁉︎
お、お前に出て行かれてはっ…」
「はい。勿論です。私は伯爵家と縁を切って出ていきまーす。
今後二度と私の人生に関わってこないでください。
私はどうやら強いようですから、一人でもやって行けます。
では、ご機嫌よう皆様。
そして───永遠に、さようならっ‼︎」
「待てっ、待て!許さんぞっ‼︎
そ、それに、貴族令嬢が一人でなど、生きて行けると思っているのか?
絶対に後悔ずるぞ!あ、後で泣きついてきても知らぬからなっ!
ま、待てっ!行くな!考え直せっ!戻って来いっ‼︎
スノウスフィア──────ッ‼︎ 」
バタンッ!
こうして、私は家族を失った。
* * * * * * *
「という訳で出ていくわ。リタ。あなたはどうする?」
「勿論お供します!」
「荷造りしておいて良かったわ。さっさと行きましょう」
「はいっ!馬車を用意します」
「いいえ、馬車はいいわ。足が付くでしょ?」
「で、ですがっ、歩いてこの荷物を運ぶのですか?」
「ふふふふっ、ちゃんと用意しているわ。こっちよ」
私室のクローゼットのドアを開けて、手招きする。
1回限り片道の転移術式の魔法陣が、床に描かれているのを見て、
リタは目を丸くした。
「これは…何処に繋がっているのですか?」
「着いてからのお楽しみ。
はあ、もっと早くこうすれば良かった…私も甘かったわ」
「お嬢様…」
「家族は大事にするものだっていう、世間体に縛られて、
ずっと決心がつかなかったの。腐っても血の繋がった肉親だったし。
それに、いつかは妹だけじゃなくて、私にも愛を向けてくれるなんて、
願望と幻想を履き違えて僅かな希望を抱いていたの。馬鹿よね、私」
「子供が親の愛を必要とするのは、普通の事です…
馬鹿なんかじゃありません」
「うん。それでね、正直言うと完全に家族と決別して、頼る人が居ない中で、
自立するのが少し怖かったのよ。でも、今回の事でいい加減目が覚めたわ。
もう、いらないわ。こんな家族」
「私が居ます。お嬢様」
「うん、ありがとう。リタ。
アイツらは、私達が玄関や裏口から出て行くと思って、
待ち構えているだろうけど、いつまでも来なければ、きっと私室に来る。
さっさと行きましょうか」
そういえば、元婚約者は終始青い顔して俯いて、一言も喋らなかったわね。
まあ、いいけど…。
もう、忘れよう。
涙も出ないなんて…私って本当に可愛くない。
リタと手を繋ぎ、転移術式の魔法陣に足を踏み入れた。
* * * * * * *
「よお、やっと俺の愛妾になる気になったか?」
「はあ?また殴られたいの?」
「おっと、まだ時間が必要だったか」
「冗談はさておき、約束は果たして貰いますからね」
「冗談じゃないんだがなぁ…ああ、分かった。
伯爵家からの除籍と独立だな?」
「そう。もう我慢の限界だわ」
「前から言ってただろうが。あんな家族からは早く離れろって」
ここは王宮の一室だ。
そう、私は王宮に転移してきた。
「簡単に言わないでよ。除籍して後ろ盾のない令嬢なんて、
狼の群れの中の羊みたいなものだし、あんなんでも私の家族なの。
でも、ずっと積もり積もった物が、今回の事で完全に限界突破したわ」
「除籍はいいとして、住む所はどうするのだ?
俺の愛妾になれば離宮にいられるぞ?」
「隣国から嫁いでくれた正妃様を大事にしなさいよ、蝙蝠男」
「ははっ、いいねぇ、その気の強さ」
「当てならあるわ。
前から打診されていた “夢渡り人” として国王の臣下になる。
あんたの側仕えは不本意だけど、背に腹は変えられない。
住処は、臣下専用の寮においてもらうわ。
ああ、それから仕事中は助手が必要だから、侍女の同伴は了承してよね」
「ほお、いいなっ!受けてくれるとは光栄だ。
よし、すぐ寮の部屋を用意させよう」
「これなら、お互い相互利益があるから文句ないでしょ」
そして、この軽薄な男は王国の国王陛下だ。
幼い頃、貴族の子供を集めた顔合わせで設けられた王家主催の茶会で、
こいつは小さな頃から悪ガキで、私の一張羅ドレスをめくったのだ。
彼がまだ王太子だとは知らなかった私は、
ドレスをめくられた事実より、お気に入りの一張羅に触られたことで、
怒りのあまり彼を思いっきりブン殴ってしまった。
それから、何故かこいつに気に入られて懐かれてしまい、
貴族学院時代もウザ絡みされまくり、腐れ縁でここまで友人みたいな
関係が続いている。
何でも殴られたのは初めてだったらしく、目をキラキラさせて、
お前が気に入ったと言われた時は、背筋が寒くなったものだ。
異性として全く意識してないし好みではないが、嫌いではない。
こいつは、王族の癖に気取ってなくて自然体で、妙に人好きする男だった。
それに権力があるし、何かと私の願いは叶えてくれる便利な男ではあるので、
私もその辺の打算で、こいつと交流しているのだ。
こうして、私は家族と縁を切り、
国王の臣下として働くことになったのだ。
スノウスフィアの “夢渡り人” の仕事を通して様々なお話を1話完結で、書いて行くつもりです。不定期でだらだらゆっくりの更新になるので、気長にお待ちください。




