◇第十一話 あれ、意外と快適?
無限倉庫の中をチェックしていると、外が暗くなってきていた事に気が付いた。
そして、ぶら下がっているランタンの付け方をトロワに教えてもらい、魔力を注ぐと部屋がだいぶ明るくなった。日本にいた時の電気とあまり変わらないな。
やっぱり、魔法やスキルはイメージだな。
「とりあえず、風呂だな」
『一緒に入るか! 裸の付き合いってやつだな!』
『きゃ~♡』
「おい、トロワ。お前付いてこないよな」
『え、ダメ?』
「解除すんぞ」
『大人しく待ってまーす!』
「よろしい」
なぁにが『きゃ~♡』だよ、変態め。てかそもそもバリスお前服着てないだろ、何が裸の付き合いだ。
とりあえず、場所の説明とかされてないから受付の婆さん見つけて聞くか。あと、受付に書いてあったタオル貸し出し。あれも有料だったから払わないとな。取るところは取るってか。
探してみたら、食堂に行きついた。調理場か? そこから音がしてるみたいだから覗いてみたら、婆さんがいた。夕食の準備中だったのか。他のスタッフは、いないな。婆さん一人でここ切り盛りしてんのか? やべぇな、見た目70代くらいなのに元気な婆さんだ。
あの~、と声をかけたら俺に気が付いたみたいで睨みつつ来てくれた。
「何だい、こっちは忙しいんだよ」
「あの、風呂の場所と、あとタオルの貸し出しお願いします」
「風呂はそこをまっすぐ行って突き当りを右、タオルはそこから勝手に持っていきな」
ったく、こっちは忙しいってのに、とぶつぶつ言いながら戻っていった婆さん。お金、どこに置けばいいんだ?
まぁとりあえずタオルを貰ってからお金を近くに置いておいた。
聞いた通りに進んで曲がると、大きなのれんが二つ。右と左に別れていて、男の俺は左の方を使うらしい。
「おぉ、なんか古臭い銭湯みたいだな」
ちゃんと脱衣所があって、いくつか棚が並んでる。脱衣所の奥にある扉を開いたら、広い洗い場と湯舟が目に入った。へぇ、結構いいな。これなら入浴料取られても文句は言えないな。
でも、どうすっかな。この右腕の紋章。勇者の証なんだろ、これ。じゃあ絶対見られちゃいけないやつだよな。
包帯で隠してるけど、風呂に入るには外さないといけないな。これ、誰でも入れるみたいだから他の男客入ってきたら見られちゃうわけだし。
陰身魔法、は無理だな。腕が消える。色々と訳ありな感じになっちまうな。
『わ~い! 風呂だぁ~!』
「ちょっと待てぃバリス!!」
『だめ?』
「まだちょっと待ってろ」
あの調子じゃ何か壊しそうだ、ちゃんと見てなきゃいけない気がする。
しょうがないな……包帯を巻いたまま入るか。
とりあえず、バリスを捕まえて風呂場に入った。
「ほーら目ぇつぶれ~」
『は~い!』
バリスとアグスティンの陰身魔法を解いた。洗ってやろうと思って座らせてみたけど、やけに素直だな、バリスのやつ。見た目がうさぎだから、水とか洗われたりとか嫌がるんじゃないかって思ってたんだけど、別にそんな事はないのか。
それにしても、ふわふわな毛並みだからめっちゃ泡立ちいいな。触り心地もいいし。ずっと触っていたい気もする。
「おーいアグスティン、次はお前だからな」
『……』
アグスティンは苦手のようだ。アグスティンの方がやりやすいと思ってたんだけど、違ったみたいだな。
ほーら終わったぞ、そうバリスに言いつつ桶の水を上から勢いよくかけた。ブルブルブルっと身体の水を飛ばしたものだから俺にモロ水がかかる。それに気づかないバリスは楽しそうに湯船の方に走っていった。
「おい、走ると危ないぞ」
そんな俺の声は聞こえなかったらしい、楽しそうに飛び込んでいった。あーあ、あれで湯船のお湯三分の一は流れたか。ったく、しょうがないな。
「ほら、もう終わるぞ」
『……』
だいぶ静かだな、アグスティン。しかも皮膚が硬いから洗いづらいし。明日にでもスポンジを探して買ってこよう。ちょうどいいのがあるといいんだけど。
俺ら、アグスティンの背に乗ってここに来たんだけど……小さくなったアグスティンを洗ってるとなんか考えさせられるな。俺乗ってたのここだよな。
ほら終わったぞ、そう言いながらお湯をかけると、我慢していたみたいだ、すぐに湯船に入っていった。どんだけ洗われるのが嫌だったんだよ。
ま、でも暴れられなくてよかった。小さいけど暴れたら大変な事になりそうだし。俺のHPは変わらないだろうけど、ここが倒壊しちまう。
「はぁぁぁぁぁぁぁ~」
俺もすぐ身体を洗ってから湯船に。入ってみたら、湯加減最高。いいね~、ここにしてよかった。お金はだいぶ取るけど、これなら文句なし。
『わ~い!』
「うわっ!?」
いきなりバリスがバシャバシャと湯船を泳ぎだした。「こらっ!!」と捕まえたが、お湯の量がもう湯舟の三分の二まで減ってしまった。遅かったか……
「はぁ~、足伸ばせる風呂っていいわぁ……」
これが温泉で露天風呂だったらもっと最高だった。と言ってもここはあんまり人気のない、繁盛してないみたいな宿だしな。しかもやってるスタッフがあの婆さんだけときた。まぁ俺が見たのは婆さんだけって事だし、もしかしたら奥で誰か仕事してるのかもしれないけど。
ちょっと、いやだいぶ心配してたけど、案外いい宿じゃん。まぁ、大通りとかにある宿ってどんな感じなのかは分からないけど。
俺の知ってる異世界マンガとかって、風呂のない宿ばかりだった。顔を洗う水があるくらいだ。風呂は贅沢、貴族とかお金持ちだけ。っていうのが常識みたいなやつ。
いやぁ、俺の来た異世界が平民もちゃんと風呂に入れるところでよかったぁ。感謝だな。
「おいバリス、大丈夫か? 顔赤いぞ」
『そうか?』
「お前、逆上せたんだろ。あんなにはしゃいでるからだ」
ほら出るぞ、と首根っこ掴んで強制的に脱衣所に連れていった。勿論アグスティンも一緒にだ。
離せと暴れるバリスを何とかバスタオルで拭き、アグスティンも拭けばタオルがびしょびしょ。これは、もう一枚バスタオルが必要になるな。
それと、トロワはどうしたらいいかな。女の子だから、一緒に入れないしな。あとで桶でも買ってみるか。小さくなったあのサイズなら、普通の桶でもお風呂になるだろ。
「あ、そういえば、お前達って飯食うのか?」
『メシ? 食えるけど必要ないぞ?』
『我らは食事せずとも生きられるが、食事が出来ないという訳ではない。食事を楽しむ事も出来るという事だ』
へぇ、確か聖霊だったかな。食事しないんじゃないかって思っていたけれど、味とか分かるって事だよな。
「へぇ~、じゃあこの後食事する?」
『する!』
『我もするぞ』
そうか、じゃあトロワもするかもしれないって事か。でも、食堂でこいつらも一緒に食事をするってのはちょっとまずいよな。陰身魔法かけたままだと空中でメシがどんどん消えていく事になるからな。
となれば、部屋に持ってってしてもいいのか聞いたほうがいいよな。この後出たら聞いてみよう。絶対なんか文句言われそうだけど。
風呂から出れば、もう夕食の時間の少し前くらい。食堂にはまだ誰もいなくて静かだ。
婆さん、まだ調理場にいるかな。通り道の食堂から調理場を覗いてみると、姿が見えた。今度はすぐに俺を見つけ、ため息を吐きつつ来てくれた。
「今度は何だい」
「あの、夕食、部屋で食べていいっすか」
「はぁ? ここで食わないってのかい」
「賑やかなのちょっと苦手で、あはは」
「はぁ、じゃあ勝手に持っていきな」
もう準備が出来ているらしく、今持っていけ、と一体どこから出してきたのかお盆に二枚のお皿とお椀一つを乗せてくれた。おぉ、なんか美味そうなご飯だ。
カトラリーは? と聞いて眉間に皺を寄せつつ俺の立つ隣を指さして、視線をそっちに向けると小さなかごがあった。その中に、カトラリーがいくつも入っている。
ありがとうございます、いただきます、と一言残してお盆をもらった。
なぁんだ、ちゃんと言えば大丈夫じゃん。あの婆さん、なんかじいちゃんに似てるな。
『ル~ア~ン~!!』
「う”っ!?」
自室のドアを開けた瞬間、首が締まった。待っていたトロワがいきなり抱き着いてきたのだ。持っていた食事は落とさないよう回避したけど。
遅いだのなんだのと言ってくるけど、はいはいとかわした。昼間あんなに食べたけど、結構お腹空いてんだよな。
「やば、うまっ」
ここの料理も美味かった。この肉とか柔らかいし火の入れ加減もばっちりだし味付けも最高。
やっぱりここ居心地良いかも。いいとこ見つけられてよかった。
『私にもちょーだいっ!』
「好きなの持ってけ」
テーブルに乗せて食べる俺の隣に座るバリスとアグスティン。そして目の前には口を開けてくるトロワ。全員俺の食事を狙ってるのか。
大盛りにしておいたから、一応分けてやる分はある。
『あーん♡』
「はいはい」
『俺にもちょーだい!!』
「順番な」
うちの子達は我儘な子ばかりらしい。というか、アンタら俺の倍以上生きてんだよな。全然見えないんだけど。
まぁ、こんな生活も悪くないかな。




