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◇第三十一話 手のひら返しとはこのことを言うのか


 署を飛び出した俺は、地図を見つつ神殿を目指した。孤児の子供達を乗せたバスを追いかけた。すると、目の前に見えてきた。古代文明で出てきそうな大きな建物が。


 近くまで行くと、入り口が見えてきた。その前でさっき見たバスと、警備兵達と誰かが見える。何か喋ってるようだ。



「ですから、孤児の子達には治療費の他に身元確認をする分のお金がかかりますと申しているではありませんか」


「ですが我々は隊長の命によりここに連れてきたのですよ。そちらに引き渡す義務があります」


「こちらにも決まりがございます。決まりは守っていただけなければ困ります」



 警備兵達は顔を見合わせて、じゃあ、と頭を下げていた。おいおい、まさかこのまま帰る気じゃないよな!!


 この世界の常識は、この前転移してきた俺は知らない。でも、それでもこの扱いは間違ってるって思う。それに、ここで見過ごすのは後で後悔することは分かってる。


 だから、無意識にこいつらの間に割り込んだ。



「ちょっと待て、この子達、治療は受けられないのか」


「どなたでしょうか」



 白い装いをした、いかにも神官のような若い男性は、笑みを浮かべつつも目は上から目線のように見える。馬鹿にしていることは確かだ。


 確か、あの警備兵の人は金の亡者だと言っていた。俺の服装を見ていかにも金を持っていなさそうな平民だと判断したからこの態度なんだろうな。



「俺は、この子達の第一発見者。それより、金がないと治療受けさせてもらえないのかよ」


「我々は神の遣いです。それにはそれ相応の供物を献上しいただかなければなりません」



 ものはいいよう、ってやつか。確かに金の亡者だ。供物は、お前らに捧げるもんじゃないって俺は思うんだけど。それは神様に捧げるもんじゃないのか?



「じゃあいくらだよ」


「……」


「いくらなら診てもらえんだよ。だったら俺が払ってやる。いくらだ」



 どうせ出まかせだろ、とでも言いたげだな。どうせ払えないだろとでも思ってるんだろうな。ふざけるな、これが神の遣いだって? こんな奴ら必要か?



「まさか、俺ら平民が暮らしに困るほどの高額を言うわけじゃないよな。神様っていうのは俺らにそんな酷な試練でもお与えくださる奴なのか?」


「っ……それは女神様に対する冒涜だぞ!!」


「冒涜ぅ? んなもん怖くも何ともねぇよ! 酷いことしかしない女神様なんて崇める意味ねぇだろ! お前ら頭馬鹿なのか? 孤児なんて親がいないだけのお前らと同じ人間だろーが! そんな事も分からないんかよ!」


「貴様っ!!」


「お前に貴様なんて呼ばれる筋合いねぇ、よ……?」


「っ!?」



 その時だった。


 俺の目の前に、光が放たれた。



『やはり血は争えないですね』



 そして、どこからか女性の声が響く。それは、人間の声とは少し違う、まるで心地よく聞こえる楽器のような声だ。



『勇者アンリークの孫よ、初めまして。わたくしは天空の女神と申します』



 そして、現れた。神殿側の空から、女性が。まるで、神秘的なギリシャ神話に出てきそうな装いの、金髪の女性が。


 ……誰だお前。


 いや待てよ、天空の女神ってどっかで聞いたことのあるような……



 ______________

 【天空の女神の祝福】

 【深森の魔女の祝福】

 【深海の人魚の祝福】

 ______________




 ふと、俺のステータスを開いてみると、その文字があった。


 けれど、おかしい。さっきから光るこの光は、目の前じゃなくて頭? 額? 辺りが光っているような……?



「なっ、その額の紋章は……っ!!」



 目の前の神官が、両膝を地面に付け、両手を組み俺を見つめてきた。気持ち悪っ。


 額の紋章、ということは額に何か浮かび上がって光ってるってところだろうな。眩しすぎるしダサすぎて迷惑極まりないんだが。



「お探ししておりました! 聖者様(・・・)!!」



 ……デジャヴった。確か、とある皇とに入る門で聞いたような気がするんだが。



『歓迎いたしますよ、ルイ。さぁ、神殿の中へ』


「いや知らねぇし。てかこの額の紋章とやらをさっさと消してくれ」


『あら、気に入りませんでしたか? せっかく1ヶ月かけて考えてデザインした紋章ですのに』



 いや俺鏡ないから見えねぇし。それにそんな紋章とやらに1ヶ月もかけるんだったらこの神官達の腐った根性をなんとかしてくれ。



「あの、非常に迷惑なんでやめてもらえます? 聖者とか」


『つれませんね。アンリークとそっくりです。ですが、もしまた何かありましたらぜひ神殿にお越しください。歓迎しますわ』


「あーはいはい分かりました」



 ようやく光が収まり一安心した。良かった、でもあとで鏡で確認しないと。腕にある刺青と同じように残ったら迷惑極まりないからな。



「聖者様、もしや先程女神様とお話しなさったのですか! まさか女神様と対話をなされるとは! 歴代の聖者様を上回るほど女神様に愛されている証拠です! そんな聖者様にお会い出来て光栄です!」


「いや違ぇし、俺聖者じゃねぇし。だからそれやめてくれ」


「いえっ! 私はこの目ではっきりと見ました! あの紋章はまごう事なく聖者様の証です!!」



 ……うぜぇな、こいつ。さっきまで貴様だとか何だとかって言ってなかったか、俺に。


 これぞまさしく手のひら返し、といったところか。



「とりあえず、あの子達の治療と身元確認をしてくれ」


「かしこまりました!! では聖者様はこちらへ!」


「は?」


「聖者様は女神様により近しい存在です。聖者様のお声は女神様のお声。ですからどうか我々信者をお導きください!!」



 いやいやいや、そんな事言われてもな。こっちが迷惑なだけなんだが。


 聖者とかなんだとかって聞いたこともないぞ。何、導くとか何すりゃいいんだよ。でも面倒な事だってことはよく分かってるんだからな。


 さて、どうしたものか。



「……じゃあ、一度しか言わないぞ」


「は、はいっ!」


「神殿は、孤児を支援し導く事。いいな」


「はいっ!」


「平民や貧しい奴らから金を巻き上げるなんてことをするな。取るなら持ってるやつから取れ」


「な、なるほど……!」



 ……いや、なに素直に聞いてるんだこいつ。両手を組んで膝を地面につけんな。期待の目もやめてくれ。



「あと、俺は旅をしつつ困ってる人を助けろと女神様からお告げをいただいたから、ここにはいられない。聖者の事も他言無用だ。徹底しろ」


「かしこまりましたっ!!」



 さっきまでだいぶ女神様貶したのにいいのか、これ。けど上手くいったし、ま、いっか。


 じゃあよろしく頼むよ、そう言っておいた。


 お前らもな、と警備兵達にも口封じをしておいた。よし、これで万事解決。




 ______________


 称号:勇者の孫

    パラウェス帝国皇太子殿下

    神殿の聖者

 ______________





 俺のステータスの中にまた一つ面倒なものが追加されていたことに気が付くのはその数時間後の事である。



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